マーティ・シュプリーム 世界をつかめ

自らがユダヤ人であることにこだわっていることの真意はどこにあるのだろう

ティモシー・シャラメさんの主演で実在の卓球選手マーティ・リーズマンの人生に着想を得てとなっている映画です。監督は「グッド・タイム」「神様なんかくそくらえ」のジョシュ・サフディ監督です。ただその2作は弟のベニー・サフディさんとの共同監督だったんですが、この映画は単独監督です。

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ / 監督:ジョシュ・サフディ

ネタバレあらすじ

上映前に弟のベニー・サフディ監督の「スマッシング・マシーン」の予告編が流れていました。こちらは昨年2025年のヴェネチア国際映画祭で監督賞の銀獅子賞を受賞しています。

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出演者として大沢たかおさん、金メダリストで格闘家の石井慧さん、光浦靖子さん、それに布袋寅泰さんもクレジットされています。予告編ではリングの上で演奏するカットがあります。

で、この「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」です。こちらは今年のアカデミー賞に9部門でノミネートですか、兄弟ともに才能があるということでしょう。

ティモシー・シャラメさんは2年連続3回目の主演男優賞ノミネートです。すごいですね。前作の「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」もすごかったんですが、この映画でもとことんクズ男を演じきっています。ほんとすごい俳優さんです。

まだ30歳、燃え尽きなきゃいいんですけどね。

ティモシー・シャラメのクズ男っぷり

ただ、映画としては物語を楽しむような映画ではありませんし、スカッともしません。ジャンルとしてコメディに入るんでしょうが、日本的価値観でいきますとあまり笑えないんじゃないでしょうか。むしろ嫌な感じとか後味の悪さみたいなものが残るかも知れません。人によるにしてもそういう映画です。

卓球がメジャースポーツとはいい難い1952年のアメリカ、ニューヨーク、全米チャンピオン(と言っていたと思う…)のマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)でさえ叔父の靴屋で働きながらの選手生活です。渡航費用さえないそのマーティがあらゆる手、本当にあらゆる手(です(笑)…)を使って全英オープンに出場します。しかし決勝で日本のエンドウ(川口功人)に破れ、今度はリベンジとばかりに日本での世界選手権大会でエンドウと対戦するために、これまたあらゆる手を使って日本へ行こうとします。結局、ペンメーカーの販促エキシビションマッチでエンドウに負けることを条件に日本行きは叶ったものの世界選手権には出場できず、モヤモヤが爆発して今のはヤラセだとバラし、エンドウに真剣勝負を挑んで最後は勝利します。

という基本プロットのアメリカ映画であれば、最後の逆転勝利で涙の感動!となるんじゃないかと思いますが、この映画はそういう映画ではありません。そもそも最後の試合も野外ステージでのエキシビションマッチですので設定自体がチープですし、映画にも盛り上げようという意識は感じられません。それに勝ったところでスポンサーの意に反したことをしたわけですからアメリカに帰る手立てもなく、たまたま観客でいた米軍の飛行機に乗せてもらって帰るしかありません。

ジョシュ・サフディ監督が見せようとしているのはそうしたありふれたドラマではなく、とにかくティモシー・シャラメさんの徹底的なクズ男っぷりのようです。舌先三寸の押しの強さで、人は騙すわ、女は口説くわのイケイケクズ男です。そうやって人を踏みつけにしても反省などせずただただ前へ前へと進むことしか考えていません。

がしかし、ラストシーンで意表をついてきます。アメリカに戻ったマーティは、おそらく単なる欲求として寝ただけと思われる友だちの妻との間に出来た子どもと対面して涙を流すのです。

笑えないドタバタ

押しの強さと舌先三寸のクズっぷりをいくつか。

叔父の靴屋で働くマーティ(ティモシー・シャラメ)は客の希望のものにはサイズがないと言い、高いもの(多分…)を売りつけようとし、仕事中に友だちの妻レイチェル(オデッサ・アザイオン)をバックヤードに連れ込みセックス、叔父がロンドン行きの700ドルをくれないからと同僚を脅して金庫から出させて盗みます。

ロンドンでは卓球協会の会長に滞在ホテルがひどいと速射砲のように言い募り、どうやったのかカットされていましたがリッツのスイートに泊まることになり、たまたま見かけた引退した有名俳優ケイ(グウィネス・パルトロウ)の部屋にいきなり電話をして、それこそ舌先三寸の話術で気を引き、翌日の全英オープンを見に越させます。

準決勝ではディフェンディングチャンピオンを圧倒し、相手も負けを受け入れたのでしょう、互いにアクロバティックな打ち合いを見せて会場を沸かせます。ケイはおそらくその姿を俳優の目で見て引きつけられたのでしょう。その後自らマーティの部屋を訪れます。

ケイの夫は大手ペンメーカーのオーナー ロックウェル(ケビン・オレアリー)です。それと知るやこれまた言葉巧みに近づき、卓球をスポーツと思っていないロックウェルにアジアでの卓球人気を語り、日本の選手のラケットの持ち方はペンホルダーだから必ずペンを売り込めると持ちかけ、自分を日本へ行かせてくれとスポンサー契約を求めます。しかし、これは失言で失敗します(息子の戦死のことなんだけどよく分からなかった…)。

ニューヨークに戻ったマーティ、これ以降はかなりドタバタ喜劇風の展開になります。ただ笑えるかどうかはあなた次第です(笑)。

ロンドン行きのための700ドルを盗んだことからの大騒ぎに、レイチェルが妊娠したことからの大騒ぎに、友人のタクシー運転手とのバスタブ落下騒ぎに、その下敷きになった老人と犬の行方不明騒ぎに、レイチェルと犬を探し回る大騒ぎに、そしてケイがマーティの影響なのか俳優として復帰したことからの大騒ぎにと、ああ忘れていたました、かなり早い段階で友人にオレンジ色のピンポン玉をつくらせたことからの大騒ぎもありました。

ティモシー・シャラメさんの熱の入った演技ゆえに逆に笑えないドタバタが続きます。

誰もが世界を支配したがっている、が…

と、マーティはあれこれまわりの人たちを欺き続けて、それでも日本行きの旅費は捻出できず、マーティらしくない行動に出ます。

ロックウェルに詫びを入れてエキシビションマッチへの出場と引き換えに日本への旅費を要求します。ロックウェルはマーティに卓球のラケットでのスパンキングを受け入れればと条件を出し、マーティはそれを受け入れておしりを出して3発、4発と打たれます。

また、犬を巡るレイチェルを絡めた騒ぎは続いています。大したことではないのですがレイチェルでオチをつけるための扱いだと思います。

そして日本です。しかし世界選手権には出られず、すでに書きましたエキシビションマッチでの勝利となります。

その姿は、どちらかと言いますと打ちひしがれたマーティです。そして子どもとの対面となり、ティアーズ・フォー・フィアーズの「Everybody Wants to Rule The World」が流れて終わります。

タイトルの意味は「誰もが世界を支配したがっている」、もちろん否定的な意味合いです。

その他1980年代の音楽が多く使われています。ジョシュ・サフディ監督は1984年生まれですからリアルタイムで聞いていたわけではないですね。

感想、考察:ユダヤ人であることのこだわりか

と、一見ジェットコースター・ムービーのつくりなんですが、中盤のドタバタが行ったり来たりで煮えきらず、ハラハラドキドキ感もなく、ただただくどいなあという展開が続きます。

おもしろくなるはずの映画なのにおもしろくなく終わってしまったということです。

ユダヤということを理解できていないからかも知れません。ユダヤに関わる話がかなり多い映画です。ピラミッドの石を盗んできて母親にプレゼントだと渡す時に「僕たちが建てたんだからいいんだ」と言っていました。

結局のところ、ハリウッド的シンプルさに徹しきれずに屈折した思い(よくわからないけど…)にこだわり過ぎたジョシュ・サフディ監督ということだと思います。

ラストの挫折と希望のシーンがあってもです。

この映画には第二次世界大戦時のナチスや日本への言及がかなりあります。マーティは記者たち(だと思う…)に自分はユダヤ人だと言い、「自分はヒトラーが結果として生み出してしまった最高の存在だ」とアピールします。ちなみにジョシュ・サフディ監督はユダヤ人です。

ロックウェルとのやり取りでは、息子が南太平洋で戦死したというロックウェルに「やつらの頭上に3発目の原爆を落としてやる」と言っています。日本へ行きたいがためです。

また他者を侮辱する台詞も多く使われているようです。それに卓球のラケットでスパンキングだとか、エキシビションマッチの敗者は豚とキスだとかの悪趣味な設定もあります。

問題はその意図が見えないことです。過去の映画「グッド・タイム」「神様なんかくそくらえ」でもそうですが、なにか屈折した感情が感じられる映画と感じます。

ユダヤ人であることを利用していることはないのでしょうか。もちろん完全なる憶測です。