理不尽で不条理な国境線が個人や家族を破壊する
キム・ギドク監督は多作の監督ですね。1996年のデビュー作「鰐」以来、毎年のように発表し続けています。
初めて見たのが「春夏秋冬そして春」、それ以降ほとんど見ていますし、過去の作品も DVD になっているものはほとんど見たはずです。
やはり印象深いのは、上の作品や「サマリア」「うつせみ」「弓」あたりの屈折した純愛ものや現実と幻の境目が曖昧な作品ですね。
最近のものは話が直接過ぎて見たそのままといいますか、イメージが拡がらないといいますか、まあ簡単に言いますとつまらないです(スマソ)。
監督:キム・ギドク
北朝鮮の寒村で妻子と共に平穏に暮らす漁師ナム・チョル。ある朝、漁に出るが、網がエンジンに絡まりボートが故障、韓国側に流されてしまう。韓国の警察に拘束された彼はスパイ容疑で執拗な尋問を受ける。しかし、南北関係の悪化を懸念した韓国当局は、チョルを北朝鮮に送還する。だが、彼を待ち受けていたのはいっそう苛酷な運命だった。(公式サイト)
この映画も見たままの直球勝負でした。
南北朝鮮の国境線、漁に出た北朝鮮の漁師ナム・チョルは、エンジンの故障で韓国側に流され、拘束されてあやうくスパイにされかかります。それでもなんとか北朝鮮に戻ったナムですが、今度は北朝鮮の国家安全保衛部に韓国のスパイとなっていないかと疑われ、拘束されてひどい目にあいます。
で、最後は自暴自棄的に国境警備兵に逆らって漁に出たところを撃ち殺されてしまいます。
そのまま素直に見ていればすーと入ってくる映画ですので特別想像力もいりません。だからと言って、面白くないというわけではなく、結構集中して見られます。多分、この映画が実際の南北境界線の現状を知らない者でも、きっと現実にあるよなあと思えてしまう内容だからでしょう。
確かに見たままでイメージが拡がることはありませんが、極めて単純化されているにもかかわらず、そしてまた(多分)低予算で制作されているつくりであるにも関わらず、飽きることなく見られ、不思議な説得力を持っています。
もともと物事を単純化して描くことがうまい監督だと思いますが、その単純化に迷いがないことも力になっていると思います。
物質的な豊かさが決して幸せに結びつかないとか、もうすでに正面切って言うのもためらうような時代になってしまいましたが、キム・ギドク監督はストレートにきます。
「The NET」なんてタイトルは、もちろん直接的には「網」でしょうが、The としているところからしますと個人が絡め取られてしまう社会的な構造みたいなものを象徴しているのでしょうか。