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この国の空/荒井晴彦監督

二階堂ふみは、どんな役を演じても、必ず自分をさらけ出していると思わせる…

2015/08/19

二階堂ふみはつくづく不思議な俳優だと思い知らされます。

一般的な意味でいえば「女優」としてのアドバンテージなど何も持ち合わせていないように見えるのに、この2時間あまりの映画を完全に「二階堂ふみ」の映画にしています。

 「私の男」とさほど違った演技をしているようにも見えません。荒井晴彦監督に「余計な演技はするな」とでも言われているのでしょうか、ただただ「二階堂ふみ」を演じているだけです。

あの「二階堂ふみ」的台詞回しで登場する初っ端は、これで2時間もつのか?と不安にも思うのですが、何と2時間後、その圧倒的存在感で、完全に映画を自分のものにしているのです。

1945年、終戦間近の東京。
19歳の里子(二階堂ふみ)は母親(工藤夕貴)と杉並区の住宅地に暮らしている。
度重なる空襲に怯え、雨が降ると雨水が流れ込んでくる防空壕、
日に日に物価は高くなり、まともな食べ物も口には出来ないが、健気に生活している。
妻子を疎開させた銀行支店長の市毛(長谷川博己)が隣に住んでいる。
里子の周りでは日に日に戦況が悪化していく。
田舎へ疎開していく者、東京に残ろうとする者…。
戦争が終わると囁かれはするものの、すでに婚期を迎えた里子には、
この状況下では結婚などは望めそうもない。
自分は男性と結ばれることなく、死んでいくのだろうか。
その不安を抱えながら、市毛の身の回りの世話をすることがだんだんと喜びとなり、
そしていつしか里子の中の「女」が目覚めていくのだが──。
(公式サイト)

母親(工藤夕貴)と買い出しに行くシーンや市毛(長谷川博己)との神社のシーンをのぞいてすべてスタジオ撮影のきわめてオーソドックスなスタイルの映画づくりです。時間軸もそのまま東京下町の終戦前の数ヶ月を描いているだけです。当然ながら街並みにも風景にもリアリティはなく、空襲の緊迫感も感じられません。

しかし、不思議と見応えはあります。

荒井晴彦さん、監督もするんですね。多分、この映画、脚本家としての荒井晴彦さんがシナリオと映画の関係はこうありたいと考えての映画なんでしょう。シナリオの力が余すことなく発揮されています。

ひとつひとつの台詞に力があり、会話が生きています。それがこの映画のすべてのような気がします。

この映画の裏には、いわゆる市井の人々からの反戦と日本の終戦への疑問があると思います。公式サイトに荒井さんのコメントがありました。

この国の戦後は、戦争が終ってよかっただけでスタートしてしまったのではないだろうか。まるで空から降ってくる焼夷弾を台風のような自然災害のように思って、誰が戦争を始めたのか、そして誰がそれを支持したのかという戦争責任を問わずに来てしまったのではないだろうか。戦争が終ってバンザイじゃない娘を描くことで、この国の戦後を問えるのではないかと思った。(公式サイト)

ラストシーンは、里子(二階堂ふみ)の横顔のストップモーションに、「戦争は終わった。だが私の戦争はこれからだ。(記憶が曖昧で適当です)」のテロップが入って終わります。つまり、戦争が終わり、疎開していた市毛の妻が戻ってきます。市毛と関係を持った里子が市毛を自分のものとするための意思表示なわけです。怖い!

まあ、正直、このラストは、戦争のことなど吹っ飛んで、「コワ! でも二階堂ふみならきっとやるぞ」と思わせるに充分な存在感を発揮しています。

「二階堂ふみ」、どこに魅力があるのだろうと考えて、ふと思うことは、「二階堂ふみ」は、どんな役を演じても、必ず自分をさらけ出していると思わせる俳優なのではないかということです。

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