罪の声

グリコ森永事件がいとも簡単に解決?

なぜこの映画を見ようと思ったのか、自分でもよくわからないまま見に行ってしまいました(笑)。満席で驚きました。小栗旬さん? 星野源さん? その両方?

あるいは原作ということもあるんでしょうか。原作は「2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位」「山田風太郎賞受賞」作品ということです。

罪の声

罪の声 / 監督:土井裕泰

まず、今さっき見終えたばかりの感想としては、これは本を読んだほうが面白いんじゃないのかなあと思います。

物語の基本は、時効になった過去の事件ではあるけれども、その事件の謎を解き明かしていくミステリーものですので、映画のように次から次への芋づる式に謎が解けてしまっては、あ、そう、あ、そうと見ていても考える余裕がありません。原作未読ですが、本であれば先を想像したりしながら楽しむこともできるのではないかと思います。

ただひとつこの映画(原作?)の特徴的なことは、当時その事件の加害者に利用された子どもたち3人の35年後を軸にしている点かと思います。ですからそれがうまく描かれているかが映画のポイントかと思います。

ネタバレあらすじ

2つの物語が同時進行し、中盤でその2つが合流し、ひとつの結論に向かうという構成です。

解き明かされる事件は35年前の「ギン萬事件」、実際に1984年から85年にかけて起きた「グリコ・森永事件」をモチーフにしており、かなり現実の事件を模しているようです。

曽根俊也(星野源)は父親から受け継いたテーラーを営んでいます。ある日、納戸の奥の箱の中からカセットテープと手帳を発見します。テープを再生してみますとそこから子どもの頃の自分の声が流れ、それが「ギン萬事件」の脅迫音声と同じであることに驚きます。その驚きは、知らぬ間に自分が犯罪を犯したのではないかとの恐怖と困惑となり、事の真相を知りたいと事件を調べ始めます。

阿久津英士(小栗旬)は新聞記者です。以前は社会部の第一線の記者でしたが、今は文化芸能担当です。過去に何かあり事件現場の第一線で働くことに迷いをもっているようです。その阿久津が「ギン萬事件」の特集企画の担当に指名されます。 

前半はそのふたりが別々に手がかりを追っていくシーンの切り返しで進みます。曽根は英語で記された手帳から、そして阿久津は当時ヨーロッパで起きた類似事件を調べ回っていた人物がロンドンにいるとの情報をもとに調べ始めます。

曽根は、手帳が叔父曽根達雄のものであり、当時達雄が学生運動の活動家であったことや脅迫されたギンガに恨みをもっていたことを知ります。それをもとに辿るうちに当時犯人グループが会合をもった小料理屋にたどりつき、そこに達雄がいたらしいことがわかります。また、幼い頃、達雄に連れられ動物園へ行った記憶がよみがえります。さらにそのグループにマル暴くずれの元刑事がおり、その一家、夫婦と子ども二人が行方不明になっていることを突き止めます。そして二人のうちの姉望の元教師や同級生の話から、望は自分の声が脅迫音声に使われたことを知っており、暴力団絡みの建設会社になかば監禁された状態だと伝えてきていたことを知ります。

一方、阿久津は、ロンドンでの収穫はなかったものの事件当時脅迫された企業の株価が暴落していることから、事件は身代金目的ではなく株価操作で利益をあげようとしたのではないかとにらみ、調べるうちに犯人グループのひとりと思しい男と親しい関係にあった女が小料理屋をやっていることがわかります。

曽根と阿久津がつながります。

ここまで映画は3分の2くらいでしょうか、犯人グループは、曽根の叔父達雄、一家で失踪した元刑事、暴力団絡みの人物、そして株絡みの人物で構成されていたことがわかり、足掛け2年にわたる事件の最後の身代金受け渡しあたりで株価操作による利益目的から身代金目的に変わったのではないかとほぼ推測され、事件の概要が明らかにされます。

そして映画は行方不明なっているふたりの子供の行方に焦点が移ります。

曽根と阿久津は行動をともにし二人の行方を追います。事件の数年後に暴力団絡みの建設会社の現場で放火事件があり、そこから犯人グループのひとりと少年が逃げていることがわかり、曽根と阿久津は四国、そして岡山へとその足取りを追います。

そして、ついにその少年聡一郎にたどりつきます。

聡一郎は語ります。

失踪したその日、二人の男(ひとりは達雄)がやってきて父親が暴力団グループに殺された、お前たちも逃げろ!と言われ逃げたが捕まり建設現場に監禁状態にされた。姉の望は同級生に会いたいと知らせて逃げようとしたが暴力団グループの偽装交通事故で死んだ。その後、犯人グループのひとりが現場事務所に放火して逃げるのと一緒に逃げ各地を転々として過ごした。

と。

聡一郎は、すでに暴力団も壊滅し時効も成立していることだからと説得され、自分があの脅迫音声の子どもだと記者会見をし、その場でお母ちゃんに会いたいと嗚咽するのです。

曽根の母親は末期がんで入院しています。しきりに家に戻りたいという母親の願いを聞き自宅で療養させることにします。自宅に戻った母親が納戸の箱を探っているところを見た曽根は母親に本当のことを教えてほしいと訴えます。

母親が語ります。

自分は学生の頃学生運動にのめり込んでいた。達雄には闘争のさなかに一度助けられたことがある。その後曽根の父親と出会い結婚し曽根も生まれた。テーラーを始めた夫とともに穏やかに暮らしていたある日、達雄が尋ねてきて兄弟だと知った。しかし、穏やかな生活を壊したくない思いで学生運動のことを夫に知られたくないと考え黙っていた。後日、達雄がやってきて、子どもの声で録音してほしいと頼まれ、断れず曽根に読ませて録音した。その後、達雄は危険を感じてロンドンに渡る際に録音テープと手帳を置いていった。

と。

阿久津は再びロンドンに渡り達雄の居場所を突き止め真実を語るよう働きかけます。

達雄が語ります。

当時学生運動に疲れロンドンに渡っていた。そこへ元刑事の男(聡一郎と望の父親)が訪ねてきて、ギンガへの恨みを晴らしたい(だったかな?)と話を持ちかけてきた。ヨーロッパで起きた類似事件を調べ、身代金受け渡しは絶対にうまくいかないので株価操作で利益を上げることを思いついた。元刑事の男が日本で暴力団絡みや株関係の人物を集めグループを組んだ。そして自分が日本に戻り、誘拐、脅迫、身代金要求を起こし株価を暴落させたが思ったほど利益が出ず仲間割れが始まった。元刑事が殺された後、妻と子どもたちを逃し、自分は録音テープと手帳を曽根の母親に託し再びロンドンに戻った。

と。

阿久津はその後の二人の子どもたちの末路を話します。愕然とする達雄です。

日本に戻った阿久津は事件の全てを記事にします。

聡一郎は養護施設にいる母親と再会します。

曽根の母親はこの世を去ります。

阿久津がテーラーを訪れ曽根にスーツの仕立てを頼みます。そして社会部に戻ったと語ります。ふたりは互いを称え合うように笑顔を交わします。

あまりにも段取りの物語ではないか

原作がそうなんだろうとは思いますが、結末から逆に組み立てられたような段取りで進むミステリーです。捜査(調査だけど)にまったくミスがなく芋づる式に次々に真相が明らかになるわけですから、見ていても事件解決後の説明を聞いているような映画です。

想像力が刺激されません。それに冷静に考えれば(考えなくても?)ツッコミどころ満載です。

上げ始めたらきりがありませんのでやめておきますが、謎解きものなのに警察捜査をなめています。警察が総力をあげて捜査したにもかかわらず時効にまでなった事件という重みがまったくありません。迷宮入りした事件が解決されていく物語なのにその過程に驚きも何もありません。

あれだけの痕跡を残していた犯人グループなのに警察は解決できなかったの?! というしかありません。

曽根の苦悩に焦点を絞るべきでは?

映画が原作に忠実に描かれているという前提ですが、この物語なら映画は原作とは視点を変えて描くべきじゃないでしょうか。迷宮入りした事件を解き明かしていく視点であればこれくらいのややこしさは必要になり、必然的に映画のように説明的になります。

せっかく曽根が自分の声と脅迫音声が同じであることを知るところから映画は始まるわけですから、それを知った曽根の苦悩と曽根視点の映画にすれば本物の社会派エンタテイメント映画になったんじゃないかと思います。

曽根は苦悩するというよりも探偵になっちゃています。もっと早く曽根と阿久津を合わせて、阿久津に曽根を責めさせ逃げ回らせればいいのにとか、阿久津をもっと裏のある人物にすればいいのにとか、まあそんな思いつきは置いておいても、とにかく皆いい人間過ぎます。

映画の7、8割方は事件の謎説明に終わっており、聡一郎が登場した時にはもう自殺寸前という、それで聡一郎の苦しかった過去を表現するというのはちょっといただけないような展開です。

あれだけもったいぶった存在で引っ張ってきた姉望を偶然走ってきた車に轢かせるというのも適当すぎます。

曽根にしても、そもそも母親の告白で済ませてしまうというのもなんですが、自分の声が犯罪に使われたというのにほとんど苦しんでいるシーンがありません。本人が幼く知らなかったにしても、聡一郎との違いがありすぎます。それになぜ聡一郎だけ記者会見をしたんでしょう?

最初には犯罪に利用された子どもたちという視点があるわけですからそれをもっと前面に出してつくって、ほしいなあ…。 

と思った映画でした。

罪の声 (講談社文庫)

罪の声 (講談社文庫)

  • 作者:塩田武士
  • 発売日: 2019/05/15
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