ベ・ラ・ミ 気になるあなた

クィア映画としては新鮮なところもあるけれど…

これは日本の配給の予告編がよくできているというべきでしょうか。たしかに予告編通りにおもしろいところもあるのですが、さすがに2時間はもたないです。ちょっとつられた感が残ります(笑)。2024年の金馬奨で主演男優賞、撮影賞、編集賞、観客賞を受賞しているとのことです。

ベ・ラ・ミ 気になるあなた / 監督:ゲン・ジュン 耿軍

ネタバレあらすじ

予告編はこれです。

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物語はゲイの男たちの恋の駆け引きみたいな話です。「みたい」というのは、台詞が少ない上に感情表現がかなり抑制されていますので、男たちが何を求めているのかはっきりしないということです。恋愛感情なのか、単に寂しいだけなのか、あるいは単なるプレイなのか、さらに言えば、ひとりの男は夫婦関係もありますので、セクシュアリティとしてもゲイなのか、バイなのか、あるいは試してみただけなのかもわかりません。

モノクロ映像で説明的なシーンもなく、編集もどちらかといいますと断片的に繋がれており、カメラもほとんど動かなかったと思います。町なかのロケシーンでもまったく通行人がいません。かなり引いた画でも登場人物二人だけとかになりますのでかなりシュールな印象です。ただ車は結構走っています。

手法としてはアキ・カウリスマキ監督の映画をモノクロにしたみたいな感じです。

場所は黒龍江省の町らしく雪が積もっています。ゲン・ジュン監督が黒竜江省鶴崗市生まれということですのでロケ地はその町かもしれません。

シューとジャン

大餅売りの男シューと夫婦者の男ジャンの二人が軸になっています。ただ、そういう話だとわかるまでかなりあります。私の場合、後半に入っていましたね(笑)。

シューが美容院にいきます。その美容師とは付き合っていたらしく、洗髪する美容師の手をねちっこく愛撫しますと払いのけられ、別れを告げられます。シューは洗面所に干してあったパンツをこっそり持って帰り、後に燃やしていました。

ジャンがレストランで食事をしています。隣の見知らぬ男と目があい、同志だろと声を掛けます。同志と訳されていましたが多分ゲイであることを遠回しにさす言葉じゃないかと思います。相手の男は拒否していました。ただニュアンスはよくわかりません。

その後、ジャンはトイレの「男友達求む」の落書きを写真に撮ったり、ゲイクラブに行ったりします。

ジャンは40歳くらいでしょうか、それに妻がいます。それなのにこれだけ積極的に行動するということは、これまで抑え込んできたセクシュアリティに目覚めたとかではなく、そもそもが大胆な行動を取る人物が男とも試してみようと思ったとしか考えられないです。

とにかく、そのジャンをシューが気に入ったらしく食事に誘います。そしてこの後、この二人がつきあうようになるまでが描かれていきます。

シューの意識はごく一般的な恋愛観で理解できます。恋人から別れを告げられ寂しいということもあるのでしょう。しかし、ジャンの方はよくわからないです。男の相手を求めるのは初めてと思われるのにかなり大胆ですし、シューとの駆け引きでもどちらかといいますとシューを翻弄しています。

これが監督の意志なのか、シューを演じている俳優のキャラクターのせいなのか、どちらなんでしょう。

その他の人物

この二人に絡んでくる人物として二人が食事をするレストランのオーナーがいます。二人の会話を盗み聞きしたりして興味津々、自分も仲間に入れてくれと言ってきます。

このオーナーが仲間ということをどう考えているのかわかりませんし、シューと二人でサウナに行くシーンではいきなりシューを襲っていますし、キャラとしてかなりねちっこい人物像にしてありますので、ゲン・ジュン監督はこの3人の関係に何を意図しているんでしょうね。

ラスト近くのシーンではさらに二人に迫るオーナーを強制排除しています。何を意図しているのかわかりませんがあまりいい印象はないです。コメディ要素と考えてもセンスがよくありません。

ジャンがレストランで見知らぬ男に同志だろと声を掛けたシーンではレズビアンのカップルが登場します。ひとりの女性が座っており、そこにもうひとりの女性が入ってきて、いきなり二人でダンス(なのかな…)を踊り始めます。この時、ジャンたち男二人に対して言っていた台詞、今から思えば精子提供者を求めている、あるいはそれに関する台詞だったかもしれません。

レズビアンカップルは子どもがほしいということらしく、その後、シューの元恋人の美容師と精子提供の契約をしています。カップルは美容師に何ヶ月か性行為を断つ(ということじゃないかと思う…)条件をつけており、美容室に監視カメラをつけて遠隔で監視していました。そんなことしても無駄なわけですからこれもコメディ要素なのかもしれません。監視カメラの映像に2013年と表示されていました。

そして、ラストシーンはカラー映像になり、レズビアンカップルのフォトウェディングになります。ウェディングドレスの女性一人の撮影があり、そこに美容師だと思いますがタキシードの男性が入り、その後入れ替わってパンツスーツ姿のもうひとりの女性が入って撮影しています。ウェディングドラスの女性のお腹は大きくなっています。

感想、考察:スープなんて飲んでたか?

クィア映画としては新鮮な切り口なんだろうとは思いますが、映画のトーンや手法に独自性はあまり感じません。登場人物のキャラクターはちょっと新鮮でした。

公式サイトの「解説」のこのコピーは

冷めたスープとダイニングレストラン、
ぎこちない会話、
場末のサウナのタバコの煙

国とは、自由とは、政治とは、性とは、
そして愛とは

作られすぎています。

もちろん、われわれ日本人が持つ中国観からすれば、後ろの2行のような政治性を読むことも可能かと思います。ただ、「冷めたスープ」なんてものはありませんし、会話は「ぎこちなく」ありませんし、「場末」でもありません。

この映画だけではよくわからないゲン・ジュン監督ということです。