ローマに消えた男/ロベルト・アンドー監督

映画の本筋からは離れますがあんなに簡単に心変わりする大衆ってそれが皮肉であればいいのですが

いきなり大仰な音楽に、3人の男女が大理石の床に靴音を響かせながら歩いてきます。女性の首から胸にかけての蛇のタトゥーがかなりのインパクトです。初老の男はやや疲れ気味の様子(と後から考えればの話)で大きな音(効果音)を立て鞄を床に置き靴紐を直します。そして男はトイレに行きたいと言います。

音楽はヴェルディのオペラ「運命の力」の序曲らしいのですが、まあ何とも象徴的で、これから一幕のお芝居が始まりますよといった宣言のような導入です。

イタリア最大の野党を率いる大物政治家エンリコが、重要な国政選挙を前にして突然の失踪を遂げた。(略)窮地のアンドレアを救ったのは、エンリコの双子の兄弟ジョヴァンニだった。エンリコの替え玉に起用されたジョヴァンニは、アンドレアも驚くほどの機知とユーモアに富んだ言葉を駆使し、たちまちメディアや大衆を魅了していく。(略)やがてイタリア全土を揺るがす極秘の替え玉作戦は、思いがけない急展開を見せるのだった……。(公式サイト

そうした意味、映画が作りものであるという意味ではとても良くできた映画で、身代わりものとしてもかなり面白いです。

当然映画の肝は、身代わりがいかにこれまでのイメージを覆していくかということに尽きるのですが、エンリコ、ジョヴァンニふた役のトニ・セルビッロさんがジョヴァンニ役でいい味出しており結構くすくすと笑えます。

この点は成功していると思いますが、エンリコの方の「疲れ」が、エンリコ役のシーンが多い割にあまり伝わってこず、二人の落差があまり感じられなかったですね。

そもそも年齢設定が50歳と言っていたように思いますが、ちょっと無理があるでしょう、とウィキを見てみましたら実年齢56歳!? ホントですか!? 落ち着き過ぎ(老け過ぎ)でしょう!

何を言おうとしたのか分からなくなってしまいそうですが、要はエンリコがあまり疲れているように見えなかったということです。その意味では元恋人のもとで自らの過去と出会い、気力を取り戻していく過程がよく見えなかったですね。

出演者で言えば、秘書のアンドレアを演っていたヴァレリオ・マスタンドレアさんが何と言うわけではないのですがいい感じでした。困った感じもあまり困っていなく(?)、ジョヴァンニへの親近感が生まれてもあまりはっきり出さず(?)、ダンスを誘われての照れもほどほどで、一歩引いた秘書のポジションがいい具合に出ていました。

ところで、イタリア政界といいますとベルルスコーニさん、それもスキャンダルでしか知りませんが、この映画には何か政治家への皮肉のようなものが込められているんでしょうか。

一般論で言えば、あの演説で大衆の圧倒的支持を得るところなどxxxxを思わせますし、ある種真実とはいえ、もし皮肉でないとすれば無意識的な大衆蔑視ですよね。