奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ/マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

ホロコースト生還者レオン・ズィゲルさんの語りには強い力が感じられます。一部カットされていたのが残念。

落ちこぼれの子どもたちが、先生の熱意によって何かを見出し変わっていくという物語は結構ありがちです。とはいえ、いつも感動して涙してしまいます。

それに、実話ものが多いですね。この映画も、マリック役で出演しているアハメッド・ドゥラメさんの体験がベースになっているとのことです。

まだ未見ですが、公開中の『ストリート・オーケストラ aka VIOLIN TEACHER』も、予告編を見る限りでは似たようなタイプの映画のようです。

パリ郊外のレオン・ブルム高校。落ちこぼれクラスに歴史教師アンヌ・ゲゲンが赴任してくる。ある日、アンヌ先生は、生徒たちを全国歴史コンクールに参加するように促す。「アウシュヴィッツ」という難しいテーマに彼らは反発するが、強制収容所の生存者レオン・ズィゲルの悲惨な状況を知った生徒たちは、この日を境に変わっていく―。(公式サイト

映画ですので、実際のフランスの高校生たちがどうだかは分かりませんが、落ちこぼれといえども、皆素直で真面目ですし、暴力行為も全くありません。

様々な人種の生徒たちがひとつ教室で学んだり、授業の内容にしても、キリスト教とイスラム教の対立を意識せざるを得ないというのは、フランスらしい、というよりヨーロッパらしいところだと思います。

フランスの映画という点では、冒頭に、イスラムの女生徒が、校内でヒジャブを取るように言う教師と口論する場面があります。女生徒は卒業していて何かを取りに来たような設定だったようで、口論の細部は正確にはよく分からなかったのですが、いずれにしても公立校でのヒジャブ(ブルカ?)着用は法律で禁止されているのでしょう。

ただ、多少イスラムについて読んだりした者としては、イスラムはキリスト教とは違って、宗教というより生活(生き方)規範の面が強いので、禁止というのはどうなんだろうとは思います。

そうした人種や宗教に対してはかなり神経を使い、バランスを取った作りになっている印象を受けます。

上に書いたヒジャブの件についても、どちらが正しいというスタンスは取っていませんし、ゲゲン先生が授業の中で、キリスト教の宗教画の中に、ムハンマドが地獄にいる様子が描かれていることを、絵画もプロパガンダのひとつとなり得ると教えたり、マリック(だったと思う)は黒人ですが、彼が付き合い始めた白人の女生徒の父親が、付き合いをよく思っていないカットを入れたり、イスラムの生徒間のいざこざ、多分どの程度イスラムに厳格に生きていくかの意味あいだと思いますが、そうした、多分ヨーロッパでは日常的だろうと思えることが何気なく入れられています。

ナチスの大量虐殺とパレスチナでの殺戮行為に違いがあるかどうかの議論を、ゲゲン先生と生徒の間でさせていました。この点では、パレスチナで起きている行為は戦争行為であり、ナチスの民族抹殺行為(どういう言葉を使っていたかは不明)とは違うという立場のようです。

こんな感じで、前半は、生徒たちの落ちこぼれ具合(?)に、生徒の家庭環境のカットをちらちらといくつか入れたりして、さほど大したことは起きずに進行していくだけですが、それでも結構見ていられます。生徒たちの自然っぽさとゲゲン先生(アリアンヌ・アスカリッド)の抑えた演技が良かったからでしょう。

で、後半は、素直であっても落ち着きがなく集中力を欠く生徒たちが、アウシュビッツに関する発表コンクール(かな?)へ出場する課題を与えられ、紆余曲折ありながら、(多分)実際のホロコースト生還者の体験を生で聞いたことがきっかけとなり、大きく変わっていく様子が描かれていきます。

このレオン・ズィゲルさんの語りのシーンは結構良かったのですが、途中フェードアウトを使ってカットされていたのが残念です。

ということで、こうしたシーンやコンテストでいい結果が出るラストシーンで涙を流すことになるのですが、生徒たちが何によって変化していったのかがはっきりしないことが気になります。

気になるというよりも、よく分からなかったと言った方がいいかもしれませんが、生徒たちが訪ねた記念館(碑?)がどこなのか?とか、マリック(だったと思う)が怒って入ってきた時に語っていたのは誰のことか?とか、ショア?とかが、見ながらでは整理できず、さらに、彼らがどんな発表をしたのかもカットされていましたので、もうひとつ深く理解できなかったです。

それともうひとつ、コンテストを主催している団体はどこだったのでしょう? 見終えて、公式サイトを見てもそうしたことの記述がありませんし、ショアは分かりましたが、もう少し情報提供がほしいところです。

フランスはナチスに協力してユダヤ人を迫害していますので微妙なところがあるのでしょうか。

今いろいろ読んでみますと、やはりレオン・ズィゲルさんは実際のホロコースト生還者の方で、語りのシーンはワンテークで撮ったそうです。

ちょうど日本では8月ということで、原爆被害者や戦争体験のある方の体験やそれをどう伝えていくかがテレビやネットで取り上げられていますが、やはり、こうした方の生の話を聞くことは、何かを変えていく大きなきっかけになるということですね。