グリーンランド、人口80人の村の実在の人々が演じるドラマ
グリーンランドの物語です。
といっても、そもそものグリーンランドの位置をイメージしようとしても、北欧の…アイスランドの…と、(私は)その程度の曖昧さで終わってしまいます。その意味では、こういう映画は、それを機にいろいろ調べたりすることを含めて、知らないことを知るいいきっかけになるかと思います。
地理というものはどうしても自分が暮らしている地点を中心に考えてしまいます。グリーンランドから地球を見るとこうなるんですね。それにヨーロッパから語られることが多いせいか、こんなにカナダに近いことを知りませんでした。
1953年まではデンマークの植民地でしたが、現在は自治政府を持つ自治領ということです。財政的にはデンマーク本国からの補助金が予算の半分から3分の1(記事により幅)を占めているそうです。
そうした背景があり、映画では、デンマークから人口わずか80人の村に赴任した教師アンダースと村の子供たちや住人との交流を描いています。
つくりはドラマですし、見ている時もまったく違和感はなく、俳優が演じているのかなあなどと考えていたんですが、そうではなく、すべて出演者は実名で登場する本人たちということです。
実際、公式サイトによりますと、サミュエル・コラルド監督がグリーンランドに魅せられ映画を撮ろうと思っていたところ、
デンマークから新人教師が赴任するという話を聞き、その青年を中心に据えることに決め、1年の撮影期間を要して完成させたのが本作
ということらしく、じゃあドキュメンタリーかといいますとそういうわけでもなく、コラルド監督の脚本によるドラマということです。
もうひとり、脚本にクレジットされているカトリーヌ・パイエさんのキャリアを見てみましたら、「愛について、ある土曜日の面会室」の脚本にも参加している方でした。
映画は、デンマークで家業の農業を継ぐべきかと迷っているアンダースがグリーンランドでの教師の職に応募するところから始まります。 赴任先の候補地が3ヶ所あり、担当官が、幸いヌーク(首都)に空きがあると当然ヌークを選ぶだろうというところを、アンダースは最も厳しい環境の人口80人のチニツキラークというイヌイットの村を選びます。
教師の主な役割は、子供たちが将来、町、あるいはデンマーク本国に出た場合に困らないようにデンマーク語を教えることらしく、アンダースがグリーンランド語を覚えるつもりだと言いますと、担当官は、その必要はない、自分も10年間それで通してきたとアンダースの考え方を否定します。
という始まり方ですので、この映画のテーマが、欧米(だけではないけれど)的、あるいは先進国的な価値観や文化の押しつけでは人と人のつながりは生まれないということなのは最初にわかります。
ただ、そうした文化の衝突や争いを描こうという意図はまったくないようで、それこそそうしたテーマを押し付けてくるようなところはありません。俳優ではない本人たちが演じていることもあり、とても自然に気持ちよく見られます。
アンダースには高圧的なところはありませんし、さすがの厳しい環境にめげたり、子供たちが言うことを聞かないことへの、そりゃあれだけ騒がれたら誰でも怒鳴りたくなるよと思えるようなシーンがあったりして、アンダースがかわいそうになるくらいです。
おそらく、かなり大量に撮って編集でまとめ上げたものではないかと思います。当然ながら、テーマ的にもさほど突っ込んだところがあるわけでもありませんし、個々の人物像として強く訴えてくることもありません。
それが狙いじゃないということです。圧倒する自然の描写がそれに変わる力を持って訴えてきます。
人の足跡も車の軌跡も、まったく何の形跡もない雪の上を犬ぞりが走っていくドローン映像、どうやって撮ったのかと思うほどの猛烈な吹雪、そして、イヌイットたちの生活シーン、たとえばおばあちゃんが孫にアザラシの解体を教えるシーンは実際に内蔵を取り出したりします。
コラルデ監督は、撮影監督のキャリアも長く、この映画も自分で撮っているようです。その点でもかなりドキュメンタリーっぽいです。チニツキラークに一年間村人たちとともに暮らしたからこそ撮れた画ということでしょう。
で、アンダースはと言いますと、グリーンランド語も学び、ラストシーンでは、割と映画の軸になっているアサーくんとおばあちゃんと一緒に何か(アザラシの干し肉? 魚?)を食べていました。すっかり馴染んだということです。
アンダースは現在でもチニツキラークで暮らしているとスーパーが入り、映画は終わります。
ああ、オーロラの映像もありました。
アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章 (エリア・スタディーズ140)
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