娘が父親を静かに見放す瞬間をとらえた映画
インディア・ドナルドソン監督の長編デビュー作です。現在40歳くらい、ロジャー・ドナルドソン監督の娘さんということで幼い頃から映画界には関係があったようですが、キャリアとして名前が出てくるのは2018年頃からで短編3本がクレジットされています。

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ネタバレあらすじ
この「グッドワン」は、2023年にポーランドの「TAURON American Film Festival」という映画祭で制作途中のまま発表され、その映画祭で5万ドルの支援を受けて完成されたものだそうです。
制作途中で発表ってどういうことだろうと調べてみましたら、この映画祭には US in Progress という部門があり、アメリカの独立系プロジェクトとポーランドのポストプロダクションハウスを結びつける企画のようです。2023年のその記事がありました。
その後、インディア・ドナルドソン監督はこの「グッドワン」で評価されたということらしく、現在、A24 と PLAN B の製作で「The Chaperones」という映画が制作されています。IMDb では、ポストプロダクションとなっています。
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愛する人が失望させる
17歳のサム(リリー・コリアス)が父親クリス(ジェームズ・レグロス)と父親の友人マット(ダニー・マッカーシー)とともにキャッツキル山地へ3日間のトレイルに行く話です。
ほぼこの3人の映画で、他にはマットが連れて行こうとしても頑なに拒否する息子のワンカットとトレイルの途中で出会う3人組のワンシーンがあるだけです。シーンも道中の車の中のシーンとトレイルシーンだけです。
ということもあり、特に前半は何をやろうとしているのかとらえどころがなく、あぶなく寝落ちするところでした。ただ後半になりますと徐々にやろうとしていることが見えてきますので結構おもしろく見られます。
結局のところどんな映画かをインディア・ドナルドソン監督のインタビュー記事から引用しますと、
I really wanted to show how people that you love can let you down.
(RogerEbert.com)
愛する人たちがいかにしてあなたを失望させるかを示したかったのです
当然ながらサムを失望させるのは大人たち2人という、サム視点の映画です。それがわかるのがちょっと遅すぎる感があり、前半をもう少しなんとかしていたらよかったのにとは思います。
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前半はとりとめなく…
ニューヨーク州キャッツキル山地はニューヨークから直線距離で 150km くらいの緩やかな山岳地帯で、紅葉、ハイキング、スキー、フライフィッシング、カヤックなどのアウトドア活動が盛んな場所とのことです。
サムたちはトレイルのスタート地点まで車で行き山小屋のようなホテルに一泊していました。その後キャンプを二泊ですから4日間ですね。
ホテルは2ベッドの部屋ですのでサムがどこに寝るかを迷っているシーンがあり、結局床の寝袋で寝るわけですが、こうしたシーンの意味合いがとても掴みづらいんです。サムは生理中であり、タンポンを交換するシーンが3シーンくらいありますが、これも何を見せようとしているのかよくわかりません。
また、車の中ではクリスとマットがそれぞれの過去を愚痴ったり互いにからかったりしているわけですが、その話もとりとめがなく、前半はなかなか集中できずに過ぎていきます。
今から思えば、マットがクリスの元妻であるサムの母親の話をしたり、再婚の妻との間の生まれたばかりの赤ん坊のことをからかったりすることに結構うんざりしていたのかもしれません。サムのことを同性愛者とも言っていました。サムがショートメッセージのやり取りをしていたのは女性でした。
マットはややねちっこいおっさんの設定だと思います。クリスの方はサムに対してある種父親の威厳のようなものを保とうとしています。サムが車を運転させてと言ってもさせてくれません。
トレイルやキャンプについては、クリスとサムは手慣れたものですがマットは初心者です。替えの Gパンや大きなシェーバーなど不必要なものを持ってきていますのでクリスに怒られています。なのに肝心の寝袋を持ってきていないという間抜けさです。
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後半は緊張感が増し…
キャンプ一日目は、3人組の若者がすぐ隣にテントを張ります。サムは嫌がっているようでした。サムがラーメンをつくるシーンがあり、料理担当はサムと見せる意図があるのかもしれません。
その後の焚き火を囲んでの若者たちとの会話シーンでは、男たちは互いにトレイルした場所を競い合っており、最後にはクリスが中国へ行くつもりだ(行きたいだったか…)と言い、マウントの取り合いです。
二日目のキャンプで映画の方向性がはっきりしてきます。マットが怖い話をしようと言い出し、自分が浮気をして妻が去った話をします。それがために息子が自分を嫌うようになったと嘆きます。意見を求められたサムは的確にマットの問題点を指摘します(忘れました…)。
クリスは先に寝ると言いテントに入っていきます。マットはサムが優れた観察力を持っていると褒めながら、寝袋がないので寒いと言っています。サムが焚き火を燃やしておいてあげると言いますと、マットは一緒に寝ないかと言います。
ナニ? と思うシーンですが、映画はこのときのサムの心境を明確には示していません。映像で示そうとしたのかもしれませんが、その後がちょっとチグハグです。
それ以降、クリスとサムの2人だけが歩くシーンがかなり続き、マットはいません。サムがクリスに話したシーンを見せずにその結果のシーンかと思っていましたら、そういうわけではなく、その後にサムがクリスにマットのことを話すシーンがあります。
2人が川沿いにやってきます。マットが遅れてやってきてひとり離れた場所でポツンとしています。サムが昨夜のマットのことを話しますと、クリスは軽く言い返して聞き流せばいい(という感じだった…)と答え、泳ごうと言って川に入っていきます。
このときも映画はサムの心境を明確にはせず、サムを川で泳がせています。ただ、その後、サムはひとりで川から上がり、クリスのバックパックに辺りの石を詰め込み、ひとりで立ち去ってしまいます。そして、サムがひとりで歩くシーンがかなり長く続きます。
ひとりでどんどん進んでいきますので、大丈夫か、遭難しないかと見ていましたら、トレイル出発地点の車に戻っていました。鍵がありませんのでしばらく待っていますとクリスとマットが戻ってきます。クリスはなぜひとりで行ってしまうのだと怒りを抑えながら言っています。サムは無言だったように思います(間違っているかも…)。
運転させてと言うサムに一旦はダメだというクリスですが、結局サムに鍵を渡します。運転席に座ったサムはドアのロックを外そうとしません。苛立つクリス、しばらくしてロックは解除され、乗り込むクリスとマット、サムはニヤッ(ニコっだったか…)とした表情を返します。クリスはサムがバックパックに入れた石を取り出しダッシュボートにポンと置きます。
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感想、考察:17歳の娘は静かに父親を見放す
サムの父親離れの映画ということになるんでしょうか。マットの言葉、あるいは行為が始まりではあっても、それに対する父親クリスの態度はサムを失望させるどころか、父親との関係を一変させるものです。
それでも映画はサムの心境を明確にせず終えています。馬鹿でしょうもない大人の男たちの前で、それがわかったとしても未だ取るべき態度が定まらない17歳ということなのかもしれません。
それをリアルに見せてくれているサムを演じたリリー・コリアスさんがとてもいいという映画です。現在20歳か21歳くらいのようですので撮影時はサムの年齢くらいでしょう。考えてみればサムには台詞がほとんどありません。それでこれだけの印象を残せるわけですから俳優としての才能があるということです。
映画としては小品の域を出ていませんが、後半には映画にしか出せないものが出ていると思います。
娘が父親を静かに見放す瞬間を捉えた映画でした。