地下室のヘンな穴

皮肉?教訓?ナンセンス?

「引っ越した家には12時間進んで3日若返る穴がありました」にやられて見てしまいました(笑)。

カンタン・デュピュー監督、「ラバー」「ディアスキン鹿革の殺人鬼」など過去のタイトルを目にしても何も浮かびませんので初めてだと思います。奇妙な映画を撮る監督のようです。

地下室のヘンな穴 / 監督:カンタン・デュピュー

奇妙でした(笑)

12時間進んで3日若返る? この矛盾に満ちた設定で一体どうなるんだろう? 当然、映画にその答えがあるんだろうと誰もが期待します。

答えはありません(笑)。

よく言えば、答えを期待してもそんなものあるわけはないと達観(居直り?)しているようでもあり、悪く言えば、いい思いつきだと始めてみたもののおっぽり出したんじゃないかとも言えます。

前半は時系列を入り乱れさせたモンタージュで期待を煽っており、おお、いいじゃん!と思っていますと、後半に入り、突如早回し状態になります。そしてそのまま最後まで突っ走ります。

奇妙な監督だわ…(笑)。

ネタは意外に古臭い?

アラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)の夫婦が家を買おうと下見をしています。広すぎるねとあまり乗り気でない2人に、不動産屋が、実は…と地下室に案内し、人が通れるほどの穴を指し、この穴を抜けると信じられない世界があるんですと煽ります。

3人がその穴を抜けますと、なんとその家の2階に出るのです。不思議がる2人に、不動産屋は「この穴を抜けると時間が12時間進み、3日若返ります」と言います。確かに、下見をしていたのは夜の8時半でしたが、今は日が昇っている8時半、朝です。

2人はその家を買います。穴にはあまり興味がないアランをよそにマリーはひとりで何度も穴をくぐり抜け、その度に眠っているアランを起こします。マリーは昼に入って、アランは夜なのにマリーは昼間の気分で登場するということなんでしょうか。ツッコミ無用です(笑)。

これが繰り返されます。その度にマリーは若返っていきます。まあ、映画ですから徐々にというわけにもいかずに、ある時から若い俳優に変わります。3日×何回穴に入ったの? ツッコミ無用って言っているのに(笑)。

さすがにこれじゃもたないと思ったのか、カンタン・デュピュー監督はもう一つネタを放り込んでいます。アランの勤める会社の社長ジェラール(ブノワ・マジメル)とその妻ジャンヌ(アナイス・ドゥムースティエ)を登場させ、4人そろったディナーの席で、ジェラールにあることをカミングアウトさせます。

ジェラールは電子ペニスにしたと言います。キョトンとするアランとマリーをよそにジェラールはスマホで自由にコントロールできるんだと自慢げです。ジャンヌもごく自然に受け入れています。ツッコミ無用です(笑)。

妙な穴にしてもこの電子ペニスにしても、こういう思いつきがデュピュー監督の得意とするところかもしれません。ただ、皮肉のつもりなのかもしれませんが、女性の欲望は若返り、男性の欲望は男根というのはかなり古臭い発想です。

とにかく映画はこの2つのネタに行き着くところまで突っ走らせます。

欲望の果てに…

アランがマリーに、若返ってどうするのだ? と尋ねますと、マリーはモデルをしたかったのと答え、そのとおりコンポジも作りエージェンシーに売り込みますが採用されません。そのうちに精神を病んでいきます。体の中からアリが湧き出る妄想にとらわれます。精神科病院に入院し、薬漬けの日々です。

ジェラールの方はしばらくは電子ペニスも好調(?)で次々にパートナーを替えていきます。車も次々に替えていきます。しかし、ある時、電子ペニスが故障します。修理は日本に行かないと出来ないと言い飛行機で飛んでいきます。

なぜ日本なんでしょうね? ハイテク、エロ(浮世絵?)イメージ? そんなところかと思いますが、でもエロはともかく、今の日本はハイテクじゃないですよ。今は中国です。このシーンでは日本名の俳優さんが3人登場していました。

復調後のジェラールはやはりパートナーを替え、車を替えていきます。男の欲望は女と車ってことなんでしょうか。さみしい話ですが、その行き着く先です。運転中に電子ペニスがショートし、発火して焼け死にます(多分)。

教訓話? 皮肉? ナンセンス?

ラストシーン、アランは湖のほとりでひとり悠然と釣りをしています。マリーは心を病んで入院しています。ジェラールは亡くなっています。

欲望のままに生きれば碌なことはないよということですとあまりにも直接的ですし、かなり古臭い発想ですので、おそらく、面白いことを思いついたので何はともかくやってみようということじゃないでしょうか。

この映画を教訓話や皮肉としてとらえなければ、すべてのことに意味付けのない映画ということになり、それはそれナンセンス映画としてみれば面白い映画ということかもしれません。