ビルド・ア・ガール

女たちよ、失敗を恐れるな。やり直せばいいのだ。

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」で主演のビーニー・フェルドスタインさんありきの映画です。全シーン出ずっぱりです。

内容は、キャトリン・モランというイギリスのジャーナリスト、作家、テレビ司会者など多方面で活躍している方の自伝的小説の映画化とのことです。

ビルド・ア・ガール

ビルド・ア・ガール / 監督:コーキー・ギェドロイツ

フェミニスト、キャトリン・モランさん

キャトリン・モランさん、知らない方ですので今ざっとウィキペディアを読みました。映画よりも(ペコリ)この方に興味がわいてきましたので、翻訳されている唯一の本でしょうか、エッセイ集『女になる方法(How to Be a Woman )』を読むことにします。

原作となっているのはその本ではなく、自伝的小説『How To Build a Girl(2014)』で、三部作の予定らしく『How To Be Famous』『How To Change The World』と続くとのことです。

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Andrew Lih (User:Fuzheado), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

フェミニストです。ウィキペディアの次の記述が示唆に富んでいます。

2017年3月、モランはペンギン・グループのために書いた原稿で、若い女性は男性が書いた本を全く、あるいは「少なくとも」「大人になって完全に成長し、戦えるようになるまで」読まない方がよいと示唆した。モランは「偉大な白人男性、つまりフォークナー、チャンドラー、ヘミングウェイ、ロス」のような極めて力強く、子どもに大きな影響力を及ぼすと考えられる男性作家による本を例に挙げている。

英語版のウィキペディアにはこの記述はありませんが、たしかに『Moranifesto』の発売元(かな?)のペンギンブックスへの一文に書いています。

脚本もモランさんなので…

で、映画は、そのモランさんの少女時代をベースにしたコメディー仕立ての物語で、16歳の少女がその文才を生かしていっとき毒舌音楽ライターとして名を成しますが、次第に調子に乗って天狗になり自分を見失います。しかし、ある時、ちやほやされているのは表向きだけで実は嘲られているだけだと気づき、再出発するという話です。

コメディーと言っても、なかなか日本社会の価値観で笑えるかどうかは微妙です。コメディーは字幕では難しいですし、それに内容も下ネタが多く主役のジョアンナ(ビーニー・フェルドスタイン)は相当爆発しています。

脚本もモランさんですので、自伝的とは言ってもほぼ事実ではないでしょう。

監督のコーキー・ギェドロイツさんはテレビドラマの世界では30年くらいのキャリアがある方で、映画はこれが初作品のようです。

ネタバレあらすじ

ジョアンナは労働者階級

ジョアンナ(ビーニー・フェルドスタイン)は両親と兄、そして弟(妹だったか?)、それに生まれたばかりの双子の7人家族です。住まいは、イギリス、ウォルバーハンプトンの公営住宅です。労働者階級ということです。公営住宅といってもビルディングではなくテラスハウスです。

時代は1990年代、父親は自分はロックスターだとうそぶきつつ闇のブリーダーで稼いています。ヒッピーということかもしれません(そう言ってたかも)。母親は双子の育児で参ってしまっています。兄のクリッシーとは仲がよく、特にクリッシーのほうがジョアンナに協力的です。

ジョアンナの部屋は、ひと部屋を壁で隔てたクリッシーとの共有です。部屋の壁一面にフロイトやマルクスの哲学者からブロンテ姉妹など小説家、そしてエリザベス・テーラーやジュリー・アンドリュース(違ったか?)など映画スターやミュージシャンの写真が貼ってあります。

映画の冒頭は、ジョアンナの語りで満たされない日常への愚痴が語られ、それに壁の写真たちが答えるといった入り方です。

とにかくジョアンナは全体としても喋り動き回りますので、客観的なジョアンナを見せるということではなく、才能を持て余しているといった描き方がされています。壁の偉人(?)たちはジョアンナのイマジナリーフレンドのようなもので、そのアドバイスは結局ジョアンナ自身の心の声ということになります。

ジョアンナ、「ドリー・ワイルド」となる

そんなジョアンナに、クリッシーが音楽雑誌「D&ME」でライターを募集していると教えてくれます。早速ジョアンナは「アニー」のサントラの批評を書いて送ります。面接に来るようにとの電話が入りオフィスに赴きますが、16歳とわかり木で鼻をくくったようにあしらわれます。

しかし、ジョアンナは粘ります。(このあたり、トントントンといきますのであまり正確にはつかめていません)そのうちスタッフのひとりの助力もあり、ロックだったかの批評を書くことになります。

音楽ライター「ドリー・ワイルド」の誕生です。

ジョアンナ、絶頂期

ここからは上り調子で、金銭的にもジョアンナが家の生活費を稼ぐようになり、学校でも注目の的となります。それにつれ徐々に鼻が天狗になっていきます。もちろん映画はそれを批判的に描いているわけではありません。

ある時、ジョアンナはインタビュー記事を担当したいと申し出て、ロックスターのジョン・カイト(アルフィー・アレン)にインタビューすることになります。

この一連のシーンのジョアンナとジョンの会話はウィットに富んでいてとてもいいシーンです。ジョアンナはジョンに恋をします。ジョンもジョアンナに何か感じたのでしょう、誰にも話したことのない自分の生い立ちを話します。細部は忘れてしまいましたが、要は自分も君と同じようなものだよということです。そして、最後にこれはオフレコだよと言います。

ジョンのインタビュー記事は成功し、ジョアンナであるドリー・ワイルドは飛ぶ鳥を落とす勢いで著名音楽ライターとなっていきます。

このあたりのシーンでは音楽雑誌業界の放埒ぶりが描写されています。そう言えば、「D&ME」のスタッフたちはみな男性でした。あれは意図的ですね。ですので、社会や人を小馬鹿にし、冷笑し、自分たちは酒と女に明け暮れる男性たちが描写されていきます。

ジョアンナもその一員となることで自分が社会に認められていると錯覚し、いよいよ天狗の鼻はこれ以上なく高くなります。辛口ドリー・ワイルドは毒舌ドリー・ワイルドになっていきます。

そして、それとともに家族たちはジョアンナに対して距離を取り始めます。ジョアンナは自分が皆の生活費を稼いでいるのにと、もう聞く耳をもっていません。

ジョアンナ、失意、そして再生

パーティー(何のでしたっけ?)でジョン・カイトと再会します。ジョアンナはジョンに告白しキスしようとします。ジョンはやんわりと拒否します。

ジョアンナはオフレコだと釘を刺されていたジョンの生い立ちを記事にしてしまいます。

センセーショナルな記事は爆発的に売れ、それもあってかジョアンナは最優秀なんとか、最優秀毒舌なんとかみたいな褒められるべきものではない表彰を受けます。ジョアンナは有頂天です。祝賀パーティーでも主役です。しかし、自分が席を外しているときに同僚の皆が自分を小馬鹿にしている様子を目にします。

ジョアンナはやっと気づきます。そして、ジョン・カイトにも謝罪し、ジョンからは、自分も好意を持っているが年齢がネックなだけで、いずれその時も来るだろうとの言葉をもらいます。

ジョアンナ、再出発です。

女たちよ、失敗を恐れるな

こうした物語の映画では、浮かれちゃだめよと教訓的なものになりやすいのですが、この映画はそうした視点では描かれていません。

女たちよ、失敗を恐れるな、ということです。

自由に生きろ、失敗してもやり直せばいいのだと言っています。