1917

VR映画を目指すもドラマで破綻

これは企画倒れ、いやいや企画は実現しているんですからそうじゃなくて、なんて言うんでしょう、企画段階では面白そう! となるのに実際にやってみると意外につまらないという映画です。

もしこの映画を楽しみたいと考えるならば、少なくともドルビーシネマか IMAXで見るべきかと思います。そうすれば多少なりとも VRゲームのような感覚が味わえるかもしれません。

1917

1917 / 監督:サム・メンデス

つまり、見る者に、体感的に主人公と同じ感覚を味わわせようとの意図でつくられているということです。塹壕の中を主人公とともに動き回ったり、廃墟の中でぐるりとまわりを見渡したり、暗闇の中にふわりと浮かぶ灯りを感じたりと、ほぼ全編そうした映像でつくられています。

日本の公式サイトの宣伝コピーに

驚愕の全編ワンカット映像による ほんの一瞬先すらも予測できない緊張感
常に主人公のそばにいるかのような臨場感
〈命がけの壮絶なミッション〉に同行せよ

とありますが、おそらく制作の意図もそうなんだろうと思います。

「全編ワンカット」というのは、そう見えるようにつくられている(けど実際はそう見えない)だけでワンカットではありませんし、結果として、こういう体感的映画にワンカット云々はあまり効果的ではないようです。

飽きてきますし、それこそ VRゴーグルでもつけていれば体感できるかも知れませんが、映画では無理です。体感にこだわるのであれば様々な手法を使って五感を刺激して擬似的に体感させる手法のほうが有効のように思います。

ワンシーンワンカットならともかく、全編ワンカットなんて、その苦労度合いがネタにされるだけです。それに現在の技術を使えばワンカットに見せることなんてさほど難しいことではないのではないかと思います。

物語は、第一次世界大戦、イギリス軍の兵士ふたりが、ドイツ軍の罠にはまって総攻撃をかけようとしている前線部隊に攻撃の中止を知らせるという内容です。

命令をうけたスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)はまず縦横に張り巡らされた塹壕を進みます。この塹壕、第一次世界大戦を描いた映画には必ず出てきます。ドイツなど同盟国とフランス・イギリスなど連合国がともに対峙する形で築き、その長さが 760km、スイスからイギリス海峡にまで及んだものです。

The History Department of the US Military Academy West Point

この塹壕の中をふたりが兵士たちをかき分けて進みます。かなりの長回しではありますが、これまでにも同じような手法で撮った映画もありますので新鮮さはありません。

塹壕ばかりでは持ちませんので、地上に出たり、死体の山を越えたり、廃墟の街に迷い込んだりします。それでも持ちませんので、ドイツ機が墜落し、燃え盛る機体から救い出したドイツ兵にブレイクが刺されて死んだり、廃墟ではスコフィールドが赤ん坊を連れた女性に出会ったりします。

映画において、見る者を集中させるためには、単に映像や音の力だけではなく、やはり一番重要なのは物語の説得力でしょう。

この映画にはそれがありません。

第一次世界大戦も1917年となれば無線技術も使われ始めているようですし、仮にそれがないにしても、ふたりが命をかけて進む先でのんびりとした味方の兵士に出会ったり、味方の飛行機が制空権をにぎっているようでもあったり、車で移動する部隊に会い車に乗せてもらったりするのではさすがに集中しては見られないでしょう。

結局、アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームのような映画だということです。行く先々に障害をもうけ、ある時は勝利し、またある時は打ちのめされ、そして最後はギリギリのところでミッションは成功します。

であるならば、アクションものではないバディムービーとして、もっと会話を多くし、ふたりの背景を含めた人物像に焦点をおいて、戦争の無意味さを浮かび上がらせる映画にすることもできたのではないかと思います。

勝手に夢想しても始まりません。そもそもそういう映画ではありませんでした(笑)。

西部戦線異状なし (字幕版)

西部戦線異状なし (字幕版)

  • 発売日: 2015/02/05
  • メディア: Prime Video