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ドント・ウォーリー

(ネタバレ)ガス・ヴァン・サント監督らしいスピリチュアルな映画

2019/05/07

ジョン・キャラハンさん、下の引用画像にもカウボーイのイラストがありますが、自動車事故で胸から下が麻痺し車いす生活を送る(っていた)風刺漫画家です。2010年に59歳で亡くなっています。その半生、自動車事故にあってから立ち直り、風刺漫画家として世に出るまでを描いています。

21歳で事故にあい、32歳の時にポートランドの新聞ウィラメットウィーク(Willamette Week)に掲載され始めたようですので、およそ10年くらいが描かれていることになります。

ドント・ウォーリー

ドント・ウォーリー / 監督:ガス・ヴァン・サント

私が知らないだけかも知れませんが、日本での知名度がさほどでもない人物の伝記的映画がある程度の話題性を持って公開されるのは、おそらく、監督がガス・ヴァン・サントスさんであり、また、2014年に亡くなったロビン・ウィリアムズさんがキャラハンさんの自伝『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』の映画化権を得て自らが演じようとしていた(らしい)という話題からでしょう。

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テーマ上そうならざるをえないこともあるのでしょうが、ガス・ヴァン・サント監督ですので極めて真面目な映画です。

ただ、映画は時間軸どおりには進みません。わかりにくくはないのですが、事故にあう前のアルコール依存症の時、事故に合う時、事故後のいくつかの時点がかなり忙しくシャフル編集されています。

その手法によって何を表現しようとしたのかはよくわかりませんが、映画のメリハリはなくなっているように思います。

あるいはこういうことかも知れません。

ひとりの人物を伝記的に描くことよりも、(誰にでもあるだろう)人間の弱さ、酒に溺れたり、自分の不幸を嘆くだけの弱さから、人が立ち直る姿に焦点を当てたかったのかも知れません。

禁酒会のシーンがかなり多いことやドニーという、あまり説明がありませんのでどことなく得体のしれなさが漂う人物の重要度からみればおそらくそれが正解なんでしょう。

物語としてはおおよそ次のようなことです。

いっときもアルコールを手放せない依存症のジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)が、ある時、デクスターという男と知り合い、ともに泥酔したまま車で飲み歩き(走り)、デクスターが居眠り運転したがために事故にあい、一命はとりとめたものの胸から下が麻痺した身体になってしまいます。意識を取り戻した時には顔さえ固定され動かせるのは目(眼球)だけという状態です。

突然(という印象で)アヌー(ルーニー・マーラ)という女性がやってきます。障害者サポートから派遣されたボランティアさんのようでしたが、後々恋人となる女性ですので、映画的には面白い登場のさせ方でした。

キャラハンが診察台に固定され台ごと回転しているときに、つまりキャラハンが下向きになっているときに下から覗き込むように語りかけたり、キャラハンにしてみれば幻想的にも感じるのではないかと思います。その時のアヌーはショートカットですが、その後、登場のたびにヘアースタイルを含めた雰囲気を明確に変化させていました。

その後、キャラハンは退院できるまでになりますが、車椅子生活となりヘルパーの手助けなくしては生活していけません。自暴自棄的にヘルパーにも当たり散らし、アルコール依存症から抜け出すこともできません。

どういう経緯からか描かれていたかどうか記憶にありませんが、ある時から禁酒会に参加し、依存症から抜け出そうと努力し始めます。

そのリーダーのような人物がドニー(ジョナ・ヒル)です。

この人物がよくわからないんですよね。公式サイトには「禁酒会の主催者で、キャラハンの人生の師にして友となる、人生経験を積んだ穏やかなドニー」とあるのですが、遺産でお金はあるらしく、特に何をするでもなく贅沢な暮らしをしているように描かれており、どちらかといいますと聖人=貧乏というイメージがこびりついている(笑)私には、どうしても胡散臭くみえてしまいます。

それに、親しさという意味ではそう感じさせるような描写もなく、キャラハンとの問答にしてもあまり説得力を感じさせるものはなく、老子を持ち出したりしていることも、正直、え?という感じがします。

このドニー、HIV感染しているらしく、ラスト近くに発症したようなことを語っていました。

それはともかくとして、10段階でしたか12段階でしたかの依存症治療プログラムをこなしていったらしく、ほぼ最終局面では、ドニーに、人を許し、そして自分をも許しなさいと、割りと当たり前の教訓的なことを言われ、それを実行します。

子供の頃の教師に会い、生意気だったこと(だったかな?)を謝りますと教師はそんなことよりも君には絵の才能があったと幾度も言われ、無理難題(かな?)をぶつけていた障害者サポートの担当者に謝罪しますと相手も許すと言ってくれ、ヘルパーとも良い関係が築け、そして自分を捨てた母親に対しては、それまでは自分が書いた似顔絵を壁に貼り憎しみをぶつけていたのですが、その似顔絵に向かって許すと語りかけます。

そしてもうひとり、運転していたデクスター、彼は軽症ですんでいたらしく、それだけに罪悪感は強かったのでしょう、キャラハンが会いに行きますと、驚いた様子で、最後はハグさせてくれと涙を流していました。

で、風刺漫画ですが、映画の所々でキャラハンが描く様子やそのイラストが挿入されていますので、以前から書いていたのか、何かの契機に書き始めたのかはわかりませんが、学生新聞に掲載されたことを皮切りに地元の新聞(ウィラメットウィーク?)にも掲載されるようになります。

ただ、かなりブラックですので批判も多かったようで、道行く人に罵声を浴びせられるシーンもありました。

というガス・ヴァン・サント監督らしいスピリチュアルな内容の映画ですが、個人的にはこうした教訓的かつ宗教的なつくりは好みではなく、もっと風刺漫画を生かしたブラックなコメディタッチのほうがよかったなあという(余計な)感想の映画でした。

ああ、もうひとつ、アヌーですが、診察室の初対面からしばらくは登場せず、中頃にこれまた突然といった印象でスカンジナヴィア航空のアテンダントとして制服に帽子姿で登場しびっくり!、その後、恋人となり、長い髪を風になびかせてキャラハンとともに車椅子で走り抜けたり、大人っぽい雰囲気でキャラハンの講演を客席で聞き入ったりするシーンがありました。

「キャロル」以来のルーニー・マーラのファンとしては(笑)、ほぼ視覚的な意味合いのみの登場で、俳優としての良さが出ていませんのでちょっとばかり不満ではありました。

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