(DVD)キャスティングの妙と原作があったほうがいい石井裕也監督
とうとう映画館が休館になってしまいました。
Change.org で「#SaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」プロジェクト」オンライン署名キャンペーンが始まっています。
キャンペーン · #SaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」プロジェクト · Change.org
しばらくは見逃している映画の DVD鑑賞となりそうです。
石井裕也監督ということでレンタルしたんですが、原作は「別冊マーガレット」に連載された安藤ゆきさんという方の漫画だったんですね。知りませんでした。
大笑いしました(笑)。
これはキャスティングの妙ですね。
基本の物語は町田くん(細田佳央太)と猪原さん(関水渚)の青春ラブストーリーですので正直それだけではとても(私には)持たなかったでしょう。ましてや基本テーマは人の善意と悪意みたいな教訓的なものですので普通ならちょっと引いていたと思います。
しかし、ふたりの周囲のキャラクターが救ってくれました。
前田敦子さん、太賀(仲野太賀)さん、高畑充希さん、岩田剛典さん、池松壮亮さん、この5人が映画を支えています。他にも佐藤浩市さん、松嶋菜々子さん、戸田恵梨香さんという主役級がちょい役で登場します。
プロデューサーの北島直明さんというのは日本テレビの方らしく、だからできたキャスティングかもしれません。主演のふたりを新人で組んでいるところもうまいですね。人物配置のバランスがとても良く、映画に安定感があります。
町田くんは無茶苦茶いい人で誰かが困っていればすぐに助けに行きます。通学のバスでは高齢者や妊婦さんに席を譲り、ぼんやりしていて気づかないときには気づかなくてごめんなさいと言って譲ります。重いものを運んでいる人がいれば走っていって手伝います。いじめられている子がいれば相手が誰であろうと恐れることなく止めに入ります。
町田くんはファンタジーであり寓話的な人物です。
猪原さんは家庭環境(母親の不倫とか言っていた)からか世をすねて人との関わりを避けています。別にいじめられているわけではなく内気というわけでもありません。現実的な女子高生キャラです。
つまり、猪原さんは現実的な人物です。
ちょっとした出会いから猪原さんが町田くんに恋をします。しかし、町田くんは誰にでも優しく、猪原さんはそれが耐えられません。町田くんには特別な人という感情がわかりません。
つまり、ファンタジーと現実がリアルな接点をもつことはできないということです。どちらかが相手の領域に移るしか方法はありません。
その過程、つまり、このふたりの恋が成就するまでが描かれるわけで、そこにまわりの人物が絡んでくるという映画です。
そのまわりの人物たちが笑わせてくれます。
まずは前田敦子さん、無茶苦茶はまっていますし、本人もやっていて楽しかったんじゃないかと思います。
なかなか説明が難しいキャラクターで、大人びた高校生ということなんですが、実年齢の27,8歳そのままで演じているのに高校生でも違和感ないという感じの、台詞も面白く、主演のふたりの恋の行方を天からじっと見つめつつ、普通ならもう結婚だなとか、普通ならもう子どもできてるなとか、ああ、10年くらい留年した高校生って感じですかね(笑)。
太賀さんも実年齢27,8歳です。ハイテンションであつ~い高校生を演じています。猪原さんに告白しようとして町田くんに手紙を出してしまい、3人でデートすることになり、結局ふられます。ふられてもハイテンションのままです。こちらも10年留年した男子高校生みたいなキャラクターです。
この二人が無茶苦茶笑わせてくれます。
高畑充希さんと岩田剛典さん、この二人も27,8歳と30歳くらいです。
岩田さんはモデルもやっているモテキャラを気取っていますが、実はモデル仲間からも疎外されておりモデルとしてもいまいちという役柄です。
高畑さんは岩田さんにふられ、町田くんの優しさにいっとき町田くんに告白してしまうという役柄で、他の人物はみなパターン化(マンガ化)されているのですが、この人物だけはややはっきりしないキャラクターです。町田くんに近づくのも計算ずくのようなところもある割に、岩田さんにすがったりして純情さが見えるところもあり、純情キャラなのか打算キャラなのかはっきりしていません。
池松壮亮さんは週刊誌記者です。ゴシップネタばかり追いかけている自分に嫌気が差しています。ひそかに「この世界は悪意に満ちている…」なんて自虐的なエッセイを書いています。
しかし、ある日町田くんを見かけ、悪意というものとは程遠いその人物を知るにつれ、次第に考え方が変わっていきます。
今彼は、ある女性タレントの男性との密会を追っており、ついにその現場写真を押さえます。編集長から急かされますが、それを公開すべきかどうか迷います。
という脇の人物たちがとてもうまく物語を進めてくれます。そしてクライマックス、猪原さんは自分の思いが伝わらない、伝わっているかどうか実感が得られないと、町田くんに別れを告げて留学の道を選びます。
町田くんには恋をする、ある人が特別に見える感覚が理解できません。でも、猪原さんのことは最初に会ったときからずっと好きだったようです。ある瞬間それに気づきます。
長くかかったけれでも恋とはそういうものでしょう(笑)。ファンタジーの世界から現実に戻るときです。
猪原さんがイギリスへの留学に向かおうという電車の中(ここは普通、エアポートでしょう)です。池松さんが猪原さんに気づき、これを読んでほしいと自分の書いたエッセイを差し出します。
そこには「町田くんの世界」と書かれ、書き出しは確かに「この世界は悪意に満ちている…」で始まりますが、それに続く言葉は「ほんとうにそうだろうか。町田くんの見る世界はきっと美しいに違いない。」に変わっているのです。
池松さんは、女性タレントの密会現場の写真の代わりにこのエッセイを編集長に出したけれどもだめだった、人間は善意よりも悪意のほうが好きなんだと言われたと言います。
その時、猪原さんは電車の外に風船に乗って自分を追いかけてくる町田くんを見つけるのです。
空に浮かぶ町田くんに飛びつく猪原さん、ふたりはしっかりと抱き合い、そして風船が割れ、ふたりはプールに落ちていきます。
現実がファンタジーの殻を破った瞬間です(笑)。
「猪原さん、君が好きだ」
「私も」
だそうです(笑)。
石井裕也監督の映画は、「川の底からこんにちは」「舟を編む」「夜空はいつでも最高密度の青色だ」の三本見ていますが、「川の底」と「夜空」は(私には)全然ダメで、「舟を編む」が良くて、この映画も大笑いさせてもらったことから考えますと、原作があったほうがいい映画になるということじゃないかと思います。ダメだった(ペコリ)二作は石井裕也監督の脚本でした。
シナリオがしっかりしていればいい映画を撮る監督というまとめになりました。