私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

イザベル・ユペールさん、出ています!

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? / 監督:ジャン=ポール・サロメ

イザベル・ユペールさん、出ています!映画…

この映画を宣伝するコピーがあるとすれば「イザベル・ユペールさん、出ています!」しかないないでしょう(笑)。

邦題になっているモーリーン・カーニーさんがどんな人かも語っていませんし、そのカーニーさんが逮捕された容疑が冤罪であるかどうかも語っていませんし、そもそもカーニーさんが告発しようとしたらしいフランスの原子力企業アレバのスキャンダルがなにかも語っていません。

とにかく、全編、イザベル・ユペールさんを撮り続けているだけの映画です。

まあそれだけ、イザベル・ユペールさんの俳優としての存在感があるということでしょう。

映画から事件を判断しないほうがいい…

原題の「La Syndicaliste」は、カタカナ表記にすれば「サンディカリスト」となり「労働組合運動家」というような意味で、現実的には労働組合の役員を指すのかと思います。

フランスは代々労働組合が強い国だと思っていましたが、今ざっと調べましたら労働組合の組織率は 7%とか 8%とか(正確ではない…)、かなり低いですね。ただ、労使で結ばれた労働協約の適用率は90%を越えているそうです。

日本ですと、厚労省が2022年のデータとして発表している組織率は 16.5%で、よくニュースに登場する連合は 10%くらい(正確ではない…)です。労働協約にしても労使協定にしてもその組合の範囲内だと思います(未確認…)。

話がそれましたが、映画は、フランスの総合原子力企業アレバ(現オラノ)社の労働組合役員モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)が、アレバに中国への原子力技術移転の秘密契約があるという事実を内部告発したために脅迫を受け、ついには性的暴行を受けて6時間椅子に縛り付けられたまま放置されたという事件を描いています。

映画はとにかくモーリーン・カーニーを、というよりもイザベル・ユペールさんを撮り続けていますので、そもそもの内部告発事実がはっきりしませんし、何が問題なのかもわかりません。

映画はその事件のシーンから始まり、そしてその何ヶ月か前に戻り、アレバの社長交代により、新社長とカーニーの間に対立関係があると見せて、何やら陰謀的なものがあるようにも描いています。ただ、何度も書きますがまったく具体的ではありません。

そこらあたりまでが映画の1/3で、残り2/3は事件の捜査が進むにつれ事件そのものが自作自演ではないかとの疑いが生まれ、結局、数カ月後に逆にカーニーが捏造の罪(正確ではない…)で逮捕され、カーニーが捏造を自ら認めて有罪判決を受け、さらにその後控訴して無罪判決(だったか曖昧…)を受けるまでが描かれます。

そして、映画は最後にまだ確定していないというようなことをスーパーで流していました。

とにかく、いろんなことが曖昧すぎてこの映画から事件そのものをどうこう判断するのは危険すぎます。

「イザベル・ユペールさんが出ていました」で済ませておく映画です。

なぜ、これが劇場公開されるのか…

洋画の買い付けが具体的にどう行われるのかはわかりませんが、基本的にはいい映画であることと採算が取れることのバランスで選択されるんだと思います。

洋画の買い付けは最近特に難しくなっているように思います。洋画で客が入るのは俳優や監督で注目度の高いものに限定されるでしょうし、ハリウッド系でもそう簡単じゃないように思います。ハリウッド以外ですとカンヌなどの映画祭で何らかの受賞がないといくらいい映画と思ってもなかなか決断できないというのが現実かも知れません。

で、この映画はイザベル・ユペールさんということなんでしょう。

でもねえ…。というしかなく、こうしたフィルターがかかった映画しか見られないというのも悲しい限りです。買い付けを担当される方には頑張って欲しいものだと思います。