マイ・バック・ページ/山下敦弘

の妻夫木がとてもいい。

山下敦弘監督の力量がひしひしと感じられる力強い映画です。何をおいても手を抜かないところが凄いです。本当はそんなことが凄くっちゃいけなく、当たり前のことだと思うんですが、最近私が見る日本映画は手抜きが多いです。

この映画は、主役級はもちろん、脇役からエキストラにいたるまで、誰ひとりとして遊んでいるやつはいません。あるいは、遊んでいるようには絶対に見せないように作られています。嘘くささは、カメラワークやライティングや音楽や、様々な手法を使って排除されています。

とはいえ、映画は失敗しています。かなりハイレベルなところで失敗しています。

原因は松山ケンイチです。彼のあくの強さが「梅山」を詐欺師的犯罪者へ引っ張りすぎています。「梅山」の詐欺師的側面、彼が「沢田」を意図的にだまそうとしているようにみえればみえるほど、映画は、1970年のあの時代を離れていきます。

「梅山」が立つべき地平は、コピーにもあるとおり「遅れてきた男」の焦りであるべきです。さらに言えば、「梅山」は「沢田」の見た「梅山」として描かれるべきです。

妻夫木聡はとてもいいです。悪人の「祐一」は私には全然ダメでしたが、この「沢田」は存在に説得力があります。結局のところ、妻夫木聡には、「祐一」のような労働者階級は無理で、「沢田」のようなエリート系の役どころがあっているということでしょう。

ということで、とても残念ですが、結果として、この映画はあの時代を描ききれずに終わっています。