家族神話もほどほどに…
「湯を沸かすほどの熱い愛」「長いお別れ」の中野量太監督です。この監督は映画づくりはとても上手いのですが、映画の紹介文を読めばほぼ内容の想像がついてしまいますので見るのを迷います。結局見たんですけどね(笑)。

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ネタバレあらすじ
村井理子さんの原作があります。柴咲コウさんが演じている主人公も村井理子のままで作家ですので、かなり原作に沿った映画ということなんでしょう。
下のリンク先に原作の紹介と試し読みのような一節があります。それを読む限りでは出だしは原作通りです。ただ、映画では元妻の加奈子に娘がいますが原作にはいないのかも知れません。
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理子、突然兄の死を知る
作家の理子(柴咲コウ)のもとに見知らぬ番号から電話が入ります。宮城県警塩釜警察署の山下と名乗り、理子の兄(オダギリジョー)が多賀城市で亡くなったと言います。死因は脳卒中で発見者は小学生の息子の良一であり、良一は児童相談所で保護しているとのことです。山下は死体を引き取ってほしいのでいつ来られますかと尋ねてきます。
理子は突然のことですので多少混乱はしますが、原稿の締切のことや息子二人のラグビーの試合のことなどを素早く頭の中で整理して月曜日と答えます。夫や息子たちはすぐに行かなくていいのかと言いますが、理子は、だって日曜日はあなたたちのラグビーの試合に行かなくっちゃいけないでしょと答えています。
理子には今の家族の方が大切ということでしょう。そりゃそうですよね、7年会っていないと言っていましたので、普通は現実感がないのが当たり前でしょう。ただ、実際に出掛けるときには息子たちに試合頑張りなさいよと言っていましたので心の変化があったのでしょう。
その後、理子は未読のまま溜められた兄からのメールを開いていきます。相当の数あります。ほぼすべて金を貸してくれの内容で、時には天職を見つけたので働いて返すといったものもあります。
そして多賀城での4日間が始まります。
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理子、兄の実像を知る?
多賀城で元妻の加奈子(満島ひかり)と娘の満里奈(青山姫乃)と落ち合います。警察に行き、事情説明を受け、なにか書類に署名をしていました。多分死体受取書のようなものでしょう。おそらく自宅での死亡で事件性がありませんので死体検案書(と言うらしい…)を受け取っているのだと思います。
その後、葬儀屋さんが遺体を身ぎれいにして葬儀場での対面となります。3人とも、そこに良一(味元耀大)が来るかどうかそわそわして待っています。良一が児童相談所の職員に連れられてやってきます。母親の加奈子でさえかなりよそよそしい雰囲気です。7年前の離婚後初めての対面ということです。
この良一の今後が映画のひとつのポイントになっています。
兄のアパートの処理があります。そう言えば、この兄には名前がないですね。演じているのはオダギリジョーさん、時々理子が見る幻として登場します。いい加減そのものの兄です(笑)。それにこういうキャラクターはオダギリジョーさんにぴったりです。
理子と兄の幼い頃のシーンも2、3あり、兄と母は共依存で、その様子に理子が嫉妬し、兄がいなくなればいいのにと願ったりします。
結局母と兄の共依存は母が死ぬまで続き、経済的にも依存していたのでしょう。ただ、母が癌を患ったときには逃げてしまったらしく、母の面倒は理子がみたんだと思います。そのことについて兄は母の苦しむ姿を見たくなかったと言い訳しています。このシーンは幻ではなく生きているシーンのフラッシュバックでした。ああ、その時も香典のお金を欲しがってもらっていました。
という兄ではありますが、実は兄には理子が知らなかった、と言うよりも見ようとしなかったというのが正しいのですが、そうした兄の一面があることに、この4日間で気づくというのがこの映画の一番のポイントです。
ただ、その気づきの多くは理子と幻兄との会話でなされますので現実面のエピソードとしてはあまりありません。たとえば、片付けの間に兄の履歴書が出てきたり、警備員の制服が残されているのを見て幻兄と会話したりということです。現実面ではせいぜい役所の職員が気さくに話しかけてくる人だったと記憶しているくらいだった思います。
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理子、家族という幸せを感じる
葬儀の後だったと思います、皆で良一との面会しています。児童相談所の職員は良一の意志を尊重してくださいと言っています。理子や加奈子が緊張してどうしたいかを尋ね、良一も緊張しつつも母である加奈子と暮らしたいとうなずいています。
この良一とのシーンはかなり違和感が強いです。加奈子よりも理子が中心に描かれています。加奈子は良一を置いていくのが離婚の条件だったと言っているわけですから、それが事実だとすれば、加奈子こそが良一と関係において中心となるべきです。7年会っていないのは理子だって同じですし、良一と理子の間に加奈子以上の感情はないでしょう。加奈子がどう思っているのかよくわからない描き方になっています。それを表現できるシナリオになっていないということです。
そして4日間の最終日、良一との外出が許されます。ここでも理子が表立って加奈子の存在が引っ込んだ演出になっており違和感が強いです。それは置くとして、それなりに打ち解け、そろそろ時間というところで良一がアパートを見たいと言い、すでに空っぽになったアパートに向かいます。
ここでしたか(違うかも…)、娘の満里奈が神妙な顔で私は行かないと言って車から出ようとしなかったのは何だったんでしょう。なにかの振りかと思って見ていましたが何もありませんでした。
良一、加奈子、理子がひとりずつアパートに入っていき、幻兄と対面します。良一は幻を見ていなかったかも知れません。あまり変化のない映画ですので記憶がごちゃごちゃになっています。
そして、加奈子が良一に2週間後に迎えに来るからねと言い、3人は多賀城をあとにします。理子は電車の中で骨壷から骨を出し加奈子たちに分骨します。加奈子たちはここで?!と驚きながら笑っています。
家に戻った理子は息子たちから勝ったよと告げられ、何が?と答えます。すっかりラグビーのことを忘れている理子です。お父さんは?と尋ねる理子、夫が松葉杖をついて出てきます。どうしたの?!と驚く理子、そして夫の胸で泣きじゃくり、二人の息子は慌てて父親を後ろから支えています。通りすがりの人がノーサイドと声を掛けていきます。
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感想、考察:家族神話もほどほどに…
家族神話、肉親神話でしょうか。
まあでも、この映画の兄はあまり同情できる人物じゃなかったですね。どうしようもない奴だったけどいいところもあったねとも思えるほどいい奴じゃなかったです(笑)。
私なら縁を切っていますね。仮に親族が突然死して警察から引き取ってほしいと言われても拒否できます。行政により無縁仏として処理されます。良一の処遇は別問題であり、加奈子がどうするかが一番ですし、その後理子が引き取ることも可能だと思います。
映画にそんなマジに答えてもなんですが、原作は事実を踏まえたエッセイですので実際に著者の村井理子さんはどうだったんだろうとは思います。
とにかく、あまり家族関係や肉親関係を美化されてもとは思います。