音楽映画&青春旅立ち映画という感じです。
パキスタンをルーツとするイギリス人のサルフラズ・マンズールの回顧録(自伝?)を原作としており、脚本にも本人が参加しています。ブルース・スプリングスティーンの曲によって人生を一歩踏み出したという映画ですのでブルース・スプリングスティーンの曲がふんだんに使われています。
青春の脱出願望
いきなり派手にペット・ショップ・ボーイズで始まりますのでびっくりしました。ブルース・スプリングスティーンじゃないのかよ? という意味なんですが、1980年代後半の物語ですのでヨーロッパではシンセサイザーを多用したポップス全盛期だったということなんでしょう。レベル42とかアーハも流れていました。
1980年代のイギリスと言えば、サーチャー首相の新自由主義の時代です。その昔イギリスは「ゆりかごから墓場まで」の言葉が示す高福祉社会を目指す政策をとっていたのですが、1979年の選挙で保守党が政権を奪取し首相となったサッチャーが「小さな政府」へ大きく政策転換しています。映画の中でもジャベドの父親が自動車工場(だったかな?)を解雇されますが、失業者が増大した時代です。ただ、この映画の1987年あたりからは経済も好転しているようです。
そうした時代背景の中での物語です。主人公のジャベド(ヴィヴェイク・カルラ)16歳はパキスタン系移民二世で、ロンドンから北へ50kmくらいの街ルートンで両親と姉と妹と暮らしています。一家はムスリムということもあり、特に父親は移民としての苦労もあるようで、ジャベドには将来一家の支えとなるよう経済面での期待をしています。しかし、ジャベドは文章を書くことが得意で将来は作家になりたいと思っています。
ジャベドはそうしたまだ定まらない将来への期待と不安の中にいます。恋人と青春を謳歌している幼なじみの親友には恋人もいないと冷やかされ、高等教育への上級クラス(よくわからいけどそんな感じ)では自分の不甲斐なさに落ち込み、その帰り道では差別主義者にパキ野郎と罵られ、幼なじみに誘われたパーティーにも行かせてもらえず青春のどん底状態です。
追い打ちをかけるように父親が解雇されます。もともと家計は苦しいようで母親は仕立ての内職をしており、ジャベドのアルバイト代も父親に取り上げられています。
そんな中、後に友人となるインド系(かな?)の学生から借りたブルース・スプリングスティーンを聴きます。そして覚醒します。ブルース・スプリングスティーンの「Dancing in the Dark」です。歌詞がスクリーン上でも踊ります。
ジャベド、覚醒する
もやもやした感じが一気にクリアになる感覚ではないかと思います。おそらくすべてが違って見えるのでしょう。同じ行動でも自信に満ちた行動は相手には違って見えてきます。
ジャベドを後押しする人たちも現れます。教師、隣の老人、インド系の友人、幼なじみの父親、後に恋人となるイライザです。教師はジャベドを褒めて伸ばそうとし、隣の老人は自分がナチスと戦った過去をジャベドの抵抗の詩に重ねて激励します。ブルース・スプリングスティーンを教えてくれたインド系の友人は親友となり、積極的に政治活動もするイライザはジャベドを勇気づけます。
幼なじみの友人の父親の古着屋(かな?)でアルバイトを始めます。友人の父親はブルース・スプリングスティーン派です。シンセ派の友人を父親と一緒にからかい、友人との関係がまずくなったりもします。
このあたりから音楽もブルース・スプリングスティーン一色に変わります。ミュージカル風のシーンも何シーンか入ります。そうした楽しいシーンの反面、シリアスではありませんが、移民あるいはムスリムへの差別的な団体の行動やイライザの両親が差別を内面化した中流イギリス人として描かれています。
ジャベド、勘当される
そして事件が起きます。姉の結婚式の日、差別主義者たちのデモに巻き込まれ父親が怪我をします。その時ジャベドはブルース・スプリングスティーンのコンサートのチケットを買いに行っていたのです。親子喧嘩となり、チケットは父親によってビリビリに破かれてしまいます。ちょっと強引な展開ですが、イライザともうまくいかなくなります。
そんな時、教師がジャベドの論文をコンテストに出しており選ばれてアメリカ、ニュージャージー州のモンマス大学のセミナーに参加できることになります。ブルース・スプリングスティーンの故郷です。もちろん父親は行くのなら帰ってくるなと許しません。ジャベドは覚悟を持ってアメリカに向かいます。
アメリカのパートはなぜかインド系の友人も一緒にスナップ写真で構成されていました。
ロンドンへ戻ってからは簡潔です。ジャベドは勘当状態ですので知り合いの家に居候してい(るらしい)ます。父親のもとにイライザがやってきて学校でジャベドへの表彰式あると知らせに来ます。
Blinded By The Light
表彰式でのジャベドのスピーチ。要約すると次のような感じです。
自分の将来を思い悶々としている時ブルース・スプリングスティーンを聴き、自分に重ね合わせてきたが、今は少し変わってきている。ひかりで目がくらんでいた。子どもが夢を持つのは当然だがそれも両親のおかげ、これまでは自分のことしか考えてこなかった。僕らはひとりではない、友人がいて、家族がいる。家族との間に壁を作らず自分の夢を叶えたい。
そして、イライザとも仲直り、スピーチを聴いた父親ともハグしあいます。
後日、ジャベドはマンチェスターの大学へ旅立っていきます。
青春旅立ち映画にしては保守的
映画としてもさほど盛り上がらないエンディングになっていますし、青春旅立ち映画としてはかなり保守的なまとめ方になっています。それに青春もののパターン映画だとしてもかなり薄っぺらいです(ペコリ)。
グリンダ・チャーダ監督の映画は「英国総督 最後の家」を見ています。その記憶があってDVDを借りたのかもしれません。読み返してみましたら、この映画と同じようにパターン映画でややお花畑系の歴史ドラマだったようです。