ペンギン・レッスン

ヒューマンドラマを装ったセルフエクスキューズドラマ

フル・モンティ」「シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~」のピーター・カッタネオ監督です。劇場公開作は多くありませんが、テレビドラマをたくさん撮っている監督です。確かに劇場公開作を見ても、ジャンルでいえばヒューマンコメディですのでテレビ向きではあります。

ペンギン・レッスン / 監督:ピーター・カッタネオ

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ネタバレあらすじ

原作があります。イギリスの作家トム・ミシェルさんの回想録です。1975年、当時23歳だったミシェルさんはブエノスアイレスの名門男子寄宿学校で教師をしており、ある週末にウルグアイに旅行に出掛け、その際に原油流出事故にあったマゼランペンギンを助け、寄宿学校に連れ帰ったそうです。そのペンギンが巻き起こした心温まる出来事を記した顛末記ということです。2015年の発刊ですので63歳の頃に40年前を思い出して書いたことになります。

映画でも主人公はトム・ミシェルの名前です。

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堅物なのにフレンドリーなトム

映画は1976年となっています。トム(スティーヴ・クーガン)がアルゼンチン、ブエノスアイレスの男子寄宿学校に英語の教師として赴任してきます。校門には警備員が立ち、門も閉ざされています。

当時のアルゼンチンは、1976年のクーデターによって軍事政権となり、その後1983年まで国民への弾圧が続く国家テロの時代で「汚い戦争」といわれています。

映画ではそうした時代背景がかなり重要な要素になっています。ただ、ネットで原作の感想などを読んだ限りでは原作では映画ほど重要ポイントではないように思います。

校長(ジョナサン・プライス)は、この学校の生徒は裕福な家庭の子どもたちだけだとそれが誇りであるかのように言っています。校長からラグビーのコーチもやってほしいとの要請にトムはラグビーは嫌いだと言い、なぜ?との問いに、ボールが丸くないからとのジョークをジョークともつかぬ真面目くさった顔で答えています。

トムはそういうキャラに演出されています。見た目は堅物であまりフレンドリーには見えませんが、率直で人には分け隔てなく接します。同僚の教師タピオ(クビョルン・グスタフソン)や家政婦のマリア(ヴィヴィアン・エル・ジャバー)ともすぐに親しくなりますし、授業で生徒が騒いでも怒ったりせず理性的に対処します。

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卑怯な自分を自覚するトム

街なかで爆発があったとのことで学生たちが1週間家庭に戻されます。トムとタピオはウルグアイに旅行し、夜、クラブへ出掛けます。トムはダンスもうまく、女性をナンパしようとします。そのひとりと親しくなり、海辺を散歩中に油まみれになったたくさんのマゼランペンギンの死体に遭遇し、その中に生きている一羽を発見し、ホテルに連れ帰り、油を洗い流して助けます。

この一連の流れのトムの行動はペンギンよりもナンパした女性の気を引きたいがためのものなんですが、結局女性は、わたし夫がいるの(あそこまでいってどういうこと?…)と去ってしまいます。ですのでトムにはもともとペンギンなどどうでもいいのですが、その後なぜかペンギンはトムから離れなくなり、結局学校に連れて帰ることになります。

学校ではペンギンを飼うことなど許されず、秘密裏に飼おうとします。でも、結局、マリアにも、マリアとともに学校で働いている孫のソフィア(アルフォンシーナ・カロッチオ)にも、そしてタピオにもバレてしまいます。マリアとソフィアはペンギンにフアン・サルバドールと名付けます。皆サルバドール(意味は救世主…)に魅了されていきます。

ある日、トムは街なかでソフィアが軍事政権側に拉致されるところに遭遇し、ソフィアがトムの名を叫びながら連れ去られたにもかかわらず、何もできずに(せずに…)ただ見ているだけになります。

その後、トムは後ろめたさを感じながらも特に何をすることもせず、せいぜいがマリアが書くという嘆願書の添削をしようかと申し出るくらいです。

学校でのトムの授業は成果が上がっておらず校長も不満を示しています。思い余ったトムはサルバドールを教室に連れ出し、生徒たちが興味を示すことを利用して授業の効果を上げることに成功します。

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塀の中のハッピーエンドを語るトム

またある日、街なかのカフェでソフィアを拉致した男に遭遇します。トムは遠回しにソフィアが拉致された情景を話し、抗議し、そしてソフィアの解放を求めます。

その後トムは逮捕され、暴行された後、釈放されます。一旦は教職を解雇されそうになったトムですが、サルバドールを使った授業が効果を上げたこともあり、引き続き働けることになります。

さらにある日、トムはサルバドールが死んでいるのを見つけます。トムは校長や生徒たちが居並ぶ前でサルバドールへの追悼の言葉を述べて埋葬します。一緒に参列していたマリアが校門に視線を走らせます。振り返ったトムは解放されたソフィアの姿を目にします。

熱く抱擁し合うソフィアとマリア、それを見つめるトムや生徒たちを俯瞰した画で終わります。

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感想、考察:セルフエクスキューズ

という一見感動的なヒューマンドラマに見える映画です。

ただねえ、この映画、ヨーロッパやアメリカ映画のひとつのパターンである、先進国から途上国にやってきた男(であることが多い…)がその地の素朴さに触れることから自らを顧みて目覚めるというセルフエクスキューズのドラマだと思います。

実際、アルゼンチンの「汚い戦争」と言われる国家テロの現実面を描くことなく、それを触り程度に利用してドラマに利用しています。

その意味ではイギリス本国ではそれなりに受ける映画だと思います。

それにしても海外の映画が見られなくなってきました。採算が取れないということだと思いますので、一観客としてはどうしようもないですね。悲しいことです。