西湖畔(せいこはん)に生きる

マルチに生きるのもまた人生、タイホアの叫びが生々しい…

長編デビュー作の前作「春江水暖~しゅんこうすいだん」を見逃していますので期待を持って見に行ったのですが…。

西湖畔(せいこはん)に生きる / 監督:グー・シャオガン

西湖ってどこにあるの?

悠久の中国、自然の旅みたいな映画かと思っていましたら、なんと無茶苦茶濃い〜家族物語でした。

そもそも西湖や杭州の場所を知りませんでしたので GoogleMap で見てみました。

へえ、町なかの湖なんですね。杭州市の文字の下の湖が西湖です。世界遺産になっており結構な観光地のようです。それに杭州自体も上海から150kmくらいの町で中国的には海沿いと言ってもいいくらいです。映画からはもっと奥地の印象でした。

それでも映画始まってしばらくは山間の茶畑のシーンが続きますので中国らしい風景が見られます。杭州龍井村というところが映画の舞台であり、龍井茶という有名なお茶の産地とのことです。

龍井村も西湖からわずか数kmしかありません。そういえば映画の中に茶畑から西湖越しの大都会というカットがありました。杭州市の人口は2020年時点で1194万人です。

茶摘みから一気にマルチへ驚きの展開…

というロケーションで始まる映画なんですが、お茶の話ではありません。マルチにハマった母親とそこから抜けさせようと必死になる息子の話です。

美しい茶畑の映像に息子ムーリエン(ウー・レイ)のナレーションで状況説明があります。

ムーリエンは大学を卒業して地元に戻ってきたようです。就活中です。なかなかいい仕事はなさそうです。母親タイホア(ジアン・チンチン)は茶摘みの仕事をしています。多分季節労働者ということだと思いますが、10人くらいの女性たちが宿舎らしき部屋で雑魚寝状態で暮らしています。

タイホアの夫は10年前に失踪したらしく行方知れずです。タイホアはそれがために生活が苦しいと頻りに嘆いています。ただ、今はその茶園のオーナーのチェンと付き合っており将来を約束しているようです。

また、ムーリエンが父親を探しているらしいことが語られ、叔父に会ったとか、タイホアが会うなとか、そんな話がありますのでこのあたりの話が映画の軸になって美しい茶畑を背景に物語が進むのかな、なんて思っていましたらとんでもありません(笑)!!

映画のトーンが一気に変わります。チェンの母親がタイホアに、大切な息子がお前なんかと!といきなり追い出されます。誰かがチクったみたいな展開にしていましたが、それよりも年齢的にそんな理屈自体に無理がありますし、そこにチェンも登場しませんし、あまりにも段取り展開でびっくりです。

という前置きが30分くらい続きます。結局、映画の主目的はここからだったということのようです。

タイホアは一緒に追い出された(理由は不明…)女性に誘われて足裏シートという商品の連鎖販売取引(マルチ…)を行うバタフライ社の講習会(なんていうんでしょう…)に誘われます。

ここから1時間くらいはこのバタフライ社の自己啓発系の超ハイテンションシーンが続きます。もういいんじゃないのというくらい続きます(笑)。詳しく書くのも面倒ですので予告編の映像を入れておきます。クリックしますと32秒あたりのそれらしきシーンから始まります。バブル期のジュリアナ東京(知らないか…)みたいなものをイメージすればいいかと思います。

※スマートフォンの場合は2度押しが必要です

つくり手の意識が見えない…

タイホアがそんな感じで浮かれまくっている間、ムーリエンもまた高齢者ターゲットの際どいビジネスを行う会社で働くことになります。ただ、これはさほど詳しく描かれることはなく、すぐにムーリエンは辞めたようです。

上に引用した予告編にもあるように、ムーリエンはタイホアがマルチにハマってしまったことを知り、騙されていると説得しようとします。しかし、洗脳されてしまったタイホアは聞く耳を持っていません。ムーリエンはバタフライ社の賛同者を装い内部に潜入して違法行為の証拠をつかむことでタイホアを救出する道を選びます。

そして、それは成功し、首謀者たちは逮捕され、タイホアを誘った女性は飛び降り自殺をします。しかし、タイホアはショックから精神を病んでしまいます。

で、最後はどうまとめていたかは忘れてしまいました(ゴメン…)。

という映画なんですが、考えてみればこの映画は何をしたかったんでしょう。見ていても伝わってくるものがありません。タイホアがマルチにハマるその様を見ていても人がなぜそうなるのかもわかりませんし、ハマった後になぜあんなにも視野が狭くなってしまうのかもわかりません。

これは言うなれば、人はこんなにも馬鹿なんだよと言っているに過ぎず、しかしながら、そう言っているにしてもその悲哀も感じられません。要は、ただなんの批評性もなくその状況を撮っている映画に過ぎないということです。

さらに言えば、ドローンを使った空撮にしても、ただ過去にはできなかった、しかしながら今は可能になった技術を使って撮っている映像以上のものはありません。

と勢いで厳しいことを書いてしまいましたが、ただ一点、タイホアの叫びの生々しさにはちょっとだけ感じることもあり、なぜこれを軸にした映画にしないのだろうと思います。

ああ、それをしたら検閲を通らないかも…。この映画、きっと某当局にとってはとても好ましいものなんじゃないかと思います。