日々作られる爆買いイメージに隠された(もうひとつの)中国を知る
ドキュメンタリーなんですが、2016年ヴェネチアのオリゾンティ部門脚本賞(Best Screenplay)を受賞したという映画です。
一般的な感覚からしますとドキュメンタリーに脚本ってあるの?と思いますが、ドキュメンタリーだって、どう構成しどう見せるかという視点は当然あるわけですから、見た目がいわゆるシナリオのような様式であるかどうかはそれぞれでしょうが、もう少し広い意味での脚本的なものは当然あるでしょう。
もうひとつ、こちらは詳細がよく分かりませんが、ヒューマンライツ賞という賞も受賞しています。
監督:ワン・ビン
ワン・ビン監督の映画は過去に「無言歌」という劇映画を見ていますが、今読み返してみますと、かなり違和感を持って見たようです。
簡単にいいますと、政治権力により抑圧される個人を描いているのに、その個人の有り様が嘘っぽいということだったんだろうと思います。
で、この「苦い銭」。
この映画にはそうした違和感はなく、確かに現代中国の一面がとらえられた映画だと思います。
映画が追っているのは、浙江省湖州市の縫製工場で働く出稼ぎ労働者たちです。ただ、縫製工場とはいっても、映画に出てくるのは(正確によくわからないが)十数人程度が働く自営業者の町工場といった感じで、流れ作業をイメージする工場ではなく、ひとりで完成品まで作っていくら(のようにも見えた)の歩合制のようでした。
映画は雲南省から出稼ぎに出る15歳の少女シャオミンたち3人のシーンから始まりますのでそれを追っていくのかと思いましたら、そうではなく、いわゆる群像劇のようなつくりでその町工場で働く何人かを追うかたちになっています。その後のシャオミンがどうなったか描かれていたかも記憶がありません。
ですので、見ていても、まとまりがない印象で、なかなか焦点が絞れなく、幾度も眠気に誘われ落ちそうになりました。
作り手の選択ですのでどうこう言っても仕方ありませんが、2時間45分、本当に必要なのかと疑問は持ちます。被写体個々の人生が浮かび上がってくるわけでもなく(私個人の意見)、何かを強く訴えようとするわけでもなく、中国の出稼ぎ労働者の日常をとらえ続けている以上に何かを感じるのは難しいと感じます。
ただ、日本の日々の報道などで中国のイメージを作ってしまいますと、どうしても「爆買い的」経済成長の中国になってしまいますので、こうした映画を見ることの意義は大きいとは思います。
先日読んだ「現代中国入門」では、映画を扱った章でジャ・ジャンクー監督を取り上げていました。
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