アムステルダム

「Business Plot」というスキャンダルが元ネタらしいのだが…

新型コロナウイルスの影響が今出てきたのか、メジャー系じゃない実写映画の興行成績が振るわない(と感じるけどどうなんでしょう…)せいなのか、そそられる映画が入ってこなくなっているように感じます。

以前ならおそらく見ていなかったこの「アムステルダム」です(ペコリ)。

アムステルダム / 監督:デヴィッド・O・ラッセル

「Business Plot」というスキャンダルが元ネタらしい

映画冒頭に、これは事実を元にしていますよと入る映画がよくありますが、この映画では「おおよそ」だったか「ほとんど」だったかの事実に基づく物語との字幕があり、英語では「Based very loosely on true events」こんな感じだったと思います。

で、その true events というのが「Business Plot」という1933年のアメリカでのスキャンダルで、それをベースにはしているものの very loosely な話ということです。要はほとんど作り話ということです。

その Business Plot をウィキペディアからざっとまとめますと、1933年に退役軍人であるスメドリー・バトラー少将(映画ではロバート・デ・ニーロが演じていたディレンベック将軍)が、アメリカの富裕層の中に自分を利用して退役軍人を中心としたファシスト政権を樹立しようとするクーデター計画があると暴露したということです。バトラー少将は、翌年の1934年にアメリカ下院の特別委員会でそのことを宣誓の上で証言しています。

結局、委員会としては、そうした企てが話し合われ、計画され、実行の可能性が検討されたことに疑問はないとの最終報告書を出したようですが、実際に誰かが逮捕されるなどの具体的なことは起きなかったということです。

1933年という年に世界ではどんなことがあったかをみてみますと、まず日本では、日本の満州進出(侵略)が国際連盟で議論され、撤退勧告案が可決されたことを受けて、日本は国際連盟を脱退しています。ドイツではヒトラーが首相となり、ナチ党が全権を掌握しています。この映画にも直接的に名前がでてくるムソリーニのイタリアは、すでに1922年にムソリーニのファシスト党が政権を握り、1925年には独裁体制となっています。

1929年の世界恐慌以降の経済不況による国内の不満を吸い上げる形でファシズムが台頭してきた時代ということです。日本の場合はイタリアやドイツとはちょっと違いますが、それはここでは本題ではありませんし、この映画にもムソリーニとヒトラー(ナチスとして)はでてきますが日本は出てきません。

が、その Business Plot は関係ない?

で、この「アムステルダム」ですが、その Business Plot を知っていても知らなくても、映画を理解することにはあまり関係はありません。映画はその陰謀を描いているのではなく、その陰謀に巻き込まれてしまった3人の男女の、その陰謀のおおもと「5人委員会」にたどり着くまでのごちゃごちゃしたあれこれを追っているだけです(笑)。

要は陰謀がなんであっても構わないということです。映画のつくりはホームコメディのようなものです。

1933年、医師のバート(クリスチャン・ベール)と弁護士のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、死亡したなんとか将軍(名前を記憶していない)の娘から父親の死因に疑いがあると相談されます。解剖してみますと確かに毒殺の疑いがあります。さらに、その娘まで殺害され、そこに居合わせた二人は殺人犯として追われることになります。

と書きますと、クライムサスペンスにも見えてきますが、そんな映画ではありません。ストーリーのあれこれにツッコミを入れるような映画ではなく、もし楽しむのであれば、登場する俳優をみて、クリスチャン・ベールがこんなことやっているとか、ジョン・デヴィッド・ワシントンおとなしすぎるんじゃないとか、ああ知ってるこの俳優、えーと誰だっけなどと出演俳優をみて楽しむ映画です(笑)。

映画は1918年のヨーロッパに飛びます。二人は第一次世界大戦のヨーロッパ戦線での戦友です。ともに負傷し、野戦病院で看護婦(看護師)ヴァレリー(マーゴット・ロビー)と出会い、その後アムステルダムで楽しい日々を過ごします。

ヴァレリーは正体を明かさない不思議な人物で、負傷兵から摘出した弾丸や破片でアート作品を作ったりしてとてもミステリアスな女性です。

このアムステルダムのパートは面白いんですが、ネタがないだけに長くは持たないということでしょう。結局、ハロルドとヴァレリーが愛し合うようになることを入れながらもアメリカに戻さなくてはいけませんので、まず、バートは妻がいるからとアメリカに帰し、なぜかヴァレリーが突然理由なく消えてしまい、ハロルドも帰ることになります。

物語はどこへ行く…

で、1933年に戻り、バートとハロルドの二人は、将軍の娘(テイラー・スウィフト)殺しの濡れ衣を晴らすためにあれこれ人づてにディレンベック将軍(ロバート・デ・ニーロ)にたどり着き、クーデター計画の黒幕である「5人委員会」にたどり着き、その陰謀を明かすということになります。

その陰謀が、と言うよりも、そもそものこの映画の軸がその陰謀を追っていることだとわかってくるのがかなり後半ですので、早い話、すでに前半で一体この映画は何をやろうとしているのかとなりますし、映画がどこに向かっているのかさっぱりわからないまま1時間あまりをつきあわされることになります。

さらに、いろんな名前が登場してごちゃごちゃしています。結局、終わってみれば需要な人物は限られているわけですから、もう少し字幕をうまくつけていれば解消できたんじゃないかとは思いますが、それにしてももう少しシナリオ段階でなんとかすべきだったんだと思います。

とにかく、その重要な人物として、トム・ウォズ(ラミ・マレック)とリビー・ウォズ(アニヤ・テイラー=ジョイ)の富豪夫婦が登場します。そして何と! あのヴァレリーがトムの妹(だったか?)として再登場します。

せっかくのハロルドとヴァレリーの再会も大したシーンはなく、ヴァレリーは精神的な障害があるからと薬漬けにされている(といっても普通だけどね)ということらしいです。

アムステルダムであの自由人だったヴァレリーがそんな状態にされるわけないでしょう?! というツッコミなど入れてはいけない映画です(笑)。

やっと「ビジネス・プロット」に到達

ということで、バートたちは再び3人となり、濡れ衣を晴らすことと殺された将軍父娘の真相を追うことになります。

ディレンベック将軍(ロバート・デ・ニーロ)の登場です。3人が将軍にたどり着いた時、将軍は3人に、何者かから退役軍人をまとめて大統領にならないか(クーデター)との話を持ちかけられ、その演説をするよう依頼されていると明かし、もちろんその意志はないとも語ります。

ん? そんな単純だったかなあ? 記憶違いかもしれませんが、とにかく、バートが将軍に、自分が仕切っている恒例の退役軍人の会でその演説をしないかと提案し、将軍もそれを受け入れます。

そしてそのパーティーです。退役軍人たちの余興やらバートの歌やらがあります。おそらくこうしたところで映画にしようとしたんだろうと思います。ただ、何もかもが中途半端で煮えきっていないです。

結局、将軍の演説で5人委員会のクーデターの陰謀が暴露され、その首謀者のひとりである富豪のトムが逮捕されるということになります。

エンディングは、ハロルドとヴァレリーが再びアムステルダムに向かい、バートは最初のシーンでともに解剖をした医師(ゾーイ・サルダナ)と愛し合うようになります。

チャンチャン。とも終わっていなくて、残念ながらエンディングも中途半端でした。

エンドロールには映画の中のディレンベック将軍(ロバート・デ・ニーロ)の演説と実際のスメドリー・バトラー少将の演説が対比されて流れており、ロバート・デ・ニーロさんが完コピしたことを見せていました。この演説だったんでしょうか。

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