今年はカミュ生誕100年なんですね。自伝ともいえる未完の遺作「最初の人間」の映画化です。
とても味のあるいい映画でした。映画の本筋は、カミュ=ジャック・コルムリ(ジャック・ガンブラン)が故郷アルジェリアを訪れ、失いかけた自らのアイデンティティを探し求めて行くといったことなんでしょうが、むしろ、彼が会う懐かしき人々、母親、叔父、幼なじみ、そして恩師たちの淡々とした生き様が、何とはなしに心に染みいり、ああ生きるってのはこういうことなんだなと妙に切なく感じ入った映画でした。
主演のジャック・ガンブランさん、知的で内省的な感じをうまく出してとても良かったです。彼がいろいろな人や場所を訪ねていく話ですから、そのせいで映画に一本筋が通った感じがします。映画の作り自体は、コルムリが幼い頃に使っていたベッドで寝入ると回想シーンに入るといった手法など、かなりオーソドックスで特別どうと言うことはないのですが、俳優が皆いい感じです。カトリーヌ・ソラ(1957年の母親)、マヤ・サンサ(若い頃の母親)、ドゥニ・ポダリデス(ベルナール先生)、叔父さん、コルムリの子役など、皆アルジェリアの空気(行ったことはありませんが)に溶け混んだような感じがします。
カミュ本人が、この映画のように、作家として成功後に、久しぶりに故郷アルジェリアを訪れたかどうかは知りませんが、カミュの経歴とほぼだぶり、作家コルムリはカミュの分身というか完全に重なってきます。映画の設定となっている1957年というと独立戦争の真っ只中で、実際にカミュはその出自のせいもあるのでしょうが、どちらにもつかない態度で批判を受け、次第に孤立していったようです。
そのあたりのことは、冒頭の大学での講演が独立派とそうでない派(アルジェリア戦争は結構ややこしいので適当)によって混乱するあたりに描かれ、その後もベースとしては常にそういった空気を感じさせてはいますが、映画としては直接的にそのことに触れることはありません。
フランス人でありながら、アルジェリア入植者の子として生れ、貧しい地域でアラブ人と一緒に育ったことによって、激しい民族対立や宗教対立の中にあっても、フランスとアラブの共同体といったような幻想を持つことになったのでしょうか。
若い頃に読んだきりのカミュ、もう一度読み直したくなる映画でした。