海辺の生と死

演出意図が裏目か?俳優の存在感が足りず

監督:越川道夫、主演:満島ひかりで見に行ったのですが、『死の棘』の島尾敏雄さんと妻島尾ミホさんの話だったんですね。知りませんでした。

映画タイトルと同名の原作があるとのことですが、『死の棘』共々読んでおらず、小栗康平監督「死の棘」しか知りません。

越川道夫監督は、長くプロデューサーをされており、前作の「アレノ」が初監督作品という方です。

監督:越川道夫

昭和19年12月、奄美カゲロウ島(加計呂麻島がモデル)。国民学校教員のトエは、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の朔中尉と出会う。軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。やがてトエは朔と逢瀬を重ねるようになる。しかし、ついに朔が出撃する日がやってきた。母の遺品の喪服を着て短刀を胸に抱いたトエは、いつもの浜辺へと駆けるのだった…。(公式サイト

島尾ミホ著『海辺の生と死』だけを原作としているわけではないようです。公式サイトにはありませんが、映画.comには『死の棘』や短編小説『島の果て』を織り交ぜてとあります。

読んでみようと思います。

海辺の生と死 (中公文庫)

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で、映画です。

ファーストシーン、国民学校の先生トエ(満島ひかり)が子どもたちと緑のトンネルをやってきます。予告編にもありますが、こういうロケーションいいですね。

沖縄には観光地にもなっている「備瀬のフクギ並木」なんてところもありますが、映画の舞台は奄美の加計呂麻島、ロケも当地で撮っているようです。

子どもたちには毎日の通学路ですが、その日、真っ白な軍服を着た軍人が立ちはだかり、「明日からはここは通ってはいけない」と言います。トエと朔隊長(永山絢斗)の出会いです。

通っていけない理由は特攻艇を隠しているからだと思いますが、あれ、山道ですよね。特攻艇を隠すようなところじゃないような気がしますが、見間違いだったのでしょうか。

それはともかく、その後の展開は、徐々に二人が惹かれ合い、やがて肉体関係を持つまでを2時間くらいにわたって描いていきます。

最初の2,3シーンを見ただけで、この映画が何をやろうとしているかわかります。

とにかく台詞の間合いが長いのです。これは全編を通した演出でしょう。それに、カットの間合いも長いです。ほとんどフックスだったと思いますが、かなり甘めのフレーミングですので、正直かなりつらいシーンが多いです。

なぜその手法をとったのかは分かりませんが、あるいはゆったりした時間の演出だとすれば単調すぎて長さだけが目立ちますし、静寂の緊張感を演出しようとしたのであれば俳優にその力がありません。

満島ひかりさんは「愛のむきだし」以降いろいろ見ていますが、その後いいと思ったのは「悪人」くらいで、主役を張るには力不足です。

永山絢斗さんは初めてかなと思いましたが「ふがいない僕は空を見た」の主役だったんですね。この映画では長い間合いについていけていません。

朔隊長は、戦争末期ゆえに何の訓練もなくいきなり部隊の隊長として赴任しますが、大学では東洋史(だったと思う)を学び、音楽も軍歌より島唄を好むという文学青年です。学者肌のトエの父(津嘉山正種)とも肌が合うようです。

島唄が何曲か使われておりトエも歌うのですが印象薄いです。満島ひかりさん、デビュー当時は歌手でもあったのんでしょうから、もっと本格的に歌わせればいいのにと思います。映画的にも島唄がうまく使われているとは思えません。

と、二人の、さほど熱くない求め合いが長く続き、肉体関係にまでいくのですが、そのシーンも色っぽさもなく、そう言えば、トエは求めるのですが朔は体を躱しつつ避けてる風のシーンがありましたが、あれは意図的なんでしょうね。トエの思いの強さを現していたのかも知れません。

ということで、いよいよ敗戦間近、広島に原爆が落とされたとも語っていましたので8月6日以降でしょう、朔隊長に特攻艇での出撃命令が下ったその夜、トエは自らも自決の覚悟をもって最後の逢瀬に赴きます。

そのシーンも(多分)演出意図通りの徹底さで、海辺の二人を(私には)何とも中途半端なフレーミングで捉えたままかなり長めのワンカットでおさえていました。

結局、理由は語られませんでしたが朔隊長は出撃することなく生き延び、またトエも自決することなく、敗戦をむかえるという物語です。

あるいは、二人の俳優の存在感と間合いの緊迫感で成り立たせようとしたのかもしれませんが、残念ながらそうしたものは感じられず、あまりよくない方へ、つまり単調で長いという結果になったようです。

ところで沖縄戦のことが全く語られませんでしたが、赴任したのがその後ということなんでしょうか?

いやいや昭和19年12月となっています。これは原作を読むしかないですね。

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