バード ここから羽ばたく

アンドレア・アーノルド監督の過去作が見たくなるマジックリアリズムの良作…

昨年2024年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたアンドレア・アーノルド監督の映画です。私は初めて見る監督ですが、現在64歳ですし、かなりキャリアのある方です。2004年には「Wasp」でアカデミー賞最優秀短編映画賞を受賞していますし、カンヌ国際映画祭では、2006年「Red Road」、2009年「フィッシュ・タンク」、2016年「アメリカン・ハニー」とコンペティション部門に出品され3作とも審査員賞を受賞しています。

バード ここから羽ばたく / 監督:アンドレア・アーノルド

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ネタバレあらすじ

日本的価値観からしますとかなりびっくりする若者たちの話です。それに若者といっても20代で孫が生まれるかも知れないという若者たちです。イギリスの労働者階級の、それもかなり荒んだ生活環境にある若者たちとその家族の話です。場所はイギリス南東部ケント州の不法占拠住宅(らしい…)です。まず登場人物の関係を整理したほうがよさそうです。

バグ28歳には息子ハンター14歳と娘ベイリー12歳がいます。バグとハンターは白人系、ベイリーは黒人系です。バクは14歳のときに白人系の女性との間にハンターが生まれ、16歳のときに黒人系の女性との間にベイリーがうまれたということです。

ベイリーの母親ペイトンは黒人系で3人の黒人系の子どもと暮らし、今は白人系の男が同居しています。3人の子どもはベイリーとは父親が違う妹と弟です。ベイリーの住まいとは歩いて行ける距離に暮らしています。どちらの住まいも集合住宅で壁は落書きで埋め尽くされています。海外のレビュー記事に不法占拠住宅と書かれているものがありますが詳細はわかりません。

という設定でベイリー(ニキヤ・アダムズ)を軸に物語は進みます。

あえて黒人系、白人系と書いているのは日本人である私にはそう見えてしまうけれども海外のレビューにそんな表現のものはないという意味合いを込めてです。

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ベイリー、バードと出会う

ベイリーが跨線橋の上で空を飛ぶ鳥の群れを見ています。跨線橋は保護ネットで覆われており、まるでベイリーが鳥かごの中に捕らえられているようです。ファーストシーンですので映画のテーマを象徴的に見せています。

父親バグ(バリー・コーガン)がサプライズだ、今度の土曜日に結婚すると言い、2歳くらいの幼児を抱いた女性を連れてきます。バグはベイリーに結婚式に出るよう強引に求めますが、ベイリーはなぜ先に自分に言ってくれないと怒り、結婚式には出ないと拒否し家を飛び出していきます。

ハンターが数人の仲間たちと子どもに暴力をふるう大人を懲罰を与えると意気込んでいます。ベイリーは自分も行くと言いますが聞き入れられません。ベイリーは密かに後をつけ、ハンターたちがある家に押し入り男を脅すところを目撃します。パトカーのサイレンが聞こえ、ハンターたちは逃げていきます。ベイリーも草の生い茂る荒れ地に逃げ込み、そのまま眠り込んでしまいます。

翌朝、ベイリーは放牧された馬に起こされます。そしてスカートを履いたドイツ訛りの英語を話す不思議な人物に出会います。男はバード(フランツ・ロゴフスキ)と名乗り、住所が記された紙を見せます。ベイリーはその場所を教え、そしてバードの後をつけます。しかしバードは目的のものを見つけられなかったようです。

翌日、ベイリーはバードがビルの屋上に佇んでいる姿を見ます。バードは母親を探していると言います。ベイリーはその場所が母親ペイトンが以前住んでいたところであることを知り、バードを連れてそのもとに向かいます。

ペイトンのもとには同居の男スケートがいます。スケートは粗暴でペイトンや子どもたちに乱暴な口をきいています。ベイリーは強い口調で言い返し、スマホで暴力的なスケートの動画を撮ります。後にその動画をハンターに送り懲らしめるよう頼みます。

ペイトンはバードの父親のことを覚えていると言い、その居場所を教えてくれます。

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バードの自分探し

同じ頃、ハンターは恋人から妊娠し両親にも知られて家を出られないと告げられます。ハンターはスコットランドへ行こうと書いた手紙を渡すようベイリーに託します。しかし、ベイリーも会わせてもらえません。その時一羽のカラスが現れ手紙をくわえて2階の恋人のもとに運んでくれます。

翌日、ハンターたちがスケートを懲らしめ脅す間、ベイリーは妹と弟を連れ出し、バードとともにビーチに行きます。その後二人でバードの父親の住まいに向かいます。家から出てきた男は知らないと言いドアをバタンと閉めてしまいます。しかし、その後男はビーチのバードとベイリーのもとにやってきて、むかし一緒にいた女との間に子どもが生まれたが、女が情緒不安定で耐えられなくなり自分が去った、女のことは知らないと言います。

バードが涙を流しています。

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バード、変身する

妹と弟を母親ペイトンのもとに返しに戻りますと、スケートがドアを乱暴に叩いて押し入ろうとします。侵入してきたスケートはペイトンに乱暴をし、ベイリーにも襲いかかります。ベイリーは意識を失います。

ベイリーは朦朧とした意識の中、大きな翼を持ったバードがスケートを殴り倒し、スケートを掴んで飛び去っていくところを見ます。

翌朝、ベイリーはハンターがスコットランドへ向かったことを知り、そのことをバグに告げて駅に向かいます。二人は駅のホームに佇むハンターを見つけます。ハンターは恋人は来なかった、親に堕ろさせられる、自分は子どもがほしいと言います。まだ若すぎるというバグに、あんたは14歳で俺を生んだと言い返します。

バグの結婚式です。大勢の仲間たちとともにベイリーも祝福しています。バグが花嫁にコールドプレイの「Yellow」を捧げています。

その時、ベイリーの前にバードが現れ、別れの抱擁をし、飛び去っていきます。

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感想:マジックリアリズム

バグにはなにか生業があるわけではなさそうでカエルを捕まえてきて、これでひと儲けだと言っています。実際に幻覚作用のあるスライムを出すヒキガエルがいるそうですが、いずれにしてもそうした真っ当とも言えないことで稼いで生活しているわけで、それで14歳と12歳の子どもの親です。

この映画はイギリスではどう受け止められているんでしょう。やはり現実のある一面を描いていると受け止められるんでしょうか。そうだとしますと恐ろしいことだとは思いますが、アンドレア・アーノルド監督はそうだとしても微かであっても希望を見出そうとしているということになります。

バードの存在はもちろんファンタジーですが、バード自身がベイリーたちと同じようにとても若い親から生まれているわけですからファンタジーではあっても現実とつながっています。

この映画はマジックリアリズムの映画です。

冷静に考えればベイリーはむちゃくちゃ悲惨は環境に置かれています。それでもエンディングは笑顔で迎えることができ温かい気持ちで見終えられるようつくられています。

アンドレア・アーノルド監督がベイリーの成長を願っているということだと思います。

ベイリーを演じているニキヤ・アダムズさんの存在が大きいです。もちろんバードのフランツ・ロゴフスキさんやバクのバリー・コーガンさんあってのことですが、演技は学校演劇に出演したことがあるだけという演技未経験なのに存在感は十分です。

ありのままの自分でそこにいることでベイリーの成長が感じられます。

映画のつくりとしてはリアリズム感を演出するためだと思いますが、手持ちカメラで動くわ動くわの映像が多く、基本的にベイリーを追っかける映画であり、そのどアップもかなり多いです。

それに音楽が有効に使われています。ヒキガエルにスライムを出させるためにも音楽が使われています。

ベイリーの住まいは設定としては汚く乱雑ということですがかなり洒落た感じに演出されています。そうしたことも含め映画全体、センスがいいです。

アンドレア・アーノルド監督、過去の作品を見たくなります。