犬猿

舞台劇にもできそうな会話劇、面白いですよ。特に江上敬子さんがいいです。映画と関係のないところから入りますが、監督の????田恵輔(吉田恵輔)さんの「????」って公式サイトでは「つちよし」になっていますね。普通じゃ変換されません。

ちょっと調べてみましたら、もともと「吉」が旧字体で「????」が新字体(異字体)の同じ文字で、「????」は現在でも人名には使えない文字みたいです。間違っていたらすみません。
三省堂辞書サイト「????」と「吉」

で、映画ですが、「ヒメアノ~ル」ではもうひとつだなあと感じたんですが、この映画はうまくいっていますね。

監督:????田恵輔(吉田恵輔)

公式サイト

面白いです。映画のリズムと俳優の間合いがピッタリあっています。

二組の兄弟姉妹が絡み合う、どちらかといいますと会話劇です。オリジナル脚本とのことですが、舞台劇にもできそうな内容です。

弟、金山和成(窪田正孝)は印刷会社に勤めるごく一般的な青年、兄卓司(新井浩文)は全身に入れ墨を入れているヤクザ(系?)です。

卓司は強盗の罪で刑務所に入っていたらしく、今出所したばかりで和成のアパートに転がり込んできます。和成にしてみれば迷惑なこと限りなく、できれば会いたくもないのでしょうが、そこは兄弟、どちらも多少依存している関係にも思えます。

つまり、卓司はすぐに手が出るタイプで見知らぬ者であればすれ違うにしても避けてしまう風貌ですが、和成にしてみれば幼いころは一緒に遊び、よくかばってくれた兄ですので、時に強く言うこともできる関係ということです。卓司が乱暴な口をきいても和成が恐れて何も言えなくなるわけではありません。

姉妹の方は、姉である幾野由利亜(江上敬子)が病に倒れた父親の跡をついて小さな印刷所の社長業をしています。妹の真子(筧美和子)も印刷所で働いてはいますが、おそらく甘やかされて育ったのでしょう、仕事に身など入れておらず、女優になりたいと芸能事務所のようなところに所属してグラビアのような仕事をしています。

由利亜は印刷会社の営業として出入りする和成に好意を持っており、時に損得を超えた仕事まで受けるといったことで結構積極的にアプローチするのですが、かなり太った体型や美人とはいえない容姿(という設定)のため見向きもしてもらえません。

この姉妹も互いの欠点を言い合えるほど近しい関係として描かれており、(ほぼ)本音で言い合います。

兄弟姉妹のいる方はすぐにわかると思いますが、こうした何でも言える関係というのは実は仲がいいということで、この映画でもあえてオチでそれを見せています。本当に仲が悪ければ口もききません。

「犬猿の仲」というよりも「ワンワンキャッキャッ」言える「犬猿」は仲がいいということなのかも知れませんが、いずれにしても、この兄弟間の、姉妹間の、そして和成と由利亜の会話の間合いと面白さがこの映画の見所です。

なかでも由利亜の江上敬子さん、全く知らなかったのですがニッチェというお笑いコンビで活躍しているとのこと、台詞の間合いはもちろんのこと、表情もいいですし、渡辺直美ばりのダンスを見せたりもしており、この江上さんが映画のリズムを作っているような映画です。

ですので、この映画における物語は、4人の関係を変化させて面白く展開させるためのものであり、たとえば妹の真子は姉が和成に好意を持っているからこそ和成と付き合い始めるわけで、そこには愛情云々などという視点はまったくなく、当然ながら、由利亜の嫉妬や怒り、真子の優越感、和成の無神経さが人間関係を混乱させ面白さを生み出していくわけです。

という感じで、時間にして8,9割程度まではかなり面白く見たのですが、(私は)ラストのオチで引いてしまいました。

まず簡単に物語を説明しますと、しばらく和成のアパートに居候していた卓司は何やら(ヤバそうな)仕事を見つけ羽振りがよくなり、受け取りはしませんが和成に車を買い与えたりします。

無神経な和成は、由利亜が仕事を安価に受ける代わりに誘った遊園地に一緒に行き、(もらい物ではないかと思われるような)プレゼントをあげたりします。

真子は日々由利亜からあらゆることで、その意図はないにしても見下されるような小言を言われており、その腹いせ(と思われる)に和成とつきあい始めます。

当然由利亜はショックを受けますが、それでも怒りをうちに秘めて耐えます。

一方、卓司は、違法な仕事だったのでしょう、警察から手配され、再び和成のアパートに逃げんこんできます。

そして事件はおきます。

卓司がボヤを起こしたことをきっかけに二人は大喧嘩、和成がアパートを飛び出した後、卓司は仕事のトラブルだと思いますが仲間から襲われ瀕死の重傷をおいます。それを見つけた和成は救急車を呼ぶと言って外に飛び出しますが、一瞬迷いが生じ、つまりこのまま放っておけばもう兄卓司との関係で思い悩むことはないのではないかと救急車を呼ぶことを戸惑います。

由利亜の方はといえば、和成とのことを誇らしげに語る真子への腹いせに家族の前で真子がやっているエロ系イメージビデオを流します。 当然大喧嘩、真子は家を飛び出していき、その後、由利亜はあれやこれや思いが煮詰まったのでしょう、手首を切ります。

余計なお世話だと言われそうですが、この後の展開は、なぜそんなみえみえのオチをつける?と言いたいですね。

ここまでおよそ8,9割程度、思わずぷっと吹き出したり、なるほどと感心したり、うまいなあと感動したり、楽しんできた映画の最後の最後でダメにするやつは誰だ!と、それは吉田恵輔監督でした(笑)。

なぜ、わかったように兄弟姉妹ってこんなもんだよって上から目線で言うの? 兄が刺され、姉が手首を切り、それでも生き延びたことさえわかれば、あるいはそれぞれ改心するかも? でも変わらないよなあと考えるために映画ってあるわけよ、わざわざそれを見せつけてくれなくてもいいよってことですよ(笑)。

とまあ、本気で引いてしまいました。

面白かったのに残念だな…。オチは実際に見てください。

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