私の、息子/カリン・ピーター・ネッツァー監督

とても良い映画でした 車の中からのガラス越しの抑制されたエンディングが何とも言えず素晴らしいです

ルーマニア映画です。日本で公開されるものは少ないですね。最近では「4ヶ月、3週と2日」「汚れなき祈り」くらいでしょうか。ん? あらためてググってみたら、「4ヶ月〜」の方は最近じゃないですね、2007年のカンヌ、パルムドールでした。

とても良い映画でした。本当にそのものずばり、子離れできない母親と親離れできない息子の話です。

ルーマニアの首都ブカレストに住むセレブリティ、コルネリアの悩みは、30歳を過ぎても自立しない一人息子バルブのこと。そんなある日、思いがけない知らせが入る。バルブが交通事故を起こし、子供を死なせてしまったのだ。息子を救いたい一心で、あらゆる手段に訴えるコルネリア。バルブを救うためには、被害者家族が起訴を取り下げるしか道はない。コルネリアは相手側に謝罪するよう、必死の説得を試みるが、バルブは一切を拒否し、自分の殻に閉じこもる。このまま刑務所行きが確定すれば、バルブの将来は絶たれてしまう。なすすべを失くしたコルネリアに、バルブの恋人カルメンは、ある意外な、母の知らない息子の素顔を告白する…。(公式サイト

映画は、母親コルネリア(ルミニツァ・ゲオルギウ)が、妹(だったかな?)のナターシャに息子バルブのことを愚痴るところからいきなり始まります。その唐突さで、ある種この映画のトーンが見えてきます。私はこうした手法にやられてしまう方ですから、これで一気に集中力が高まりますが、どうなんでしょう…(笑)。

その後も、意図的にドラマを作るようなあざとい手法は用いず、じっくりと俳優たちの表情をとらえようとします。ただ、カメラは全て手持ちのようでやたら動き回ります。少しやり過ぎている感じはありますが、まあそれも受け取りようで、多分ドキュメンタリーのようなリアリティが欲しかったのでしょう。

そうやって映画はそれぞれの人物の微妙な心の動きを追い続けます。

そしてラストはほんのちょっとだけ前に進みます。コルネリアは、バルブと婚約者のカルメンと一緒に、死なせてしまった子供の親に会いに行きます。帰り際、それまでかたくなに会うことを拒否してきたバルブが自らの意思で車のドアを開け父親と向かい合います。この場面をカリン・ピーター・ネッツァー監督は車の中からのカメラでガラス越しにとらえます。二人の声は全く聞こえません。この抑制されたエンディングが何とも言えず素晴らしいです。

抑制と言えば、母親コルネリアを演じたルミニツァ・ゲオルギウさんの演技もすごいです。コルネリアは自分が息子に干渉しすぎており、そのために息子が自立できないことは分かっているのです。なのに放っておけないのです。その人間の性みたいなものが実によく描かれているのです。これって、そう簡単なことではないですよ。

ところで、何だかよく分からないシーンがありました。

コルネリアは、息子を守ろうと事故の直前バルブが追い越そうとした車の所有者にスピードの証言を変えるよう交渉するのですが、その男は8万ユーロを要求し、コルネリアはそんな大金はないと言い、男は今100ユーロでもあるかと言い、コルネリアは40ユーロくらいしか持っていなく、男はカフェの代金を払ってくれと言い、なのに、その男はいくらかの代金を置いて出て行ってしまうのです。

見間違えかも知れませんが、相手の男の方が金持ちであり、どこか余裕のある感じではありましたが、何とも奇妙な、でも何だか面白いシーンではありました。