日本独立

改憲誘導を意図すれど俳優は踊らず

宮沢りえさんと浅野忠信さん主演の映画でしたので見に行ったんですが、映画のつくりはともかく、内容(主張?)にやや胡散臭さが感じられ、これは一体どういう映画なんだろう?と調べてみましたら…

日本独立

日本独立 / 監督:伊藤俊也

改憲誘導映画か?

こんな記事がありました。

アンジェスの創業者がプロデューサー?!

って、大阪府の吉村知事が秋ごろ(去年のだよ)には大阪ワクチンができるってドヤ顔で記者会見していた会社ですね。

んー、このサイトでネタにするような内容ではありませんので深入りはしませんが、アンジェスもそうですがこの映画の資金の出処も調べたほうがいいんじゃないでしょうかね…。

とにかく、文春の記事を読みますと、結果がどうであるかは別にしてこの映画の製作意図は改憲機運を醸成して安倍政権をバックアップしようということだったようです。

ただ、確かに映画では日本国憲法がGHQの押し付けであるとの主張が強調されてはいますが、それは登場人物の台詞にそうした意図が見え隠れするという程度で史実は割と守られているように思います。

ですので、もし改憲へ誘導しようという意図があったとすればあまり成功していません。今は新型コロナウイルスでそれどころではないということもありますが、映画の出来自体がかなり首をひねるものだということです。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

あらすじと言っても台詞を除いてほぼ史実です。

たとえば、映画の冒頭、敗戦からマッカーサーの到着までが実写映像で説明されたあと、マッカーサーが日本人からの手紙を読んで馬鹿笑いするシーンがあります。あの手紙も、あのナレーション通りかどうかはわかりませんが「日本をアメリカの属国にして欲しい」といった内容の手紙は現存しているはずです。

拝啓マッカーサー元帥様―占領下の日本人の手紙 (岩波現代文庫)

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  • 作者:袖井 林二郎
  • 発売日: 2002/06/14
  • メディア: 文庫
 

日本国憲法成立の過程

日本国憲法成立の経緯をウィキペディアから拾ってみますと次のようになります。

1945年

  • 8月15日…敗戦
  • 8月30日…マッカーサー到着
  • 10月4日…GHQ「自由の指令」発令
    マッカーサー、近衛文麿(松重豊)に憲法改正示唆
  • 10月9日…幣原喜重郎(石橋蓮司)内閣成立
  • 10月25日…松本烝治(柄本明)国務大臣を委員長とする憲法問題調査委員会設置

1946年

  • 1月9日…松本大臣、委員会に松本試案提出
  • 2月3日…マッカーサー、3原則を提示
  • 2月8日…GHQに松本試案提出
  • 2月13日…GHQは松本試案を拒否、日本側にGHQ草案を提示
    この時、松本大臣、吉田茂外務大臣(小林薫)、白洲次郎(浅野忠信)はGHQ草案の存在を知らず初見だった
  • 2月18日…GHQに再考を求めるが、ホイットニー民政局長は拒絶し、GHQ草案受け入れに48時間以内の回答を迫った
  • 2月21日…幣原首相がマッカーサーと会見し、受け入れを承諾
  • 2月26日…GHQ草案に基づく日本政府案の起草を閣議決定
    松本大臣は、法制局佐藤達夫第一部長、入江俊郎次長とともに日本政府案を執筆
  • 3月2日…草案完成
  • 3月4日…午前10時、松本大臣、ホイットニー民政局長に草案を提示
    GHQ、日本側係官と手分けして草案と説明書の英訳を開始
    GHQは、GHQ草案との相違点に気づき激しい口論となる
    午後、松本はGHQを退出
    徹夜作業により成案を得た案文は首相官邸に届けられる
  • 3月5日…閣議に付議され確定案採択、天皇に草案の内容を上奏
  • 3月6日…憲法改正草案要綱を発表
  • 3月7日…新聞発表

映画もおおよそこんな感じで進みます。ただ焦点が定まっていませんのでダラダラと続く感じではあります。

白洲次郎(浅野忠信)と妻正子(宮沢りえ)が主演となっていますが、映画はむしろ吉田茂(小林薫)中心に進みます。なぜ白洲次郎という人物が日本国憲法制定の過程で注目されるかは、外務省の公式文書として「白洲手記」というものが残されているからのようで一般に公開されているとのことです。その最後には「今に見ていろと云う気持ち抑え切れずひそかに涙す」の一文があり、映画でも白洲次郎の涙をアップでとらえて終えていました。

「白洲手記」、ググってみましたがなかなかたどり着けません。ただ、いろんな書物に引用されていますので断片的にはよく目にするものではあります。

こちらのサイトでHTML化されていますね。

国立国会図書館には「ジープ・ウェイ・レター」と言われる白洲次郎とホイットニーとの往復書簡もあります。

という白洲次郎ではありますが。白洲自身は交渉の当事者ではなく通訳的立場でその場に立ち会っているわけですからなかなか映画の主人公にはしにくい人物なんでしょう。どうしても吉田茂とかが中心になってしまいます。

映画の中でも使われていた吉田茂が「GHQ は Go home quickly さ」と言ったとかいう話も、何に残されているエピソードかは不明ですがかなり喧伝されている話です。

吉田茂は、え?これ誰がやっているの? というくらいそっくりだったのですが、なんと小林薫さんでした。特殊メイクなんでしょうか、チャーチルなんかよりもよかったです。

ところで、その吉田茂のシーンで必ず出ていた娘和子(梅宮万紗子)は、後に結婚して麻生和子となり麻生太郎の母親となる人物です。

戦艦大和ノ最期 

というような日本国憲法制定の経緯とは別にもうひとつの物語が並行して描かれています。 

吉田満の『戦艦大和ノ最期』がGHQの検閲で出版できなくなり、それを白洲次郎が掛け合ったというエピソードです。ただ、シーンとしては白洲次郎が何らかの役割を果たしたような描写はなかったと思います。

吉田満(渡辺大)は大和が沈没した坊ノ岬沖海戦から生還します。その復員の過程で戦後の焼け野原が描写されています。セットと実写映像やCGとの合成で割とうまく撮られていたように思います。

その後『戦艦大和ノ最期』執筆の過程で、フラッシュバックとして大和の船内での乗員である青年たちが議論する様子が描かれます。おそらく(読んでいないので)小説の中のシーンなんでしょう。

ということで、とにかく全体的にギクシャクした印象の強い映画です。言葉を変えればあまり力が入っているようには思えない映画です。

映画の質は低い

正直、特に感想もない映画なんですが、あえて言えば、シナリオが完成していないです。俳優がどうすべきか迷っているシーンがたくさんあります。特に台詞のない部分や受けにまわる俳優に迷いが出ています。気持ちよくやっているのは小林薫さんくらいでしょう。

吉田茂と白洲次郎が口論するシーンも台詞が足りません。白洲がいきなり怒り出したりします。浅野忠信さん、どんな気持ちだったのでしょう(笑)。

マッカーサー以下アメリカ人の登場人物がとても多いのですが、どうやってキャスティングしたんでしょう。アメリカの俳優さんなんでしょうね。重要な役が多い割にエンドクレジットでの扱いが小さいということはそういう俳優さんたちということなんでしょう。

当然ながらそういうことをやれば映画の質は落ちます。

最後にもうひとつ、ベアテさんをむちゃくちゃひどく描いています。それも女性蔑視視点でです。

ああしたことをやればさらに映画の質は落ちます。

戦艦大和ノ最期 (講談社文芸文庫)

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