ビッグフットの一年、たどり着いた先は人類の未来か…
サスカッチというのはビッグフットのことです。ビッグフットに興味はありませんが、主演がジェシー・アイゼンバーグさんですし、アリ・アスターさんが製作総指揮となっていますのでどんな映画だろうと見てみました。

ジェシー・アイゼンバーグ、ライリー・キーオ…
ジェシー・アイゼンバーグさんでなくてもよかったかも(笑)。
顔は特殊メイクでそれなりに動きますが基本着ぐるみですし、セリフはなくホッ、ホッ、ホッとかギャーとか吠えてるだけですので誰であってもそう変わらないと思います。実際、しばらくは誰が誰だかわかりませんし、ひとり死んで、オス、メス、コドモが残ったところでやっと、この人がアイゼンバーグさんねと分かったくらいです。
メス役だって「Zolaゾラ」のライリー・キーオさんなんですがわかりません(笑)。コドモ役はクリストフ・ゼイジャック=デネクさんという小人症の俳優さんとのことです。そして早々と、え、死んじゃったのというもうひとりのオス役は監督でもあるネイサン・ゼルナーさん、弟さんの方です。監督はお兄さんのデヴィッド・ゼルナーさんとの兄弟監督です。
誰だかわかんないとは言いながらもやはり俳優ですので当然役づくりはするわけで、インタビュー記事を読みますと、アイゼンバーグさんは、ベータオスはとても人間的で神経質なキャラクターだと理解したと語っていますし、キーオさんは最初どう演じていいのか、自分にできるだろうかと悩んだけれども、いざやってみるとこれまでになく解放感を感じたと語っています。
ただ二人とも肉体的にはとてもきつかったようです。スーツ(着ぐるみ)は窮屈で歩くだけでも疲れ、水を飲むことも出来なかったそうです。キーオさんは精神的な自由さと身体的な制約が奇妙に混ざりあった状態だったとも語っています。
サスカッチの一年、春、夏…
4人のサスカッチの一年が描かれていきます。あまり季節感はありませんが春夏秋冬のスーパーが入ります。
基本、食べる、寝る、排泄、交尾、そして木を叩いて仲間を探す行為を繰り返すだけです。ひたすら移動していきますので仲間を求めて放浪しているように見えます。おそらくラストシーンからすればそれは意図されていることでしょう。
主だったドラマとしては、まず春、移動する、食べる、仲間探索の間にアルファオス(ネイサン・ゼルナー)がメス(ライリー・キーオ)と交尾します。ほぼ人間のセックスシーンのようでしたのでもう少し考えたほうがいいんじゃないのとは思います。
まあ、人間生活から言葉や社会生活を取り除いたら食欲と性欲くらいしか残らないということなんでしょう。
ある日、ベリー系の食べ物を見つけ皆で貪り食います。アルファオスは熟して発酵した実を見つけ独り占めします。酔っ払ったアルファオスはメスに無理やり交尾しようとし拒否され、木の割れ目のようなもので自慰しようと(したのかな?…)し、グループから追っ払われます。
このあたりあまりはっきりしたことはわかりませんが、アルファオスは穴蔵の中の動物にちょっかいを出したりしていました。そして翌日、アルファオスはピューマに食いちぎられているのが見つかります。残されたメスとベータオス(ジェシー・アイゼンバーグ)とコドモ(クリストフ・ゼイジャック=デネク)はアルファオスを埋葬します。
夏、メスはアルファオスの子どもを妊娠しています。ベータオスは発情しメスと交尾をしようとしますが拒否されます。さらに移動し、赤いバツ印のついた木を見つけたり、木も草もなくずっと左右に続くところ、つまり道路に出て驚きのあまり、排尿、排便をしまくります。
川辺に出ます。バツ印のついた丸太が川の中に横倒しになっています。ベータオスがその上で飛び跳ねたりと戯れています。メスは妊娠のため体調が良くないようです。ベータオスが川に落ち丸太の下敷きになります。メスとコドモは助けようとしますが、ベータオスは溺れて死にます。埋葬されます。
秋、冬、たどり着いた先は…
秋、メスとコドモは人間がキャンプをしている場所に来ます。人間はいません。二人はテントの中からあれこれ引っ張り出し、ラジカセを見つけます。イレイジャーの「Love to Hate You」が流れます。
しばらく聴いていたメスとコドモですが、突然興奮し、テントやらキャンプ道具を無茶苦茶に破壊してしまいます。
メスの陣痛が始まり、子どもが生まれます。メスはへその緒を噛み切り乳を与えます。そこにピューマがやってきます。メスは剥がれ落ちた胎盤を投げつけて逃げます。
冬、雪の風景がワンシーンあります。あるとき、メスが目覚めますと抱いていた子どもの息がありません。叩いたりと必死に蘇生させ、子どもは生き返ります。メスとコドモはさらに進み、遠くに山火事の煙を見、多くの木々が倒れた山間を通り、そして大きなビッグフットが目の前に立つ地に到達します。
Bob Doran from Arcata, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
「the Willow Creek-China Flat Museum & Bigfoot Collection」です。
二人は目の前のビッグフットにコミュニケーションを試みます。しかし届くことはありません。
基本はコメディ、ちょっとたそがれて…
こうした映画を撮るわけですから当然だとは思いますが、デヴィッド・ゼルナー、ネイサン・ゼルナー兄弟監督はビッグフットが大好きだそうです。2010年にはお兄さんのデヴィッド・ゼルナー監督が短編の「Sasquatch Birth Journal 2」を撮っています。
デヴィッド・ゼルナー監督は菊池凛子さん主演で「トレジャーハンター・クミコ」という映画も撮っていますね。この映画には脚本にネイサン・ゼルナーさんもクレジットされています。
かなり何ヶ所か世界中で上映されていますが日本では TV premiere となっているだけです。
で、この「サスカッチ・サンセット」についてのインタビュー記事を読みますと、ビッグフット好きもそもそもはクリーチャーオタクからのもののようで、ホラー映画にならないようクリーチャー(生き物…)視点で敬意を持って描いたと語っています。
クリーチャー視点であるかどうかはクリーチャーに聞いてみないとわかりませんが、この映画のビッグフットはほぼ人間です。すでに書きましたように、言葉と社会生活を除けば人間も食欲と性欲しか残らないわけですので、そういう意味ではこのビッグフットはある種未来の人間存在にも見えてきます。
絶滅ということです。
この映画のメスとコドモがキム・ギドク監督の「人間の時間」ばりに禁断のアダムとイブになるかも知れないとまでは描けないデヴィッド・ゼルナー、ネイサン・ゼルナー兄弟監督でした。