「暴力」が「乱暴」を超えられず、血の生臭さも折れた歯の痛みも感じられず。真利子哲也監督を知ったのは、「NINIFUNI」ですが、今自分のレビューを読み返してみますと
まず何をおいても重要なのは、何を撮ろうとしているのかという明確な意志でしょう。テーマとかそういうことではなく、もっと直接的な、この人間の熱が撮りたいとか、この風景の凶暴さが撮りたいとか、そういった意味の明確な意志のことです。
と書いて、「NINIFUNI」、そして「宮崎将」にはそれがあると書いています。
剥き出しの魂が沸騰する。路上でいきなり見知らぬ人間に殴りかかり、ストリート・ファイトを繰り返す野獣のような若者。その異形のオーラとカリスマ性に惹きつけられ、共に凶行に及んでいく“恐るべき子供たち”──。脳髄がくらくらする衝撃、まさにこの映画自体が事件。日本から世界を震撼させる鮮烈な青春映画の登場だ。(公式サイト)
で、この「ディストラクション・ベイビーズ」はどうだったのでしょう?
残念ながら、気負いすぎなのかもしれません。
スクリーンの中で行われていること、やっていることは明確なのに、何を撮ろうとしているのか、何だか薄い膜が張ったようにはっきりしません。
もちろん、ものを作る人間に自分が何をつくっているのか明確に認識できているなんてことはまずあり得ないことでしょうし、逆に計算してつくって人を感動させられるのなら、それは天才でしょうから、普通はつくる過程で何かが見えれば御の字、この映画で言えば、とことん「暴力」を撮り極めたら、一体何が見えるだろうくらいでもいいと思うのですが、きつい言い方をすれば、結果として少し監督力が足りなかったのだろうということになります。
芦原泰良、この男、映画の中でなんて呼ばれていましたかね? たいら? やすよし?
この映画は、その泰良(柳楽優弥)次第みたいなところがありますので、結局、俳優をうまく活かせていない、あるいは俳優が適役じゃないということだと思います。
俳優も合う合わないがありますので、俳優力の意味ではないのですが、柳楽優弥より、むしろ弟将太役の村上虹郎の方が危険な感じがしましたね。彼で撮れば何か違った映画になったような気がします。
やはり、こういう映画は、とことん「暴力的」で「凶暴さ」で気持ち悪くなるくらいまでいかないと何も見えてこないでしょう。
それに、多分、暴力シーンをできるだけワンカットで撮りたいとの思いがあったのではないかと思いますが、あまり成功していないですね。どちらかといいますと、街のチンピラ同士の喧嘩のようにしか見えません。
思い返してみれば、物語自体もあまり整理されていないようです。
泰良と将太の関係、裕也(菅田将暉)や那奈(小松菜奈)の設定も曖昧な気もしますし、ロケーションも、三津浜も松山も同じ町のような作りになっていたように思います。
台詞が聞き取りにくいのも、意図があってのことだと思いますが、それもあって、分かりにくいところが多かったです。それを圧倒的な「熱」で忘れさせてくれれば、それはそれでよかったのですが、残念ながらそこまで到達できずということでした。
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