コール・ミー・ダンサー

ムンバイの B-boy マニーシュ・チャウハン、バレエダンサーへの道…

インド、ムンバイ出身の少年がストリートダンスやボリウッドを見てダンスに目覚め、バレエ、コンテンポラリーのレッスンを積み、プロを目指すまでを描いたドキュメンタリーです。

コール・ミー・ダンサー / 監督:レスリー・シャンパイン

マニーシュ・チャウハン

マニーシュ・チャウハンさん、多分、現在26歳くらいだと思います。映画は18歳(くらい?…)から24歳くらいまでを描いています。映画ではプロ契約、つまり給料がもらえるまでにはなっていませんでしたが、現在はニューヨークのペリダンス・コンテンポラリー・ダンスカンパニーのダンサーとしてウェブサイトにも掲載されています。

サイトのプロフィルによりますとPCDC(ペリダンス・コンテンポラリー・ダンスカンパニーの略称)の2シーズン目となっていますので、映画のラストのダンスでプロ契約になったということなんでしょう。

このダンスカンパニーには HIRAYAMA Miki さんという日本人ダンサーもいますね。どんなダンスカンパニーかといいますと、

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こんな感じです。

余計なことですが、アクロバティックな動きが得意なマニーシュ・チャウハンさんにはあまりあっていないかもしれないですね。カンパニーのユーチューブチャンネルには最近の動画もあり、マニーシュ・チャウハンさんが踊っているものもあります。コレオグラファーにもよりますが、しなやかな動きが重要視されていたり、人間の内面を身体表現化するような作品が多いですのでチャウハンさんには大変でしょう。動画のチャウハンさんからはあまり生き生きしたところが感じられません。その点では、映画のラストシーンとなっているPCDCの公演でのソロダンスも力強さがありませんし、やはり生き生きしたところがなく実力が発揮されていない印象でした。

インドではダンサーでは食えない…

映画はほとんどチャウハンさんの語りと関係者のインタビューで進みます。

映画化の発案がどこから出たのかはわかりませんが、いずれにしてもこの映画の始まりである、チャウハンさんが B-boyたちのブレイクダンスを見てバク転を練習し始めたという当初から追っているわけではありませんので、前半はチャウハンさんの語りに合わせてそれらしき映像を当てています。

どのあたりから本人を追い始めたのでしょう。思い返してみてもあまりはっきりしませんし、密着して撮っているというシーンは少なかったように思います。ただ、語りに合わせてテンポよく画を入れていく手法がうまくいっていますので見ていて飽きることはありません。

監督はレスリー・シャンパインさんとピップ・ギルモアさんの共同監督となっています。どちらもテレビ番組のドキュメンタリーを多く手掛けている方のようでその点では手慣れたつくりの印象です。

映画としてのポイントは、インドではダンサーとして生活するためにはポリウッドダンサー(というものがあるかどうかはわからないが…)にでもならない限り無理だという点で、映画後半はチャウハンさんがイスラエルやニューヨークにわたりレッスンを積むもののなかなかプロ契約を得ることが出来ない様子を追っています。

チャウハンさんが両親に対して稼げない自分を申し訳なく思うシーンがあります。ただ、さほど切羽詰まっている描き方はされておらず、両親もダンサーを目指すことに反対しているわけではありません。実際、チャウハンさんも妹も大学に行っているわけですし、家庭は裕福ではないにしても中流家庭ということなんでしょう。それに後半になりますと、チャウハンさんのニューヨーク行きを援助するパトロンも現れます。

師弟愛と映画出演…

映画前半は、運命の出会いと言ってもいいくらいその後のチャウハンさんを支えるバレエ教師イェフダ・マオールさんを軸に描かれていきます。

マオールさんはムンバイのダンスカンパニー Navdhara India Dance Theatre のディレクターでありバレエ教師です。チャウハンさんにダンサーとしての素質を見出し、ダンサーとしてやっていきたいのならバレエをやらないとだめだとバレエの基本を教えます。また同時にバレエを始めるには遅すぎるとも言っています。

実際、バレエは3歳くらいから始めなくちゃだめと言われていますので(人によりますので一般論です…)、18歳ではさすがにバレエダンサーを目指すのは難しいでしょう。コンテンポラリー(字幕は文字数のためにコンテなんて略していた…)もバレエの基本を身につけていないとプロへの道は険しいと思います。もちろんこれも人によります。

ところで、映画ではあまり大きく扱われていませんが、マオールさんのもとに、のちにロイヤル・バレエ団のスカラシップ(のようなもの?…)でイギリスへバレエ留学することになるアミルディン・シャー(Amiruddin Shah)さんという男性が入ってきます。というよりも、チャウハンさんよりも先じゃないかと思いますが、ネット上に2017年頃の動画があります。すごいですね、この人、バレーダンサーになるために生まれてみたいな感じです。

現在は Miami City Ballet に所属しているという記事もありますが、サイトにはその気配はありません。どうしちゃったんでしょう。

映画から話がそれてしまっています。それたついでにもうひとつ、後半にチャウハンさんに映画出演の話が舞い込むシーンがありましたが、あれはこのアミルディン・シャーさんの映画であり、彼がスラムから脱してバレエダンサーになるサクセスストーリーのようです。Netflixの製作です。

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チャウハンさんはこの映画で兄役を演じたようです(間違っているかもしれない…)。

軽快なテンポで見やすい映画ではあるけれど…

とにかく、チャウハンさんはマオールさんのサポートのもと、イスラエルのキブツ・コンテンポラリー・ダンスカンパニー(Kibbutz Contemporary Dance Company)に研究生のような立場(多分…)で学んだりしながらプロダンサーへの道を探ります。

まあ、チャウハンさんにとっては就活みたいなものなんだろうと思います。しかし、ダンサーの空きがないということと、確か本人が肌に合わないというようなことを言っていたと思いますが、雇用ということにはならずにムンバイへ戻ってきます。

そんなときに上に書きました映画出演の話が舞い込み、初めてダンスの道で稼いだということになり、母親に小切手を切っていました。

とにかく、映画では語られていないこうした試行錯誤がいっぱいあったんだろうと思います。そして、ニューヨークのペリダンス・コンテンポラリー・ダンスカンパニーでの道が開けたところで映画は終わります。

という、いわゆるサクセスストーリー的な映画です。ただ、まったく盛り上げようとするところもなく、アミルディン・シャーさんとの関係もライバル関係でドラマをつくろうとしたりしていないことは好感が持てる映画ではあります。

気になる点を言えば、本人の語りを軸に描いていますのでマニーシュ・チャウハンさんの表面的な姿しか見えてこず、ドキュメンタリーとしては物足りなくも感じます。両親の本音はどうだったのかとか、パトロンはどうやって見つけたのかとか、映画として突っ込んで描くべきところはいっぱいあります。

なんだかとりとめのないレビューになってしまいました。いずれにしても好感の持てるチャウハンさんではありました。