満ち足りた家族

人を殺さないとドラマをつくれない?と思ってしまいますが…

四月の雪」を見たかも知れないという程度のホ・ジノ監督、そしてソル・ギョングさんもチャン・ドンゴンさんも名前はよく目にするのに映画としての記憶がない俳優さん、という映画ですので新鮮な気持ちで見ました。

満ち足りた家族 / 監督:ホ・ジノ

人を殺さないとドラマにならない?…

ドラマとしてはうまくつくられていますので最後まで飽きずに見られますが、人を殺さないとドラマにできないのと突っ込みたくはなります(笑)。

その分、現実感がありませんし新鮮さは感じられません。テレビドラマ向きという印象です。

いろいろ現実的な社会問題が盛り込まれているようではあります。兄弟間の確執(とまではいかない意地の張り合いかな…)、親子間のコミュニケーションの欠如、再婚による母子間の軋轢、スマホ依存からくるコミュニケーション不足、いじめからくる暴力の連鎖、そして共助と自己保身などなど、でも広く浅くです。

ドラマの一番の軸は出演者からみても兄弟の関係になります。兄ジェワン(ソル・ギョング)は悪徳弁護士(ということでもないけどそういう方向性…)、そして弟ジェギュ(チャン・ドンゴン)は善良な医師ということで始まり、それが最後に逆転してジェワンは善良さを取り戻し、ジェギュは邪悪に堕ちるという映画です。

その逆転の原因となるのがお互いの子どもたちの犯罪、ホームレス暴行事件です。当初はジェギュが息子(名前がわからない…)に自首させようとしますが、息子が反省していると涙を流してからは隠蔽することに翻心します。一方ジェワンはその逆で最後には娘(名前がわからない…)に自首させる決心をします。

この映画で最も映画的と言えるのはこのジェワンの心の変化を描こうとしているところかと思います。あとはまあドラマのためのドラマみたいな映画です。

過剰な冒頭の殺人と先の見えない前半…

そのジェワンの心の変化を描くためにつくられているドラマが冒頭のあおり運転トラブルからの殺人事件になっています。

映画の焦点がボケるという意味では過剰だとは思いますが、あおり運転に発する激しい争いがあり、一方の男がもう一方の男を轢き殺し、同乗していた子どもが重体となります。その子どもが搬送されるのがジェギュの勤める病院です。

加害者は大金持ちのバカ息子という設定です。ジェワンの方から売り込んで弁護を引き受け、故意ではないとして示談に持ち込む戦略を立ててそのバカ息子に言い含めます。

という前段階があり、さらに両家族の会食シーンになります。うまくつくられているので飽きないとは書きましたが、実はこの映画一体どこへ向かっているんだとややイライラしながら見ていた前半ではあります。

会食シーンではジェギュの妻ユンギョン(キム・ヒエ)とジェワンの妻ジス(クローディア・キム)の鞘当てや兄弟の価値観の違いを見せています。でも、結果としてこれらも過剰でした。

とにかく、その会食の間に二人の子どもたちが仲間のパーティーで遊び回り、酒を飲み、その帰り道でホームレスに殴る蹴るの暴行を加えて放置します。この二人の設定はジェワンの娘のほうが確信的なワルで、ジェギュの息子の方は学校でいじめを受けている設定になっています。

こうやって見てきますと、やはりあれこれ詰め込み過ぎで焦点がボケていますね。

親たちの葛藤を描きたらず…

もう映画中盤だったと思いますが、二人のホームレス暴行事件の防犯カメラ映像がネットに流出して警察の捜査が始まります。

映画ですので突っ込みどころではありませんが(笑)、あの映像、顔がぼかしてありました。それに刑事が携帯電波の位置情報を調べると言っていましたので隠蔽しようと思っても無理ですね。すぐに逮捕でしょう。

とにかく、そんなこんなで、まずユンギョンが息子を問いただし、そうだと確信しても息子を守るとかなりハイテンションになります。ジェギュは自首させるべきだと考えています。

ジェワンの方は娘から打ち明けられていました。と言うよりもお父さんなら助けてくれるでしょという感じです。ですので、ジェワンにこれといって娘を守らなくっちゃというような強いシーンはなく、じっと考えているようなシーンが多かったように思います。妻のジスとは再婚であり、娘がジスに反感を持っている設定ですのでジスが話に加われないということもあるかと思います。

ジェワンは迷っているようにみえます。その迷いに決断を下すためのシーンのひとつとして例のバカ息子との会話シーンがあります。バカ息子に反省の色はみえません。もっと金を積むよう父親に頼むなんて言っています。その時のジェワンの表情はなかなかよかったです。

そしてもうひとつ、昏睡状態のホームレスが入院している病院をこっそり訪ねますとすでに亡くなっており、そこでは年老いた母親が泣き崩れています。そして後日、ジェワンは隠れるようにその母親を訪ねてお金を置いてきます。

その頃、ジェギュの方は息子と一対一で話すことにし、息子が涙を流して反省の色を見せたことからことを隠蔽することにします。と言うよりも、結果としてはそうなんですが、私はここで自首を促すのかと思っていましたし、ジェギュもそう決断したんだと思っていました。とんでもなかったですね(笑)。

ジェワンは二人の子どもたちが話しているところを盗撮(だよね…)します。そして再びふた家族の会食です。二人をどうするか話し合われます。ジェワンが盗撮動画を見せます。そこには子どもたちがホームレスを暴行した際に自分たちで撮っていた動画を見ながら笑って話しているところが写っています。さらに息子の方は父親ジェギュと話をしたとき涙を流して反省しているふりをしたら許してくれたとこれも笑って話しています。

ジェワンは明日娘を自首させるといいます。ジェギュは激昂して反対します。そして出ていってしまいます。

ラストシーン、レストランからジェワンとジスが出てきます。ジスがスマホを忘れたと戻っていきます。ジェワンが歩いて進んできます。車の中のジェギュのカットが入ります。

ウソでしょ…(涙)。

ドラマドラマしたテレビ向きのドラマ…

ウソでしょと思いましたが、やっぱりやってしまいました。そんなことをして映画を終えてもなんにもならないよと思いながら見ていましたら、やっぱりそんなことをしていました(笑)。

この映画が、子どもが犯罪を犯したとき親はどうするかというテーマであれば、ジェギュとユンギョンの会話シーンをもっとていねいに描き、また、ジェワンの苦悩とジスの孤独をもっと浮き立たせる描き方をすれば大人の鑑賞に耐える映画になったのにと思います。

きっとそうした意識もあったのだとは思いますが、善悪の逆転のようなドラマにこだわりすぎていることとあれこれ盛り込みすぎていることでぼんやりした映画になってしまっています。

会食のシーンなんて会話劇を予想させて面白そうだったんですがたいしたやり取りもなく残念でした。

ホ・ジノ監督、「八月のクリスマス」のタイトルをよく目にしますので見てみようかな。それとソル・ギョングさんの「ペパーミント・キャンディー」、イ・チャンドン監督ですしこれも見てみましょう。