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リリーのすべて/トム・フーパー監督

映画はオーソドックス過ぎてつまらないのですが、実在のリリー・エルベさんを知っただけでも価値ありです!

2016/03/20

リリーの妻ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルさんが今年のアカデミー助演女優賞を受賞しています。

「英国王のスピーチ」を見て*1、「レ・ミゼラブル」なんてスペクタルものよりもオーソドックスなつくりの映画のほうが向いていると書いたトム・フーパー監督ですが、今考えてみれば、「レ・ミゼラブル」も冒頭のシーンはスペクタクルであっても、内容はオーソドックな歴史ものでしたね。

で、この映画も実在のリリー・エルベさんという「性別違和*2」を抱える方のトランスジェンダーの話が元になった歴史もの的な伝記的映画です。

舞台はデンマーク。風景画家のアイナー・ヴェイナーは、ある日、自分の内側に潜んでいた女性の存在に気づく。それ以来、“リリー”という名の女性として過ごす時間が増えていったアイナーは、心と身体が一致しない自分に困惑と苦悩を深めていく。トランスジェンダーという言葉や概念がまだ確立していなかったであろう、今から80年以上も前に、自分が自分らしくあるために大きな壁に立ち向かっていった人間の勇気を称える深淵な人間ドラマだ。(公式サイト)

つまり、実在したリリー・エルベさんの生涯があり、それを元にしたデヴィッド・エバーショフ著「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語(The Danish Girl)」の小説があり、そして、その小説を元にしたこの映画「リリーのすべて(The Danish Girl)」あるという関係になり、この映画のリリーをリリー・エルベさん本人と考えないほうがよさそうです。

で、映画ですが、たとえ3時間、4時間の映画でも、集中さえすれば長く感じることはないのですが、2時間のこの映画は、正直長く感じました。

もちろん体調やら鑑賞環境やら個人的感覚に影響されることですので、即映画の批評に直結させるのも何ですが、その訳のいくつかは割と当たっているのではないかと思います。

そのひとつは、ドラマが単調で先が読めるということです。さすがに最近ではトランスジェンダーをテーマにした映画もさほど珍しいものではなくなっていますので、男性(現在のところ女性が性的違和により男性へという映画はないように思う)が自らの中の女性を意識していく過程のビジュアル化というものも、同じく珍しいものではなくなっています。

この映画で言えば、リリー(エディ・レッドメイン)が、女性の(着るものとされている)ナイトウェアやストッキングを身に着けたり、女性の(するものと思われている)化粧を試みたりすることでアイデンティティを保つことが出来るといったビジュアルに過度のドラマ的意図を持たせても映画的核心にはならないのではないかということです。

次に言えることは、こうした極めて個的で言葉で表現しにくいテーマを扱いながら、人物描写に深みや独自性が感じられないことです。

冒頭に書きましたように、妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルさんはアカデミー助演女優賞を受賞していますが、たとえば、妻が(性的)男女の結婚が当然と考える女性だったとして、(男であるべき)夫が女性であると考え訴え始め、女性の(着るものとされている)服装をして、セックスも遠ざかっていくと考えれば、妻としてのアイデンティティ自体も崩壊してくだろうと映画的には想像されるのですが、果たして、そういう妻が演じられていたかというと、あまりに単調に夫リリーへの「愛」が語られているだけで、それは男である夫が男のまま去っていく、たとえば死による喪失とほとんど変わらなかったのではないかと思います。

トム・フーパー監督の手法の単調さもあります。映画にはいくつかの山がありましたが、その度に情緒的な音楽をつけた盛り上げパターンが繰り返され、またかと盛り下がってしまいます。

話をまとめれば、オーソドックスな手法はオーソドックスなテーマにしか合わないということだと思います。

ウィキペディアでリリー・エルベさんに関する記述を読んでみますと、なぜ小説を元にしたのか、実在の本人を元に映画化すべきだったのではないかと思います。この映画の場合、映画化のスタートは監督の意思ではないでしょうから、こんなことを言っても始まりませんが、すごいですね、リリー・エルベさん!

グザヴィエ・ドラン、リリー・エルベさんを映画化して!と叫びたくなります。

ということで、トランスジェンダーをテーマにした映画で勧めるとすれば、「わたしはロランス」、そして「トランスアメリカ」「プルートで朝食を」です。

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*1:DVD視聴なので「レ・ミゼラブル」よりも後になった

*2:現在は、障害ではないので性同一性障害とは言わない

www.tokotokotekuteku.com

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