女性への性差別、抑圧を視覚化するニナ・メンケス…
今回が日本初公開となる1986年の映画です。「ニナ・メンケスの世界」という企画で3作が上映されており、他に1991年の「クイーン・オブ・ダイヤモンド」、そして2022年の「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」が公開されています。
コンセプチュアル・ヴィジュアル・アートのよう…
この映画でニナ・メンケス監督という方を知りました。1963年生まれですので現在60歳くらいの方です。いわゆるエンターテインメント系の映画を撮る監督ではなくアカデミックな研究者のような印象です。現在はカリフォルニア芸術大学で教えているそうです。
で、この「マグダレーナ・ヴィラガ」ですが、どういう映画か説明するのはとても難しく、率直なところ、一般的な映画を見ようと思って行きますとかなり疲れるのではないかと思います。私はある程度予想して見に行ったのですがそれでも疲れました(ゴメン…)。
映画と言うよりも、現代美術でいうコンセプチュアル・ヴィジュアル・アートのようなところがあります。
ストーリーはあるようですが、そのストーリーが単純化されて幾度も反復され次第に記号化されていく作りになっています。
時系列では進みません。娼婦のアイダ(ティンカ・メンケス)が客をとるためのクラブ(ダンスホール?…)のシーン、アイダが一切の感情を押し殺したまま男にされるがままになるホテルのシーン、客なのか男が殺害されるシーン、アイダが殺人容疑で逮捕され留置されるシーン、同じく娼婦と思われるクレアに詩的な言葉で話しかけるシーン、それらが時系列的には関係のない脈絡で幾度も反復されていきます。
メアリー・デイリーの詩の引用とフェミニズム…
この映画はこういうことを表現しているといってみたところであまり意味はありませんし、実際よくわかりません。それぞれが感じることでいいのでしょうし、解説文を読んでああそうかと納得してもいいと思います。
ニナ・メンケス監督の個人サイトにはこんなことが書かれています。
Story of A Red Sea Crossing. Shot in the bars and seedy hotels of East LA, this film is about the inner life of a prostitute imprisoned for killing her pimp.
(MENKESFILM)
Tinka Menkes brilliantly portrays the emotionally frozen prostitute on a circular inner journey, as she battles at the walls which surround her—both material and psychic.
これは紅海を渡る(モーセがエジプトからヘブライ人を率いて紅海を割って逃れたという出エジプト記にある話のこと)物語です。東ロサンゼルスのバーや怪しげなホテルで撮影されたこの映画は、ポン引きを殺害した罪で投獄された娼婦の内面を描いています。
(アイダを演じた)ティンカ・メンケスは、感情的なものを閉ざした娼婦が、物質的にも精神的にも自らを取り巻く壁と戦いながら、内省的な旅を続ける様を見事に演じています。
この映画、かなり宗教性の強いところがありますのでどういう背景があるのかと思い、ニナ・メンケス監督のインタビューを読んでみたのですが、メンケス監督の両親は子どもの頃にナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人ということです。それが関係あるかどうかはわかりませんが、この映画制作のひとつのきっかけとなっているのは、メンケス監督自身の6週間のイスラエル訪問(研修のようなものらしい…)で、その学校では男女が完全に分離されており、期間中も男性に会ったことがないといいます。
メンケス監督はそこで、正統派ユダヤ教が本質的には性差別的で抑圧的であることを実感したそうです。そして、それを機にメアリ・デイリー(Mary Daly)を読み始め、そしてこの映画のシナリオを書き始めたということです。
実際にこの映画のスクリプトにはメアリー・デイリーの詩の一節が引用されているそうです。
メアリー・デイリーは「1968年に最初の著書『教会と第二の性』を発表。歴代教皇の文書に基づき、カトリック教会は家父長制的であり、家父長制社会を正当化し、女性の抑圧に加担してきたと批判した(ウィキペディア)」アメリカの哲学者、神学者、著述家、そしてラディカル・フェミニストです。
他にもガートルード・スタイン、アン・セクストンの詩が引用されているそうです。
映画には様々な宗教画が使われていますし、じっくりスクリプトを読み込めば、いろんなことが見えてくるんだろうと思います。なにせタイトルがマグダレーナですからね。
ただ、いずれにしても直感的に何かが感じられる映画ではありません(人によりますが…)。