そんなには褒めないよ。映画評

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夜明け

(ネタバレ)鮮烈デビューの新人監督に厳しいことを書いてしまった(ペコリ)

2019/01/18

「是枝裕和・西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」が満を持して送り出す新人監督、広瀬奈々子」さんのデビュー作です。

なんてこと書かなくても、多くの人がこの映画に興味を持たれたのはおそらくこのコピーからでしょう。

夜明け

夜明け / 監督:広瀬奈々子

「分福」とはなにかの説明が公式サイトにありました。制作プロダクションというわけではなく、企画ごとにスタッフが集まるための核のようなものということでしょう。「常駐メンバーは是枝と西川、映画監督の砂田麻美ほか、監督助手やプロデューサーなど計15人ほど」とあり、実は冒頭に紹介したコピーを見た時、そういえば「エンディングノート」の砂田麻美監督、どうしたんだろう?と思ったのですが、まだ(ペコリ)やっていたんですね。確か同じ様な売り出し方がされていたように思います。

ということでこの映画ですが、おそらくあまりいいことは書けないと思います。

事前に公式サイトのストーリーを読んでいったのがまずかったかもしれません。これ、シナリオからピックアップした文章じゃないですかね、映画がこの通りなんですよ。

で、問題は、映画がこのストーリー以上のものでもないんです。

どういうことかといいますと、映画って、当たり前ですけど、最低でも観客の気持ち(心)を引っ張っていくものがないといけないじゃないですか。物語の面白さであったり、謎であったり、画の美しさであったり、俳優のうまさであったり、音楽映画であれば音楽の良さもあるでしょう、あるいは構成のうまさやリズムといった技術的なものだけでも可能だと思いますが、2時間程度の時間を飽きさせず、スクリーンに集中させるためのなにかが必要だ思います。

もしストーリーを読まずにこの映画を見たとすれば、あるいは、シンイチ(柳楽優弥)と哲郎(小林薫)の二人はどうなっていくんだろう? 何か悪いことが起きるんじゃないだろうか? 哲郎はなぜシンイチをすんなり受け入れたんだろう? くらいの興味をもち、少しは集中できたかもしれません。

残念ながら、わたしにはこの映画のよさが全く見いだせず、30分ももたずに飽きてしまいました。仮に興味もつとすれば、残るはシンイチがなにを隠しているかくらいなもので、結果として、それさえ映画的にうまく生かされておらず、さらりと流されてしまっています。

シンイチは映画の冒頭で橋から身を投げ自殺しようとしたわけですが、その理由は、数年前に起きたその町のファミレス(って言っていたかな?)の火事の原因が自分にあり、火事により店長が亡くなったことへの罪悪感からです。

当時、シンイチは近くの大学に通っており、そのファミレスでバイトをしていたのですが、店長と折り合いが悪く(今でいうパワハラ?)、本人が語ってはいませんが、死んでしまえばいいと思っていたぐらいの関係だったようで、その日、帰り際、シンイチはガスが漏れていることを知っていたにもかかわらず、店長がタバコに火をつけるのをぼんやりと見ていた、つまり爆発することがわかっていながら黙っていたということです。店長は寝たきりになり、これまで来られなかったものの思い切って見舞いに来てみたらもう亡くなっていたらしく、おそらくその帰りなんでしょう、橋の上から身を投げたということです。

映画を見ながらもはてなを感じていたんですが、今書いてみますとますますつくりごと臭さが感じられる話で、そもそも火事ではなくガス爆発じゃないの?と思いますし、この告白の流れならガス栓をひねったのはシンイチでしょうし、そうであれば、こんなさらりと流すような個人の罪悪感だけですむようなことではなく、もっとクローズアップされて然るべき話でしょう、と言いたくなります。

さらに、居酒屋のシーンで、同じ様な店主と従業員の関係を入れ、最後には従業員にキレさせて店主に殴りかからせていましたが、何だかわざとらしくって嫌なシーンでした。

哲郎の方も過去への自責の念を抱えています。妻と息子が交通事故で亡くなったことはストーリーにありますが、その事故自体には(何かあるのかと思っていましたが)特別裏はなく、木工職人で木工所を経営する自分の跡継ぎにしようとする哲郎と、それに従いつつも(音楽の道を目指していたのかな?)反感を持つ息子との間に確執があったようです。

で、その息子の代役のようにすっぽりとおさまるシンイチに対して、哲郎はまたも同じ轍を踏むという話です。

逃げ出したシンイチは(夜中じゅう走って)朝を迎え、朝日を浴びて、ちょっとだけ木工職人でもいいかな?と思うという話です。

結局、物語の掘り下げができていないということでしょう。

親を演じ、子を演じ、家族を演じること、自分の価値観を子どもに押し付ける親、(若干ですが)社会の上限関係とパワハラ、こうした現代的な問題を軸に物語は考え出されたのだと思います。あえて言えば、映画の題材として頭で考え出したようにもみえます。でも、それらをただ組み合わせてなぞっているだけではなかなか人に伝わるものにはなりません。

映画はかなりゆったりとした間合いで撮られています。こういう間合いの映画はよほど画に緊張感がないと、もちろんいちばん重要なのは俳優の存在感ですが、その俳優を撮っている画も凡庸です。単に撮影の問題ではなく、なにを撮ろうとしているのか意思がみえないということです。

柳楽優弥さんはミスキャストでしょう。是枝監督や西川監督についているのであればたくさん俳優さんもみているでしょうから、無名の新人を使えばよかったんじゃないでしょうか。

と、新人監督にむちゃくちゃ厳しいことを書いてしまいましたが、映画を撮りたくても撮れない才能がいっぱいいるわけですから、こんないい条件で(かどうかはわかりませんが)撮れて劇場公開までできるわけですから厳しい批評も覚悟の上かとは思います。

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