ネタバレする必要もない実話を事件の当事者が演じる
クリント・イーストウッド監督、 87歳ですか。
すごいなあと思いますが、上には上がいるもので、よく知られているところでは、ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ監督は、105歳で撮った「レステルの老人」が遺作になっていますし、日本でも新藤兼人監督が、99歳だったでしょうか、亡くなる前年の2010年に「一枚のハガキ」を撮っています。
まだまだ何作か撮ることになるのでしょうが、ただ、私の場合、クリント・イーストウッドさんはやはりマカロニウェスタンやダーティハリーなど俳優としての印象が抜けきらず、監督としては記憶されているのは「マディソン郡の橋」以降です。
監督:クリント・イーストウッド
2015年に起きた「タリス銃乱射事件」を、実際にその場に遭遇し、勇敢にも犯人を取り押さえた3人のアメリカ人が自分自身を演じたという映画です。
「米空軍兵のスペンサー・ストーンとオレゴン州兵のアレク・スカラトス、そして2人の友人である青年アンソニー・サドラー」の3人です。
上の「」内は映画.comから引用したのですが、二人目のアレク、映画内でアフガニスタンに派遣されていましたのでアメリカ軍の兵士と思っていましたら州兵なんですね。連邦軍に動員されることもあるようです。
で、映画ですが、3人ともに俳優といってもいいくらい自然に演じています。
とは言っても、演じているシーンは極めて日常的なシーンばかりですので、ほとんど面白みはありません。
クリント・イーストウッド監督が、何をどう撮ろうと思ったのかはよくわかりませんが、事件であるタリス内のシーンはラストの10分か15分くらいじゃなかったでしょうか。
じゃあ他のシーンは何を描いているの?ということですが、3人の子供時代が30分くらい、成人してからが30分くらい、そして事件に遭遇するまでのイタリアやフランスなどヨーロッパ旅行の観光シーンが30分くらいといった印象です。
想像するに、どちらかといいますとクリント・イーストウッド監督は映画の完成度を重要視するタイプだと思いますので、それゆえに3人に対しても相当に演技指導をしたのではないかと思います。俳優が演じているといってもいいレベルまで持ってきています。
ただ、スターがスターである所以というのはそうしたことと次元が違います。
映画スターというのは演技の上手い下手を超えたところにいる存在です。
つまり、この映画はヒーロー的映画なのにヒーローがいないということです。
おそらく、ごく普通の人物であってもある日こうした突発的な危機に遭遇する時代であること、そしてまた、そうした人物、むしろ子供の頃は問題児であったような人物が自身の危険を顧みず勇敢な行動を取ること、人にはそうした力が内在しているのだということを、特別ヒーローものとしてではなく、また特別ドラマチックでもなく描こうとしたのだとは思います。
ただ残念ながら、それだけではなかなか映画にはならないということだと思いますし、映画的完成度を求めるがあまり逆に素人が持つ素人っぽさの魅力のようなものがなくなってしまい中途半端なものになってしまったように思います。
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