そんなには褒めないよ。映画評

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黒いスーツを着た男/カトリーヌ・コルシニ監督

人間の危うさをうまく描いており、サスペンスタッチの展開や映像処理でかなり見せる映画だと思うのですが…

2013/11/03

冒頭、全く関係のない3組の人間関係が提示されます。時間帯が夜(多分、深夜)のこともあり、暗めのシーンが多く、関係性がつかみづらく、ややつらいなあと感じたのですが、アル(ラファエル・ペルソナ)がモルドバ人の男をひき逃げし、それをジュリエット(クロチルド・エム)が目撃するワンカットで、そのもやもや感は一瞬にして消え、その後はサスペンスタッチでぐいぐい引っ張っていきます。

うまいですねぇ。

それにしても、最近のヨーロッバ映画(私が見る)は、移民問題を扱ったものが多いですね。この映画ではそれ自体が主要テーマではありませんが、重要なファクターになっています。ひき逃げされる被害者の男がモルドバからの移民で、不法就労のため何の補償も受けられず、ジュリエットが男の妻ヴェラ(アルタ・ドブロシ)に肩入れしていくきっかけとなっています。映画を見ている時には、モルドバがどこか、また国なのか地域なのかもはっきりせず、おおよそ東ヨーロッパか西アジア辺りだろうとの見当で見ていたのですが、今、確認しました。旧ソ連邦の一国家なんですね。

この映画は、基本、貧しい家(字幕では身分との言葉が使われていた)の出であるアルが、懸命に働いて、自動車ディーラーのオーナー社長に認められ、娘との結婚も決まり、いわゆる人生の成功者とならんとした時に、思いもよらない自動車事故を契機にして、それまでの生き方を問い直すというストーリーが軸になっています。

ただ、その周りには、かなりたくさんの問題がちりばめられており、意図してのことかどうかは分かりませんが、ラストシーンを見て、初めてそれが主要テーマだったんだと感じるつくりになっています。

ちりばめられていることのひとつは、先に書いた移民の問題、補償を受けられないこともそうですが、男が息を引き取った後、病院が妻ヴェラに臓器移植を打診するシーンでは、ヴェラは怒りのあまり、「いくらくれるのか! 生きている時には何もしてくれないのに、死んだ早々臓器をほしがる! 私たちの国では臓器を売れば○○(金額)になる!」(セリフは適当)と病院側に嫌みたっぷりの啖呵を切ります。

ジュリエットも何か問題を抱えているようです。彼女は、妊娠していますが、恋人との間がうまくいっているようには見えません。産む決心はしているようですが、なぜか恋人の家に一緒に住むことは嫌がっているようです。「…よう」と幾度も書いているのは、この二人の描写があまり多くないからですが、何だか、ちらちらと気になる言葉やカットを散見します。そうした中途半端な印象がぬぐえないのは、あるいは編集段階でカットされたからではないでしょうか。

私は、この二人のシーンをもう少し入れるべきだと思います。それがないために、ジュリエットの恋人(大学の教授?)がハイデッガーについて講義するシーン、「人の死は誰にも代わることが出来ない。その個人ものだ。」(これも適当な記憶)との、映画の内容とかなり深い関係を持つ(監督が持たせたいと思っている?)シーンが、あまりにも唐突すぎます。

アルの周りにも当然いろいろな問題があります。事故を起こした時に同乗していた二人の同僚との関係は、秘密にすることとの引き換えの恐喝という、こうした物語の常套手段を予想させますが、監督は、これにはあまり興味がないようで、深入りするようなことはありません。

アルの雇い主であり、いずれ義父となる自動車ディーラーのオーナーは、車を横流しする不正をして裏金を作っているようです。オーナーであるなら、自分の車を相手が誰であれ、売ることの何が不正なのか、何か税金をごまかしているのでしょうか?よく分かりませんでした。アルは、被害者への償いのために、その裏金を無断で使ったり、社長に黙って車を横流しすることで、やっと掴んだ(と思った)成功を台無しにするわけですから、アルが自分の生き方を見直すための装置くらいの意味なんでしょうか?

そして、これが最も主要テーマを分かりにくくしているアルとジュリエットの惹かれ合う関係です。一度きりですが、肉体関係にまで進みます。中程まではこれが主要テーマかと思っていましたが、アルはジュリエットに忘れられないと迫りますが、拒絶されると、あっさりとあきらめてしまいます。少なくとも、私にはそう見えました。

といった感じで、いろいろな問題がはっきりしないまま提示されていることで、テーマはかなりぼんやりしています。ただ、それらが映画的なマイナスになっているわけではありません。何よりも、人間の危うさをうまく描いており、サスペンスタッチの展開や映像処理でかなり見せる映画だと思います。

ただ、何かしら物足りなさが残ります。何か一本心が通っていれば、決して忘れることのない映画になるような気がするのですが…。

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