ブレスレス

犬はパンツをはかない、この邦題なら興行収入倍増だったのに

面白い映画ですね。

原題は「Hundar har inte byxor」で、Google翻訳ではスウェーデン語とでますがフィンランドの映画です。英語タイトルは「Dogs Don’t Wear Pants」です。

「犬はパンツをはかない」

あなたは犬なんだからパンツを脱ぎなさい、というニュアンスなんですが、なぜこの邦題にしなかったんでしょう。この邦題なら興行収入は倍増だったでしょう。

日本語公式サイトのユハとモナの向かい合った画像がAdSenseにアダルト認定されますので変更しました。 

ブレスレス

ブレスレス / 監督:ユッカペッカ・ヴァルケアパー

BDSMの世界 

なぜ「ブレスレス」かは、妻を亡くし悲しみに沈む主人公のユハが、窒息寸前の状態で妻の幻と出会いその恍惚感から逃れられなくなるということからだと思われます。そうしたところから「呼吸も止まるくらいに美しい愛と再生の物語」なんてコピーも生まれるのでしょうが、そんな純愛系の美しさはないです。あるとしたらまた別の美しさでしょう。

ユハが窒息寸前状態を経験するのは、誤って迷い込んだBDSMクラブで首を絞められたからですし、それが病みつきになりそのクラブに通い詰め、結局、ラストはプレイとしてのBDSMに目覚めるという話ですから、ラストシーンでびっくりします。

BDSM – Wikipedia

「B」…Bondage(ボンデージ)
「D」…Discipline(ディシプリン)
「SM」…Sadism & Masochism(サディズム & マゾヒズム)

オイ、そっちかい?! って思います。

てっきり悲劇的な話かと思っていました(笑)。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

監督はフィンランドのユッカペッカ・バルケアパーさん、1977生まれの43、4歳の方です。2009年の「Muukalainen」が長編デビュー作で、その頃からすでに注目されていたようです。この「ブレスレス」が長編3作目で2019年のカンヌの監督週間で上映されています。

映画の入りがとてもうまく感じましたし、物語の進め方もうまいです。映像的にも音楽的にもいろいろこだわってつくられています。

外科医のユハ(ペッカ・ストラング)が妻と4、5歳の娘とともに湖畔で過ごすシーンから始まります。このシーンは全体として幻想的につくられており、プロローグ的な印象です。

ユハは泳いだ疲れからかウトウトと眠ってしまいます。妻が湖に入っていきます。娘が激しく泣いています。目覚めたユハはハッとして飛び出し湖に飛び込みます。網に囚われた妻が水中に漂っています。

この一連のシークエンスはプロローグとしては完璧でしょう。妻の顔もはっきり映し出していません。後ろ姿や水中にたゆたう姿だけです。

十数年後(と公式サイトにあるが10年後くらいではないか)、心臓手術のシーンがあり、ユハが外科医であることが示されます。休日には妻の衣服に妻が使っていた香水をふりかけ、それを被って自慰にふけります。

娘エリは10代なかば(くらいと思われる)に育っています。エリが舌ピアスをしたいと言い、ユハはそれを認めて一緒にタトゥーパーラーへ出掛けます。ユハは待ち時間を持て余して辺りをさまよううちにSMクラブに迷い込んでしまいます。

突然押し倒され首を絞められるユハ、抵抗するも次第に朦朧とし、湖に沈む妻の幻を見ます。舌ピアスを終えたエリがやってきます。ユハは開放されます。ユハはエリにママに会ったと言います。

ドミナトリクス(BDSMの女王様)のモナ(クリスタ・コソネン)がユハを客と間違えたという設定のようです。そんなことがあるわけはないのですが全く気になりません。話の進め方と省略がとてもうまいです。

ユハは妻との出会いの恍惚感が忘れられずにふたたびSMクラブを訪れます。ボンデージ姿のモナが現れお前は犬だと命じます。しかし、しばらくは素直には従えません。ユハはそれがルールなのだと自分に言い聞かせるように指示に従っていきます。「犬はパンツをはかない」と命じられパンツを脱ぎます。四つん這いになることを命じられ拘束椅子に導かれます。モナがユハの顔にビニール袋をかぶせます。

ユハは水中に漂う妻に出会います。それは前回よりもより深く、そしてより長く。

ユハの恍惚感にモナも何かを感じるようです。すんでのところで袋から開放されるユハ、ふたりが見つめ合います。ユハはモナにキスをします。驚くモナ、しかしモナがさらに強くユハにキスします。我に返ったモナがユハから離れます。済まないとあやまるユハ。そして次はもっと長くと言っています。

BDSMなんて知りようもありませんのでツッコミようがありません(笑)。

エリはバンドをやっています。その演奏会がありユハに見に来て欲しいと言います。また、ユハに女性の教師を紹介します。

これは多分、エリが父親にパートナーとなるべく教師を紹介したのだと思います。エリの年齢は中学生くらいかと思いますが、北欧の映画ではこうしたことも特に違和感は感じられません。

ただ映画としては、ユハに対するこうしたエリの変化ももうひとつの軸ではあるのですがあまり目立っていません。エリが舌ピアスをすることもそうですし、友だちとの会話も変化していきますし、ボーイフレンドもできタバコを吸ったりもします。

同じようにモナの描き方もそうで、ひとりの人物として浮かび上がってきません。モナはリハビリの指導員のようでそのシーンがワンシーンあります。SMクラブはタトゥパーラーの奥を借りて個人でやっているようでした。ですので、職業というよりも個人的な性的嗜好であり、その嗜好の裏にはきっと何かがあるのでしょう。

モナは始終憂鬱そうです。笑顔どころか顔の表情を緩めることもありません。クリスタ・コソネンさん、クールさがいいですね。ボンデージスーツも似合っています。

このモナの人物像をもう少し前面に出せばユハとモナの映画になったのでしょうが、ユハが求めるのはあくまでも過去の妻の姿です。ラストのワンカットでそれから抜け出したのかもと思わせていますが、そのシーンはあまりにも唐突すぎて、やはり、そっちかい? と見えてしまいます。

ユハはますます生死の境い目で味わう恍惚感から逃れられなくなっていきます。それは日常生活の破綻となります。エリの演奏会はすっぽかし、病院では手術を放り出し、病院のガラスを割ってまで抜け出し、手から血を流しながらSMクラブに駆けつけます。

ボンデージの衣装(言葉遣いがわからないけど)をつけ拘束椅子に座るユハ、いろいろプレイがあって、いつもどおりビニール袋を被せられます。ユハが呼吸するたびにビニール袋がユハの顔に張り付きます。

ユハはふたたび妻と出会います。いつもよりも長く。

この時、おそらくモナにも何かが起きているのでしょう。プレイを止めるタイミングを誤ります。(ユハが握ったボールが落ちたら止めるのですが手の怪我でボールが落ちなかったのかも)あわててビニール袋をはずしますがユハの意識が戻りません。必死に心臓マッサージをするモナ、両腕で拳をユハの胸に叩きつけます。何度も何度も。

やっとのことで息を吹き返すユハ。モナは衣装をつけたままタトゥパーラーの女に救急車を呼ぶように頼みその場を去ってしまいます。

ユハは緊急搬送され入院です。エリが訪ねてきても現実感を失っているかのようにうつろな表情です。しばらくして退院するも首にサポーターをつけています。病院へ出勤するも精神鑑定を受けることになります。

モナはもう依頼を受けてくれません。尾行して職場や住まいを突き止め、なおも迫りますが拒否されます。ある夜、モナの後をつけますとある建物に入っていきます。ユハも入ろうとしますが入れてもらえません。

記憶がはっきりしませんがこの帰りだったと思います。モナの後をつけ、その途中で何者かにボコボコにされ催涙ガスを吹き付けられます。住まいに戻りバスルームで苦しむユハ、目を覚ましたエリが下りてきて声を掛けますが出てきません。

エリの心が父親から次第に離れていきます。(前後がはっきりしないが)ある日、エリにどうだ、最近?と声を掛けますが、エリは問題ないよと言いながら、ボーイフレンドのバイクに乗って去っていきます。

(前後がはっきりしないが)ユハはエリの教師とデートをします。その教師の住まい、ベッドでユハは首を絞めてほしいと言います。その教師はユハの願い通りにしますが、笑いが止まりません。笑い続けてセックスどころではありません。

ユハはモナの住まいを訪ね強引に部屋に入ります。もう一度やってほしいと懇願します。モナは戸惑いつつも、おそらくそれは自分自身の感情に歯止めがかからないことが怖いのではないかと思いますが、それを吹っ切ったのか、突然ユハの両腕を縛り拘束します。身動きのできないユハに、モナはプライヤを持ち出し歯を抜こうとします。

さすがにここはゾゾッとします。

抵抗するユハ、やがて観念したのか諦めます。歯が抜かれます。そして首を絞めるモナ、しかし前回の恐怖がよみがえったのか途中でやめて部屋に閉じこもってしまいます。

ある日の夜、ユハは、あの日モナが入っていき自分は入ることができなかった建物にコート姿で行きます。覗き窓から男が顔を見せます。ユハはコートをぱっと開きます。ユハはボンデージの衣装を身に着けています。

そこはSMクラブ、ホールではクラブ(ディスコ)のように男女が体を動かし、その周りではSMプレイをしている者たちもいます。ユハは酒で勢いをつけホールで体を動かし始め、次第に高揚していきます。ユハの目が一点にとまります。その先にはモナが立っています。

動きを止めたユハが喜びの表情を浮かべます。対するモナにもかすかに笑みがこぼれます。

妻への愛慕はどこへいってしまったんでしょう?

他の映画も見てみたい監督

BDSMというのは性的嗜好ですのでやはりプレイでしょう。その意味ではエロさがともなうのが当たり前だと思いますが、この映画にはエロさはまったくありません。

ユハが生死の境目で味わう恍惚感は果たしてBDSMの世界と同じものなんでしょうか。理解できない世界ですので何とも言えませんがなにか違う感じがします。

ですので、どうしてもユハがBDSMの世界に目覚めるようなエンディングには違和感を感じます。

もしそうであるのなら、ユハがその世界に目覚めていく過程をもう少し丁寧に描くべきですし、同時にモナがなぜドミナトリクスをやっているのかもきちんと描くべきでしょう。

その意味ではユハとモナの間の関係を愛情をとらえるのは誤解だと思いますし、仮に誤解でないとすればそれはそこまでふたりの関係を描ききれていないからでしょう。

ただ、映画のつくりはうまいですしセンスの良さも感じます。他にどんな映画を撮っているのかとても興味がわく監督です。

希望のかなた(字幕版)

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