そんなには褒めないよ。映画評

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中国娘 She, a Chinese/グオ・シャオルー監督

桜を愛する娘が自分の若さは桜と同じだと悲観して崖から身を投げた

2012/10/13

見逃したということではなく何となく気になって借りたDVDですが、見終わり、ググってみて「三重慶ではシャツの縫製工場に勤めますが、出来が悪いとクビになり、たまたま見つけた怪しげなLOVE-SALON(どんなサービス業かはっきりしない)でいきなり働かせてくれと居座り、隣に住むチンピラ(でもまじめそう)と恋仲になり、その男が殺されるや男の持っていたお金でロンドンへ渡ってしまいます。ロンドンはツアー旅行ですが、途中で逃亡し、不法滞在の中国人の女たちがたくさん隠れ住んでいるようなよく分からない場所に寝泊まりして、いろいろな仕事をし、そのひとつの整体院で出会った老人と結婚することになります。しばらく暮らすうちに、けんかをして家を飛び出し、今度は近くの小さなインド料理店をやっているインド人と暮らすことにします。そして妊娠、そのことを男に告げたかどうか(多分告げていない)分からない状態で自らそこを出ます。そしてラストシーン、すでに臨月くらいのお腹になったメイが、これまでと同じバックパックを背負って海沿いを歩いているところで終わります。

かなりドラマチックな物語ですが、映画は、「1.Mei has never been more than 5 miles from home」といった具合にタイトルが入り、エピソードを並べていますといった感じで「16.The wind blows the water towards the east」まで、かなり大胆に説明的なものを省略して続くわけです。

これだけですと、何だか細切れで雰囲気がなさそうに感じるかも知れませんが、それを映画的に成立させているのが、一貫してメイを追い続ける監督の目線、あるいは立ち位置です。それが何かは見て感じてもらうしかないのですが、それにしてもメイの表情がとてもいいです。寡黙な上に一見無表情なんですが、意志が強く、物怖じしなく、人に媚びない、なのに時に見せるけだるさや寂しげな感じがまさに「She, a Chinese」です。

それが最も現れているのが、ラストの妊娠を知ってからのいくつかのシーンです。インド人の男が自分はロンドンにはなじめないのでインドへ帰る、メイにも(どこへかは分かりませんが)帰れと言います。メイは一緒にいたいと言い、悲しげな雰囲気になり、男はその空気に耐えられなかったのか、メイを抱きしめます。次のシーン、インド料理店を道路の反対側から見つめるメイのアップ。そして、バックパックに荷物を詰め込むメイ。続いて、歩くメイを追うスローモーション、バックにバラード風の音楽(多分Lonely Lonely)がかぶります。そして、そのままスローモーションでラストの臨月くらいのお腹を抱えたメイへと続きます。この流れ、無茶苦茶いいです。

あ、そうそう、音楽もいいですよ。オープニングにもこのラストシーンが使われていますが、音楽は全く雰囲気の違ったロック(Fei Fei Run)が流れます。

ということで、先ほどの監督の目線ということにも関わってきますが、メイが行動するための力となっているもの、一見タフそうにみえ、決してめげることなく次から次へと進んでいくパワーの源は一体なんでしょう? 確かに全てに男がからんでいることは間違いありませんから、愛といったものを求めているようにもみえますが、多分そういうことではなく、誰にでもあるとらえどころのない何か、あるいは脱出願望、焦燥感とも言うべきものではないかと思います。

最初のパート、街から来た男とのシーンにこんな象徴的な会話があります。

二人で草むらに横になり、男はメイを抱きたいと思っているわけですが、その時メイが
「木に生まれ変われたら何の木になりたい?」と尋ねます。
「松の木かな お前は?」と、男は戸惑いながら答えます。
「桜の木」
「桜は一晩で散ってしまう」
「昔、読んだの 桜を愛する娘が、自分の若さは桜と同じだと悲観して崖から身を投げた」

この後メイはどうするのでしょう? 気になって仕方がありません。

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