一部ホラーも徹底すればコメディになる
DVD鑑賞です。
劇場公開時(2020年2月21日)にはかなり話題になっており、何度も見ようかどうしようかと迷った映画です。結局、前作「ヘレディタリー 継承」の自分自身のレビューを読み返して足を運ぶ決断ができなくDVD鑑賞となりました。
ですので、以下、映画の評価の高い人が読んでもつまらんです(笑)。
これ、面白いですか?
と言いながらも、ダニーたちがスウェーデンに入るまでの20分くらいは結構期待しました。おお、入り方が無茶苦茶うまいじゃん! みたいな感じでぐーと引き込まれそうになりました。最後までこういうシリアス・ホラーでいけばいいのにね。
入りはシリアス・ホラー、サスペンスタッチ
…だったなあと思いながら見返してみましたら、幕開けだけはそうでもなく、
こんなふうに、劇場の幕が開くような入り方をしています。緞帳のようなタペストリー風の絵画ですね。そこに ♪タラララ~ン ♪タラララ~ン と、これはおとぎ話ですよと宣言するように音楽が入ります。
ググれば誰かが書いていると思われますので調べませんが、おそらくこの絵の中にもいろいろな意味が込められているのでしょう。印象としては、神話的にも見えますし宗教的でもあります。
幕が開いた中央の風景はスウェーデンの冬景色かと思いましたが違いますね。ダニーの家族が暮らすミネソタ(らしい)の冬の風景じゃないかと思います。
北欧の神話風の曲が女声のアカペラで入ります。続いて暗闇に電話の音、留守電になります。ダニーの実家です。ダニーが、妹のテリーから気味の悪いメール(scary e-mail) が入ったんだけど連絡がつかないの、そっちは大丈夫? と両親にメッセージを残します。その間カメラは暗闇をパンしていきます。
もう間違いなく死んでますわね。
ダニーの住まいです。こちらもわざとらしく(笑)暗くしてあり、ダニーの不安げなアップの映像が続き、ボーイフレンドのクリスチャンへ電話します。その会話がまたお互いに何かが引っかかっているように噛み合わず、見ていても不安が増幅します。クリスチャンがダニーの精神的不安定さに辟易しているということです。
続いて、今度は女友達に電話をしてクリスチャンがわかってくれないとか、自分が重荷になっているかもと不満や不安をぶちまけるんですが、このあたりの映像もうまいです。なにかが起こることはわかっているんだから早くしてよ!みたいに緊張させられます。
そこに unknown の着信。ああー来た! と思いましたら、シーン変わって、クリスチャンが友人たちにダニーのことを愚痴っているシーンを入れてもったいぶります。そのシーンがまた暗くてテーブルだけ明るくそれぞれの顔は片明かりなんです。なんでそんな暗いところで話してんだよ! と言いたくなるわけです(笑)。それにその店の壁には PLAYBOY のピンナップガールのような写真が貼ってあるのをわざわざ見せています。そしてダニーからの着信。クリスチャンが出ますと悲鳴が響きます。
サイレンのようにも聞こえる単音の耳障りな音楽が入り、暗闇に時々赤い灯りが光るダニーの両親の家をパンしていきます。このシーンも暗いんです。防護服に身を包んだ警察が死体処理をしているようで、死体を包む袋のファスナー音がシャー!と入ります。そして、妹のテリーがガス管(車の排気ガス?)を加えて横たわる姿がかすかに見えます。
ダニーの泣き叫ぶ声に共鳴するかのように音楽の調子が高まっていきます。カメラは降りしきる雪が見える窓にゆっくりとズームインし、暗闇を背景にオープニングクレジットが入ります。
なんでこんな詳しく書いているんでしょう?
気に入ったからです(笑)。こういう入り方好きですね。
その後もしばらくはうまいです。
時間経過がわかりませんが、ダニーの住まい、窓からの街並みから室内にゆっくりパンしますと、ベッドに横たわるダニー、その上にはでっかい動物と少女を描いたファンタジックな絵が掛けられています。
それにしてもダニーはどういう生活環境なんでしょうね? ベッドルームも別にあるようですし、かなり広く、窓からの環境も良さそうですし、リビング(かな?)にもそれなりに良さそうな絵が掛かっていましたし、クリスチャンと暮らしているわけでもないですしね…。
気晴らしにクリスチャンと一緒にクラブへ行き、クリスチャンが男友達4人でスウェーデンの夏至祭に行くことを知ります。それを話さなかったことでひと悶着あります。
後日、誰の家かわかりませんがクリスチャンら男4人がいます。ここも学生の住まいには見えませんがとにかく、正面に鏡のようなよくわからないボードがあり、手前のソファーに座っていたクリスチャンが立ち上がってもそのまま固定の構図で鏡に薄っすら写ったクリスチャンと3人に会話をさせています。
カメラが写っていないです。別撮りで入れているんですね。
男たちはスウェーデン行きについて話をしていたのですが、クリスチャンがダニーを誘ったと告げると気まずい雰囲気になるというそんなシーンです。ここにダニーが入ってくるわけですが、しばらくはこのカットのままダニーを鏡に写して進みます。
この後ダニーとスウェーデンから来ているペレとの切り返しがアップで続きますが、そこでもダニーを鏡に写し込んでいます。
で、下のカット。最初に流して見ている時に、ん?とすごく気になったんですが、何だったんでしょう? 差し込む光? 微妙に崩れたシンメトリー? よくわかりませんが編集の流れに違和感があったんでしょうか。正面の窓の間の壁に何かがいっぱい貼ってありますね、何でしょう?
とにかく気まずい雰囲気がよく出たシーンで、この後ダニーとペレの会話になり、ペレが自分も両親を亡くしていると言いますとダニーの表情がみるみる曇りバスルームに駆け込みます。
ダニーを天井ぶち抜きの上からのカメラで追い、バスルームのドアがバタンと締まりますとそこは飛行機内のトイレ、ダニーが声を押し殺して泣き叫んでいます。うまい!
さて、いよいよスウェーデン・パートです。
そして、シリアスからコメディへ
車が草原地帯を走っていますと、カメラがぐるりと一回転します。
ここまでは古ーいタイプのホラー、で、ここからは新しいタイプのホラーということでしょう。アリ・アスター監督の本領発揮です。
ということで後は私の出番はありません(笑)。
牧歌的なロケーションで部外者には奇妙なことやら怖いことが次々に起きます。つまりホルガというコミュニティにとっては自然なことが部外者、ここではアメリカ人ですが、部外者には奇妙であり受け入れがたいことだということです。
しかし、これは映画ですから単に奇妙なことではおさまらず、次々に人は死にますし消えていなくなってしまいます。
ラストはダニーがダンスコンテンストで勝ってメイクイーン(女王)になります。
このDVDを見たのはしばらく前ですので、今ざっと流していましたら、女王になったダニーに祝福の嵐のシーンで母親の亡霊を出していますね。アスター監督、忘れていなかったんですね(笑)。
クリスチャンはといえば、ホルガの女性への種付け馬にされていました。このシーンはきっと劇場で見ていても笑いが起きているでしょう。
花びらが敷かれたところに女性が裸で横たわっており、そこにクリスチャンが乗っかりいきなり〇〇〇〇運動、周りにはたくさんの裸の女性たちが輪を作ってその行為を見ており、次第に高揚してきますと皆の声が共鳴してコーラスのようになってきます。ひとりの女性がクリスチャンの後ろに回りクリスチャンのお尻を押して〇〇〇〇運動を助けます。そして、クリスチャンの相手の女性のスウェーデン語に「finish」と字幕が入り、クリスチャンが離れた後、受精を感じるわなんて叫んでいました。
笑わずには見られないシーンではあります。
そして、クリスチャンはクスリを盛られたのか、体の自由が効かず言葉を発せなくなっています。そうそう、ダニーはクリスチャンのあの種付けをのぞき見ています。
ああ、なんだか下世話な話ですね(涙)。
いよいよ儀式もクライマックス、女王となったダニーのまわりに人々が集まり、9人の生贄が必要だ、あとひとり女王に選んでもらおうみたいな感じで、ダニーはクリスチャンを選びます。
そして、クリスチャンは内蔵を取り出された熊の中に顔だけ見えるように入れられ、他の生贄と一緒に焼かれました。
最初の方のダニーのベッドの上の絵はこれを暗示していたということですね。
ということで、部外者は皆生贄にされましたとさ。
なぜかダニーは心が浄化されたかのように晴れやかな笑顔を浮かべて映画は終わります。
それにしてもアスター監督、王様とか女王様とかが好きですね。前作の「ヘレディタリー 継承」では昔の王様がピーターに乗り移って蘇っていました。
まあ、伝統であるとか、神話的なこととか、宗教的なこともそうかと思いますが、それらの儀式は日常から考えれば奇妙なことが多いですし陳腐にも見えます。
陳腐なことも陳腐とわかってやればホラーもコメディになるということだと思います。