(ほぼ完全ネタバレ)と、ひねくれレビュー
「ブルーバレンタイン」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」のデレク・シアンフランス監督、えらくドラマチックな映画を撮ったもんです。
と、ややびっくりして公式サイトを見てみましたら原作があるようです。M・L・ステッドマン「海を照らす光」、オーストラリアの作家です。
オーストラリアの話だったのですね?
第一次大戦後の、心に傷を負った男と妻の話ですので、イギリスかアイルランドの話かと思って見ていました。
監督:デレク・シアンフランス
戦争で心に傷を負いオーストラリアの孤島で灯台守となったトム。しかし、美しく快活なイザベルが彼に再び生きる力を与えてくれた。彼らは結ばれ孤島で暮らすが、度重なる流産はイザベルの心を傷つける。ある日、見知らぬ男の死体と泣き叫ぶ赤ん坊が乗ったボートが流れ着く。赤ん坊を娘として育てたいと願うイザベル。過ちと知りつつ受け入れるトム。4年後、トムは娘の生みの母親と出会ってしまう。(公式サイト)
えらいドラマチックと書きましたが、ただ始まってしばらくは、これで物語になるのかなあ?と思いながら見ていました。もちろん、原作があることも知らず、また何も見たり読んだりせずに行ったからではあります。
まず、トム(マイケル・ファスベンダー)が灯台守の面接を受け、面接官が、孤独な仕事であり、前任者もそれゆえ心を病んだが大丈夫かと尋ねますと、自分は戦争(第一次大戦)で多くの人を殺してきたと自責の念をにじませ、むしろ一人でいたいと語ります。
で、前任者復帰までの6ヶ月の採用となり、島への経由地の村で歓迎を受け、後に妻となるイザベル(アリシア・ヴィキャンデル)との出会いがあり、その後島へ渡るのですが、当然全くのひとりですので、映画的には、台詞はありませんし日々の生活と美しい自然のカットが続くだけです。
そして、6ヶ月後、前任者が自殺したとのことで契約が延長となり、一旦村に戻ります。ここで初めてイザベルとの会話があり、イザベルが相当積極的に「島に連れて行って」とトムに迫ります。しかし、「保全局の決まりで妻しか行けない」と断りますと、イザベルは「じゃあ結婚して」とさらに迫ります。
このシーンのアリシア・ヴィキャンデルがいいですね。
上のように言葉で書きますと、一体どういうシチュエーションなのか分かりにくいかと思いますが、トムは心を閉ざしているわけですから、イザベルとの会話もそっけなく、イザベルがいろいろ尋ねるのですが、過去のことは過去と当然話したがりませんし、未来のことは、何だったか忘れましたが、いずれにしても投げやりっぽいわけです。それでも、イザベルは上に書いたような台詞を実にいい笑顔で語るわけです。
アリシアの笑顔がいいですし、その笑顔のとらえ方がうまいですね。
このアリシア・ヴィキャンデルさん、「コードネーム U.N.C.L.E.」と「リリーのすべて」を見ていますが、今読み返してみますと、監督のせいだったかもしれませんが(私には)あまり評価は高くなかったようです。
でも、この映画のイザベルはいいですね。後半はパニクったり、怒ったりとかなりいろいろな表情を見せてくれるのですが、一貫して良かったです。
それにあまり目立つところではありませんが、その表情を抑える画(カット)がいいです。
話があっちこっちになってしまいましたが、結局二人はそのまま別れ、トムは再び島へ戻ります。当然、この二人の映画だろうことはわかりますが、何ヶ月も戻らないのにどうするんだろう?と思っていましたら手紙でした。
そうですよね、1920年くらいの話ですから、手紙ですよね。
二人は、手紙で愛を育み、イザベルの明るさでトムの心も癒やされ、めでたく結婚、二人は島へ渡ります。
新婚で無人島ですよ、もう(笑)!
というわけで、こんな幸せいっぱいみたいな話で映画になるの? というのが最初に書いた理由です。
デレク・シアンフランス監督の本領発揮はここからでした。
この監督、不幸になっていく男女を描くのはうまいんですよ(笑)。
後半は、あるひとつの決断がすべての人間を不幸にするという話です。
多分、原作のプロット通りだとは思いますが、イザベルは続けて二度流産します。ある日、漂流したボートが島に流れ着き、そこにはすでに息絶えた男と泣きじゃくる赤ん坊がいます。
トムは保安局に知らせるといいますが、イザベルが、いうなればこれは神の贈り物である的な感じで自分の子供として育てると言い張ります。このあたりもアリシアがうまくて、イザベルの精神状態を想像させ説得力があります。
トムは押し切られます。
この判断が、「ああやっちゃったね」と、その後のドラマのキーになるのだとは分かるのですが、監督がそれを意図的に見せているのか、ひねくれものだから(笑)そう感じるのかは分かりません。
で、2,3年後、ルーシー(子ども)の洗礼の日、トムは教会の墓の前で嘆き悲しむ女性ハナ(レイチェル・ワイズ)を見掛け、その墓があの日に亡くなった男と子どもの墓であると知ります。
トムは(映画的には)罪悪感に囚われ、匿名でハナに手紙を出したり、赤ん坊が手にしていたおもちゃ(?)を送ったりします。
で、結局、警察に事実がバレることになり、トムはイザベルにすべて自分がやったことにすると強く言い残し逮捕されます。ルーシーは、イザベルから引き離され、ハナのもとに戻されます。
誰がどう考えてもわかりますし、そういうドラマなんですが、自分の子として育てたイザベルは我が子と引き裂かれることになりますし、ルーシーに実の母と育ての母の違いなど分かろうはずもなく、またハナは我が子に「ママのところに帰りたい」と泣き続けられ苦しむわけです。
なのに、ひとりトムだけは、自分の決断がまねいた不幸を目にしなくてもいい監獄に逃げ込み、自分の苦しみにまどろむことで自分自身をエクスキューズするわけです。
ひねくれて読み取れば、この映画はそういう残酷な物語です。
多分、原作はそういう視点の物語ではなく、もうひとつのキーワード「一度だけ赦せば人は救われる」がテーマの物語だと思います。
つまり、イザベルは自分を裏切ったトムを赦せずにいますし、ハナはトムが夫を殺したと考え、また我が子を奪ったとトムとイザベルを憎んでいます。そんな時、ふと生前の夫の言葉を思い出します。
ここはちょっと説明を要するのですが、ハナの夫はドイツ人であり、戦後すぐでもありますので差別と偏見の目で見られ、それがきっかけとなって亡くなったのですが、その夫はいつどんな時でも穏やかな表情で人に接するので、ある時ハナがそれを尋ねますと「一度だけ赦せばいい。許さなければいつまでも相手のことが頭に浮かび自分が苦しむだけだ」と答えます。
その言葉を思い出し、ハナは二人を許し、いろいろあって(というか記憶がちょっとはっきりしない)イザベルはトムを赦すというお話です。
さらに、何年後か、イザベルが最期の時をむかえた時、トムがイザベルに「もう君も自分自身を許していい頃だ」と言います。
そして、さらに何年後か、年老いたトムのもとに、子どもを抱いたルーシーが訪れます。イザベルはその日を予想してルーシーに手紙を残しています。
ルーシーはトムに「また訪ねてもいいか」と尋ねますと、トムは「イザベルもそれを望んでいる」と答えます。
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