「完全犯罪、通報、知らんぷり」
これは面白いです!
下のキービジュアルがよくありません(ゴメン…)が、それにとらわれずに見てみましょう(笑)。もともと6分ほどの短編(以下記事内にあります…)があり、それをコーエン兄弟の兄ジョエル・コーエン監督が見て長編で撮ることを勧めたという映画です。

ネタバレあらすじ
これはまっさらな状態で見たほうがいいです。
と言っても、オー! となるところは言葉では表現できませんので、以下読んでいただいてから見てもいいとは思います。
完全犯罪、通報、知らんぷり
スイスの山間の町です。バーバラ(イヴ・コノリー)は亡くなった母から受け継いだ縫製店をやっています。しかし、うまくいかず店じまいを考えています。
店の二階が住まいです。部屋には母との関係や思い出が張り巡らされています。まさしく張り巡らされていますので、それらの手芸小物も見て楽しんでください(笑)。
バーバラが落ち込んでぼんやりしていますと電話が鳴ります。ガラケー風の携帯電話でしたので時代設定をやや古めにしているようです。電話は、予約を忘れていたためにその請求です。慌てて裁縫箱を持ち車を走らせます。
予約は今日が結婚式の女性のウェディングドレスの着付け(みたいなこと…)です。その際に取り付けようとしていたボタンを落としてしまい、代わりのボタンを店に取りに戻ることになります。
その途中、とんでもないものに遭遇します。男が二人倒れ、その傍には拳銃が2丁と破れた袋からこぼれた白い粉、そしてアタッシュケースが転がっています。男たちは血を流して動けない状態ですが、バーバラの車の動きを目で追っています。バーバラは車を停めて考えます。
「Commit the perfect crime, call the police, or drive away.」
「完全犯罪を狙う、警察に通報する、そのまま走り去る」
三択です。が、バーバラは裁縫の技術を使って(というわけでもないけど(笑)…)そのすべてをやります。いや、フレディ・マクドナルド監督がすべて見せてくれます。さらにおまけまでつけて(笑)。
インデペンデントで成功
映画はコンパクトなつくりになっています。登場人物も最小限ですし、エキストラもワンシーンをのぞいてまったくいませんし、山間の道路を俯瞰する画でも他の車が走ったりはしません。
インディペンデントですので製作予算ということもあるとは思いますが、そもそもが現実的な話ではない上に、スイスの山間の長閑さも相まってファンタスティックさが加わりとてもいい感じになっています。
3つの選択肢のうち、最初の「完全犯罪」はドラマ自体が完全犯罪といえるレベルに仕上がっています。テンポもスピード感もいいですので、バーバラ、糸と針を使ってなにやってるの? と見ているうちに、オー! となります。
そもそもの6分の短編はこの完全犯罪版だけの映画で、他の2択プラスアルファは長編にするために考えられたものです。その短編が Youtube に上がっていますので入れておきます。ただ、本編を見る前には見ないほうがいいとは思います。
※スマートフォンの場合は2度押しが必要です
愛すべき登場人物
この映画は犯罪ものでもありますがコメディでもあります。そのための登場人物が用意されています。すでに書いた今日が結婚式の女性もそのひとりですが、犯罪に絡む男たち以外の町の人たちもおもしろいキャラクターになっています。
ウェディングドレスの女性は結婚式は3度目だと言っており、それ相応の年齢です。バーバラがボタンの代わりにとりあえず安全ピンでとめていったものですから背中を血だらけにしながら物語に関わってきます。「通報」編にも「知らんぷり」編にも登場し、ヒステリックになったり、事がうまくいけば優しくなったりとドラマのアクセントになっています。
また「通報」編では通報した先の警官が登場しますが、この警官は公証人や判事も兼ねているという人物で、さらにかなり高齢の女性です。つまり、3度めの結婚をする女性の公証人もしなくてはいけないということで、それを使ってうまい具合にドラマがつくられています。
このパートではバーバラは逮捕されます。さて、どうなるのでしょう(笑)。
もうひとり、「完全犯罪」編と「知らんぷり」編には自らも手芸を教わっているという高齢の男性が登場します。バーバラが慌てて時間がないというときに絡んできたりします。この男性はバーバラ考案の喋るキルトと刺繍の手芸小物で妻への感謝の気持ちを伝えようとする愛すべき人物です。
このパートではバーバラが針と糸で傷口を縫っていました。さて、誰の傷でしょう(笑)。
それにこのパートでは糸を使ったバーバラのダンスが見られます。さて、なんのためのダンスでしょう(笑)。
(笑)、入れ過ぎ(笑)。
感想、考察:シリーズものにすればいい
短編をもとに長編にした映画に多い冗長感もあまりなく、フレディ・マクドナルド監督には最後まで集中力を途切れさせない技術力もありセンスの良さもうかがえます。
この映画の面白さは、まずはあっと驚くプロットがポイントになっていますが、控えめなテーマ性もあります。麻薬取引に失敗した男とその父親の関係には父親の息子への期待とそれに応えられない息子の悲哀があり、「そのまま走り去る(知らんぷり)」編には息子がいかに親の抑圧から逃れるか、この映画では他力本願ではありますが、その他力であるバーバラ自身が母親との関係に絡め取られているわけですから、三択三様の面白さもあります。
ちょっと考えすぎではありますが、そんなことも考えながら見られる楽しい映画です。
この映画、シリーズものに出来ますね。