ザ・プロム

メリル・ストリープが本来の物語を食っているんじゃない?

ブロードウェイ・ミュージカル「ザ・プロム」の映画版です。

Netflix制作の映画で、配信は2020年12月11日からですが先行上映として12月4日からイオンシネマなどで劇場公開されています。

ザ・プロム

ザ・プロム / 監督:ライアン・マーフィ

劇場で見るべき映画

音楽ものはやはり劇場で見なきゃダメでしょう。これをパソコンのモニターやテレビで見てもつまらないと思います。

それにしても上映館がイオンシネマだけというのはつらいですね。東京では都心の劇場でも上映しているようですが、イオンシネマですとどうしても郊外になりますので、一日はオーバーにしても半日は潰れてしまいます。それにこの映画でも、また過去に何度か Netflixの先行上映を見に行っている作品でもほとんどお客さんは入っていないです。

監督は「glee グリー」のライアン・マーフィとありますが、その「glee グリー」を知りませんでしたので、え? あのグリース? と一瞬勘違いしてしまいました(笑)。

出演はメリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデン、アンドリュー・ラネルズ、ケリー・ワシントン、キーガン=マイケル・キーとありますが、俳優も最初の二人しかわかりません。

名前を上げた俳優6人のうち最初の4人が画像(イラストか?)の右から4人でミュージカル俳優役、その隣の2人が高校の校長とPTA会長、そして左の2人は高校生役のジョー・エレン・ペルマンとアリアナ・デボースで新人さんじゃないかと思います。ドラマとして絡んでくるのはこれだけです。

当初は高校生役にアリアナ・グランデの名前も上がっていたようです。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

インディアナ州の高校を舞台にしたプロムをめぐる物語です。

PTAの会議(学生もいるので集会?)が行われています。レズビアンをカミングアウトしているエマ(ジョー・エレン・ペルマン)が同性のパートナーとともにプロムに参加したいと申し出ています。PTA会長(ケリー・ワシントン)が猛反対しており、プロムは中止となります。

ブロードウェイではエレノア・ルーズベルトを描いた新作ミュージカル「エレノア」が幕を開けます。しかし評価は散々、上演打ち切りとなります。

主演のディー・ディー・アレン(メリル・ストリープ)とバリー(ジェームス・コーデン)、そして今は俳優の仕事もなくバーテンダーをやっているトレント(アンドリュー・ラネルズ)とその恋人(なのかな?)で主役を狙いながらも長年日の目を見られないアンジー(ニコール・キッドマン)の4人は、なにか注目を集める起死回生の方法はないかと思案の挙げ句、ツイッターでエマのことを知り、エマを助けようとインディアナ州に向かいます。

このミュージカル俳優たちの狙いがはっきり出ていません。ミュージカルですので物語の奥深さみたいなものが二の次になるのは致し方ないことですが、歌とダンスであれよあれよという間に次のシーンへいってしまうという感じです。

そもそも新作ミュージカルの評価が悪いのも要は主演二人が物語を理解せずでしゃばり過ぎということらしく、またインディアナに向かうことも完全に利己的な動機ということのようですが、それが歌の中で表現されていません。前半は、とにかく勢いで引きつけようという印象が強いです。

 (私が)歌詞のニュアンスを完全には理解できないということもあるかもしれませんが、もう少し利己的ないやらしさを見せておかないとラストのエマの行動が活きてきません。

再びインディアナの高校です。

校長(キーガン=マイケル・キー)が州の知事(司法長官?)に掛け合いプロムは行われることになります。そこへ4人が乱入し、ディー・ディーの派手なミュージカルシーンになります。

このシーンも俳優たちの乱入により会議が大混乱になったということらしいのですが、あまりよくわかりません。とにかく、歌とダンスで圧倒的に見せていく手法のようです。

ただ、このあたりからやっと物語性が表に出てきます。まずひとつは校長がディー・ディーの大ファンで憧れの存在であること、そして、エマの相手はPTA会長の娘アリッサでプロムの場でカミングアウトする計画だったということ、そしてもうひとつ、バリーもエマと同じようにゲイであることから両親とは疎遠になっているが明らかになります。

中盤は校長とディー・ディーの関係が描かれるシーンが多かった印象です。回想としてディー・ディーの舞台を校長が見ているミュージカルシーンやアップルビーズでのデートの会話シーンなどです。

このアップルビーズというのはファミレスのチェーンらしく、セレブを気取ったディー・ディーが自分には不釣り合いよといったギャグで笑いを取るつくりになっています。同じニュアンスで、ホテルのチェックインではスイートはないと言われてカウンターにトニー賞(なのかわからないけど)のトロフィーをドン!と出すシーンもあります。そうした小ネタで笑いを取ろうとするシーンは各所にあります。

バリーは自分もゲイゆえにプロムに参加できなかった(らしい)ことからエマに対する親近感も強く、エマがプロムに着ていくドレスを見立てたりと親身になるシーンがあります。ここでもショッピングモールしかない田舎であることをネタにしています。

そしていよいよプロムの日、エマと俳優たちが会場へ行きますと、そこには校長しかいません。PTA会長の策略でプロムを別会場に変更したということです。エマはアリッサから会場がここだとメールを受けたらしく、エマがアリッサに電話をしますとアリッサは自分も騙されたと言い、エマがこっちへ来てと言いますがアリッサはママがいるから行けないと断ります。

ここでもう少し悲劇的に盛り上げておけばいいのにと思いますが、割とあっさりしていました。それにこの映画、エマとアリッサよりもディー・ディーたちが目立っていますのでほとんどLGBTQに対する問題意識は感じられません。

プロムも終わり、失意のエマはアリッサに別れを告げます。ディー・ディーたちはこのひどい仕打ちをメディアに訴えようと、具体的にはディー・ディーの元夫がテレビ番組の司会者ですのでディー・ディーに働きかけるよう迫ります。しかし、ディー・ディーは、夫には私への愛はなかった、お金が目的だった、頼めば見返りに別荘を欲しがることは目に見えていると渋ります。

ニコール・キッドマンの見せ場がないなあと思いますが本当にないんです。失意のエマを立ち直させようとするシーンで、アンジーが私に任せてと言い、ふたりのシーンになりますがパッとしません。それでもどのシーンでもワンカットずつニコール・キッドマンを入れているという気の使いようです(笑)。

そして終盤です。ディー・ディーが折れて元夫に番組出演を頼んだようです。ただ、それをエマに伝えますと、ありがとう、でも自分のできることでやってみると答えます。ディー・ディーが別荘を返せ!といきり立ち、皆が止めに入ります。残念ながら笑いは取れません(ペコリ)。

エマは、偽りのない自分の気持ちを弾き語りで歌いながら自分たちのプロムを開こうと思うとネットに動画投稿します。見る見るうちに動画の再生回数が増えていきます。

どこに入っていたかはっきりした記憶はありませんが、というより記憶できるように印象深くつくられていないということですが、アリッサがPTA会長の母親にカミングアウトするシーンがあります。

本当はこのシーン重要なんですけどね。

母親はあなたはまだ若いからわかっていないの(のようなセリフ)と言いますが、ここはアリッサもきっぱりと私はエマを愛していると宣言します。

またこれもどこだったか記憶がありませんが、バリーと両親とのいきさつが語られたり、ディー・ディーが利己的な目的で来たことを知った校長とディー・ディーの気持ちの行き違いが描かれたりします。

そしてエマのプロムの日、ディー・ディーたちと校長が待ち受ける中、エマとアリッサがドレスアップして手をにぎって(腕を組んでだったか?)やってきます。

クライマックスです。

ネットを見た同性カップルたちが次々に会場に入ってきます。エマの同級生たちも入ってきます。そしてアリッサの母親もやってきて二人のことを認めます。

そして「ザ・プロム」です。

「It’s Time To Dance」 Youtube は Music Premiumじゃないと視聴できないようです。Spotify は聴けると思います。

The Prom – Netflix Movie Soundtrack 2020 on Spotify

Good Morning America というテレビ番組でのミュージカル版のパフォーマンス映像がありました。


The Prom Musical on GMA – “It’s Time To Dance”

エマとアリッサがキスをし、盛り上がって映画は終わります。

プロムシーンの前だったか中だったかに、校長がディー・ディーにプロポーズ(だと思う)する場面、バリーが母親と再会する場面、アンジーに主役が回ってきたことなどが挿入されています。

ミュージカルだとしても話に深みがない

こうやってあらすじを書いてきましたが、率直なところ物語としてはたいした話ではありません(ペコリ)。セクシュアル・マイノリティについても描き方は安易です。

もちろんミュージカルは物語だけではなく、まずは何をおいても音楽ですので、その点では音楽のノリもよくダンスシーンのパワーもあります。この映画は音楽とダンスとその映像のキレで見せる映画であり、楽しめるミュージカルだとは思います。 

その上での話であり、またミュージカルが物語を単純化してしまうことはやむを得ないとのことを差し引いてもなおこの映画はつくりが安易すぎます。

一番の理由は、ザ・プロムと言いながら、また若年の同性愛というかなりセンシティブな問題を扱いながら、結局エマとアリッサの映画ではなくディー・ディーやバリーたちの映画にしてしまっています。エマとアリッサの気持ちがほとんど描かれず歌も少なすぎます。

エマは両親にレズビアンをカミングアウトした時に勘当され今は祖母と暮らしているように語られていたと思いますが、そうしたところのツッコミがまったくありません。もっとエマの苦悩を音楽で表現すべきです。

同じような意味でアリッサにももっと焦点を当てるべきです。母親との関係や確執ももっと描くべきです。あの程度の母親の拒否感であればそもそもPTA会長としてプロムの開催を阻止しようなどとは考えないでしょう。

ミュージカルだからといってそこで逃げてはいけません。

いわゆる従来のプロムの表現として4人の男女の美男美女的高校生を登場させ、その保守的固定的男女観を変えさせようとするシーンがありますが、さすがに首をひねります。キリスト教を持ち出し、たとえクリスチャンだって大麻は吸うし、ほにゃらら(忘れました)にも寛容なんだから同性愛だって受け入れなさいよと説得していました。

ちょっと違うんじゃないのと思います。

とにかく、本来ならエマやアリッサを主役にすえなくてはいけない物語にメリル・ストリープやニコール・キッドマンをキャスティングしてしまったがためにああならざるを得なかったのでしょう。その点ではアリアナ・グランデがアリッサにキャスティングされていればまた違った映画になったかもしれません。

それなりに楽しめましたが、その点では残念なミュージカルではありました。また、映画としても前半飛ばしすぎて後半息切れ気味でダレます。肝心のラストシーンの「ザ・プロム」も盛り上がりに欠けていました。

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