映画としての出来よりも、裁判や論争の内容が注目されそう
実話をもとにした映画とのことです。
アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件 – Wikipedia にかなり詳しく書かれていますが、こうした裁判があったことも知りませんでした。
ウィキペディアによれば、「イギリス人作家デイヴィッド・アーヴィングがアメリカ人作家デボラ・リップシュタットと出版社ペンギンブックスを訴えたイギリスの裁判。アーヴィングは、リップシュタットが著書の中で彼をホロコースト否認論者と呼び中傷していると主張した。」ということで、映画は、その法廷闘争をリップシュタットとその弁護団の視点で描いています。
監督:ミック・ジャクソン
それにしても、ホロコーストという歴史上の事実があったかなかったかを裁判で争う(った)という、まずそのことにかなりの違和感を感じます。
これは、おそらく、映画の中でも描かれていましたが、イギリスの裁判制度が影響しているのではないかと思います。訴訟は、リップシュタットさんの著書が名誉毀損にあたるかどうかで争われ、ウィキペディアによれば、
イギリス名誉毀損法は原告にその言論が中傷的であることを示すことしか要求していない。その言論が相当程度に真実あることを証明する立証責任は被告側に課されており、情報源に依拠していることは何の意味も持たない。
ということで、リップシュタットさんの著書の中の記述が真実であることを証明する必要があったからでしょう。
で、映画では、ホロコーストの存否を正面から争おうとするリップシュタット(レイチェル・ワイズ)に対し、弁護団は、アーヴィング(ティモシー・スポール)が差別主義者であり、その発言や著述自体が虚偽であることを証明しようとします。
リップシュタットと弁護団の対立や葛藤も映画の見所のひとつになっています。
もちろん主となる映画の軸は法廷闘争の成り行きであり、まずはアーヴィングが有利になり、次はリップシュタット側が有利になりといった具合に、オーソドックスな展開で進み、リップシュタット側の勝訴を思わせて終盤に向かいます。
ところが、ラスト前、あるいはどんでん返しかと思わせるような出来事がおきます。
リップシュタット側が、アーヴィングの講演の映像などで差別主義者であることを印象づけ、歴史学者の証言などでアーヴィングの主張が虚偽であると証明できたと自信を深めていたその時、裁判官がリップシュタットの弁護人に
「弁護人はアーヴィングの主張が虚偽であり、アーヴィングも差別主義者であると証明しようとしている。しかし、アーヴィングが心の底からそれらを信じ主張しているとすればそれは虚偽にはならないのではないか」(という内容だったと思う)
と質問するのです。
当然、リップシュタット側に暗雲が立ち込めるわけで、さて、これをどうひっくり返すかと、映画は期待させるのですが、なんと!? その次は勝訴の判決が出てリップシュタット側が喜ぶというあっけない幕切れでした。
まあ、実際にあった裁判ということもありますので、あまりドラマチックに盛り上げることもできないとは思いますが、やや肩透かしのエンディングでした。
ですので、映画としてどうかといえば、ややクエスチョンがつきますし、そもそも映画向きの題材ではないと思います。
裁判の内容、実際にあった論争についていえば、アーヴィングの主張を詳細に知っているわけではありませんが、こういう人はどこにでもいますし、どんなにその矛盾や嘘を指摘しても主張を変えることなんてありえないです。実際、アーヴィングもこの判決に対し、却下はされたものの控訴はしているようです。
南京虐殺や従軍慰安婦の問題でも同じで、否定論者は、史実で証明されていることでも、曖昧な部分を取り上げて、仮にそれが否定できたならば全てがなかったかのように主張します。
こういう映画、日本でも誰か撮りませんか?
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