もうちょっとひねったほうがよかったかも…
タイトルそのものの映画でバルセロナからアメリカへの入国の際に追加審査を受けることになった夫婦の話です。制作費65億ドル、150円換算で9750万円ですので日本の感覚でもかなり低予算の映画です。

ロハス監督とバスケス監督…
上映時間も77分ですし、ほぼワンシチュエーションの映画なのに共同監督になっています。それにその二人の年齢が49歳と44歳とそれなりですのでデビュー作というわけでもなさそうです。
アレハンドロ・ロハスさんの方が49歳、ドキュメンタリーのシナリオや編集などにも関わってきているようですが主となっているのは映画ジャーナリストのようです。フアン・セバスチャン・バスケスさんは、HBOラテンアメリカでコピープロデューサーとしてキャリアをスタートし、後に撮影監督へと転向したとあります。二人ともベネズエラ出身ということで20年来の付き合いだそうです。
この「入国審査」はそれぞれの得意分野を生かした映画ということですね。ふたりにとっては長編劇映画のデビュー作ということになるのでしょう。
二人のインタビュー記事を読みますと、基本プロットはロハス監督の体験が元になっているようです。妻とともに専門職ビザ(どことは言っていない…)を申請し、事前承認も受けていたのに領事館へ行くと却下されたことがあるそうです。その話をバスケス監督にしたところ、バスケス監督自身もスペインで書類手続きに苦労していたことから、スペインに移住するベネズエラ人カップルの話にしようと膨らんでいったと語っています。
この映画はスペイン映画ですが、二人はベネズエラ人ですので製作会社を見つけるのに苦労したそうです。スペインには南米人への差別があるそうです。同じスペイン語圏ゆえということもあるのでしょう。
プロットは単純…
プロットは単純ですので映画の物語も予想通りのものです。
ディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)がスペインのバルセロナからアメリカに移住するためにニューヨークの空港に降り立ちます。
入国審査の列に並びます。ディエゴにはどことなく落ち着きのない演出がされていますので、きっと審査に引っかかるなにかがあるんだろうと予感させます。エレナにはそうした素振りはまったくありません。
案の定、入国審査で引っかかり別室での追加審査(2次審査)を受けることになります。
この後はもう予想通りで、まずは二人で矢継ぎ早に質問され、乗り継ぎに間に合わないとかディエゴが兄と会う約束があるなどと主張したところで審査官は聞く耳などもっておらず威圧してくるだけです。
審査官のターゲットはディエゴのようです。審査官の質問によってディアゴがエレナとは別のアメリカ人女性、それも一度も会ったことのない女性と婚約していたことが明らかになります。
つまり、ディアゴはアメリカの市民権を得るために偽装結婚を企てていた容疑が掛けられているということです。エレナとは事実婚の関係にあるのですが、審査官はこれも偽装結婚ではないかと疑っているのです。
ディアゴとエレナの出会いはバルセロナでのことであり、その時ディアゴは例の見知らぬ女性との偽装結婚を企んでいた状態だったんだと思いますが、次第にエレナに惹かれて(かどうかはわからない…)その女性との婚約を破棄し、エレナがバルセロナでの生活にうんざりしていることを知り、アメリカのグリーンカード取得への応募を勧めて、運よく当選したのです。その後事実婚を申請したということです。
アメリカでの入国審査です。そうしたディアゴの過去が審査官の質問によって明らかにされていき、次第にエレナがディアゴを疑い始め迷い始めるという映画です。
ふたりは信頼感を取り戻せるか…
そして尋問はひとりずつに変わります。尋問の常套手段です。個別に同じ質問をして嘘を見破る手法です。ディアゴの婚約の件についてディアゴはエレナに話していると言いますが、エレナは初耳だと答えるということです。
質問がちょっと単純過ぎますね。これがこの映画の一番の問題点で、この程度の質問では映画的にはサスペンスにならないということです。
ただ、それも移住ということを日常的に意識する環境にあるかどうかであり、そうであればこの映画はかなりリアリティをもって感じられるのではないかと思います。その点ではまだそうした意識が一般的とは言えない日本ではなかなか現実感を伴って見られる映画ではないということにもなります。
ということでディアゴに対するエレナの信頼感が揺らぎ、さてどうなるかということです。映画は二人に入国許可が下りることで終わっていますが、二人の信頼感は戻るのでしょうか。