- 出版社/メーカー: Action Inc./アップリンク
- 発売日: 2008/12/05
- メディア: DVD
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なんだろう? 何かが足りない、そう感じさせる映画だった。
ニコラス・トゥオッツォ監督は、70年生まれというから38歳、初の長編(クレジットは2004年制作)とのことだが、かなり丁寧に、しっかりつくられている。それぞれのカットやシーンで何を撮ろうとしているのかもはっきりしている。
映像も美しい。美しいというとやや語弊があるかもしれないが、南米系(スペイン語圏系?)映画独特の色彩感、空気が違うのだろうか、クリアすぎて切なくなるというか、どのシーンもカードにしたくなるような、ラテン系音楽の持つ哀愁のような、あの雰囲気が漂っている。
ケン・ローチの後継などという言葉が使われているが、テーマはシリアスで、鉄道が廃線になり、職を失った鉄道マンたちのその後の苦悩を描いている。誰もが明日をも知れず、路頭に迷うという言葉が浮かんでくる有様だ。
秀作の条件はそろっている。なのに何かが足りない。
なんだろう? 多分、多分なのだが、私は、観念的につくられ過ぎているのではないか、と思う。
映画は結構入り組んだつくりになっている。失業した男や家族たちを描いている時間軸とラストシーンに続くTVのインタビューに答える男の時間軸、そして、もうひとつが、やや次元を変えて、父を自殺で失った男の子アベル、14,5歳の設定だと思うが、彼のナレーションという、おおむね3層構造でつくられている。
監督は、自らの思いを、たとえば「鉄道員にとって、鉄道がなくなることは、絶望に等しい」などと、インタビューに答える男に言葉で語らせている。そして、もう一方、未来を「運命は変えられるのか?」「出口は、きっとある」などとアベルのナレーションで語らせている(語っている)のだ。
映画とは何か? それは、永遠の問いにも等しいのだが、この映画でもっとも大切な、失業した男や家族たちのシーンが、言葉ではなく、映画そのものとして、何かを語りかけてきていれば、「第三世代のケン・ローチ」と言えるのかもしれない。