ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実

アメリカの真実が真実とは言えない

「ラスト・フル・メジャー」という言葉は、リンカーン大統領の言葉としてよく引用される「人民の、人民による、人民のための政治」が語られたと同じ演説の中の言葉ということです。南北戦争史上最大の戦いと言われる1863年のゲティスバーグの戦いの4ヶ月後に行われた国立戦没者墓地の奉献式でのゲティスバーグ演説です。

ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実

ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実 / 監督:トッド・ロビンソン

陰謀はフィクションであり、ハフマンは架空の人物 

ラスト・フル・メジャー The last full measure、死力を尽くすとか決死の覚悟といった意味合いでしょうか。

この映画では、ベトナム戦争で1966年に亡くなったウィリアム・H・ピッツェンバーガーが仲間を救うために決死の覚悟で戦ったことと、そのピッツェンバーガーに名誉勲章を与えるために全力を尽くしたこの映画の主人公であるスコット・ハフマンとピッツェンバーガーの戦友たちの働きを指していると思われます。

映画の最初に「inspired by a true story」(だったと思う)とあったようにピッツェンバーガーさんに関することは事実のようですが、叙勲に尽力したと描かれているスコット・ハフマンは架空の人物です。

この記事に真実と映画の対比が書かれています。

この記事よれば、ハフマン自体は架空の人物ですが、ベースとなった人物はいるようで、「Is Pentagon investigator Scott Huffman a real person?」の項目には、1999年当時、空軍(兵)記念博物館(Airmen Memorial Museum)の学芸員だったパーカー・ヘイズ(Parker Hayes)さんがピッツェンバーガーさんの戦友に会っていることや名誉勲章授与の再考を進言しているようです。

映画のエンドロールにはピッツェンバーガーさんの実在の戦友たち数人のコメントが流れていますし、ピッツェンバーガーさんのウィキペディアなどを読みますとその功績そのものは事実のようです。

映画では、ハフマンをペンタゴン空軍省のエリート職員として、そのハフマンがピッツェンバーガーさんに名誉勲章が与えられなかったことには陰謀があり、それを暴いていくようなつくりになっています。

ただ、陰謀とはいってもフィクションですのでかなり曖昧にごまかされています。実際、ラストの叙勲のシーンでは陰謀の張本人とされる人物も叙勲を拍手して喜んでしました。

フィクションと思われる部分は、ピッツェンバーガーさんが亡くなったアビリーン作戦には陰謀(的なこと)があり、意図的に仕組まれた作戦であり、味方と味方が戦闘をするように仕向けられた可能性があるというもので、映画の中でも味方を誤爆したというシーンや味方同士が打ち合うシーンが挿入されており、その作戦の指揮官が現在の上院議員であり、その側近のハフマンの同僚だか上司だかが意図的に推薦状を隠したことになっています。

その真相を知ったハフマンが自分の出世をかけて上院議員と対決するシーンでは、議員があっさりあの作戦は間違いだったと吐露し、その後、議会において議員が叙勲を提案しますが認められず、ついにハフマンは出世の道をなげうってマスコミに告発する道を選びます。そしてピッツェンバーガーさんへの叙勲が決まります。

上のリンクの「Was Pitsenbarger denied the Medal of Honor because of a conspiracy to keep a friendly-fire incident classified?」の項目を読みますと、映画の中の「味方と味方が戦っていた」などの台詞は誤解を招くとあります。ベトナム戦争ではかなりの誤爆があったことは事実ではあるようですし、アビリーン作戦は作戦ミス(Battle of Xa Cam My – Wikipedia)だったとの指摘があることは事実のようです。

いずれにしてもベトナム戦争自体がアメリカにとっては混乱した戦争だったということでしょう。それに、叙勲の審査に明確な基準があるわけでもないでしょうから、30年前のことなど記録がなければはっきりしたことなどわかるわけもなく、上のサイトでは死後直後に出された書類に不備があったらしいとあり、その時には空軍で最上位の空軍十字章という勲章を授与されているとのことです。

  

ということで、この映画は、(一概に否定しようとの意味ではありませんが)アメリカという国は最後には正義を為すといった「アメリカの正義」をネタにした映画ということだと思います。

ラストの演説はうまい

叙勲のシーンの演説が「アメリカの正義」を明確に現しています。演説そのものをとてもうまいですし、(うっかりしていると)感動してしまいます。

空軍省の高官でしょうか、ピッツェンバーガーさんの両親に名誉勲章を授与した後にスピーチをするわけですが、まずピッツェンバーガーさんの功績をたたえた後、この叙勲には彼の戦友たちの力があると語り、その場に臨席している戦友たちに顔を見せてほしいので立ってほしいと促し、続いてベトナム戦争に従軍した空軍の兵士たちにも同様に立つことを促し、そして、すべての兵士たち、その家族、全ての人々と順番に会場内の全員を祝福するように立ち上がらせるのです。

そして会場が万雷の拍手で包まれます。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ(なし)

1999年、ペンタゴン空軍省のハフマン(セバスチャン・スタン)は、ピッツェンバーガーの戦友タリー(ウィリアム・ハート)が出している名誉勲章授与の請願を調査することになります。ハフマンは出世街道を歩んでおり昇進も間近です。同僚(上司?)のスタントも適当にやっておけばいいと助言します。

ハフマンはタリーを手始めにピッツェンバーガーの両親や戦友たちを訪ね聞き取りを開始します。それにより明らかになっていく当時の戦闘が戦友たちの話とともに映像として描かれていきます。

戦闘シーンはほぼワンシーンの印象で、語り手となる何人かの戦友の見た目やら登場シーンが幾度かにわたって挿入されています。

アビリーン作戦というのはおとり作戦だったらしく、まずベトコンに一中隊を攻撃させ、その後別の部隊がベトコンを挟み込んで殲滅するというような作戦だったようです。しかし中隊はベトコンに待ち伏せされ包囲され、また後発の部隊はジャングルに阻まれて到着が遅れ、中隊には死傷者が続出します。

そこへヘリコプターでピッツェンバーガーたちPJ(パラレスキュージャンパー)が到着し負傷兵を救助しようとします。(理由ははっきりしないが)ピッツェンバーガーはひとり地上に降り、負傷兵を救出します。ウィキペディアには60人以上の兵士を救ったとあります。

そして最後はヘリコプターから上がれ、上がれと叫ぶ同僚兵士に行け!行け!と手振りで示し、味方が取り残されているの声を聞き銃を持って突っ込んでいきます。

戦友たちの話はいかにピッツェンバーガーが勇敢であったか、死をも恐れない兵士であったかとの話とともに、自分たちの後悔やその後遺症に悩まされていることが明かされていきます。

トコダ(サミュエル・L・ジャクソン)は自分が要請した砲撃が味方を誤爆したと苦渋の面持ちで語り、ジミー(ピーター・フォンダ)は夜は眠ることができずに未だに昼夜逆転しているとPTSDに苦しんでいます。

ハフマンは調査を続けるうちに当時の上官キーパーが書いたという推薦状がなくなっていることに気づきます。ハフマンはベトナムにいるというキーパーに会いに行きます。

このキーパーをやっているのは「ディア・ハンター」のスティーブンのジョン・サヴェージさんで、キーパーは「地獄の黙示録」のカーツ大佐ばりにジャングルに残り、まさに戦闘のあったその場所に蝶の楽園を築いて住み着いているのです。キーパーもピッツェンバーガーに助けられたひとりです。

ハフマンは蝶の楽園に感動するとともに当時の上官がホルト上院議員であることを知り、ワシントンに戻り推薦状紛失の真相に迫ります。

こういうことです。

当初調査は適当にやっておけばいいと言っていた同僚(上司?)のスタントンはホルト上院議員の選挙向けの自伝のゴーストライターをやっており、ホルトに傷をつけないようにとベトナム戦争時代の経歴を装飾しており、その邪魔になる推薦状を隠したということです。

つまり、ホルトはアビリーン作戦の指揮官であり、ピッツェンバーガーへの名誉勲章叙勲はあらためて作戦の失敗が表に出てしまうと、スタントンは考えたということです。

この後はすでに書いたように、ホルトが議会で叙勲を提案するも通らず、ハフマンがマスコミに公表し、晴れてピッツェンバーガーの叙勲が決定するという流れです。

名優共演が見どころ?

ということで映画としてはアメリカらしい映画といえばその通りということ以外にはなく、出演者が名優ぞろいということがこの映画の見どころかと思います。

戦友や父親を演じた ウィリアム・ハート、クリストファー・プラマー、エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・サヴェージさんら皆70歳を越えています。

残念ながらピーター・フォンダさんはこの映画が遺作になってしまいました。

ディア・ハンター (字幕版)

ディア・ハンター (字幕版)

  • メディア: Prime Video