アルモドバルプロデュースのクールな美少年犯罪ものを期待するが…
1971年に実際に起きた大胆な犯罪、その犯人の特異性、そしてそれを描くにぴったりの魅力的な俳優、映画を面白くできる要素は揃っています。それに半世紀前に起きた事件ともなれば、如何様にも料理できるはず、なのにどうしちゃったんでしょう?
映画としては中途半端です。
この映画が注目されるのは、引用の画像にもある主演のロレンソ・フェロくんの美少年っぷりからだと思いますが、どうも映画がやろうとしていることが煮え切っていないです。
早い話、その美少年っぷりがまったく生かされていないじゃない、ということです。もちろん、ロレンソ・フェロくんのヴィジュアルはいたるところでフィーチャーされています。でも、それが映画の軸になっていません。仮にこの映画、主役であるカルリートス(ロレンソ・フェロ)が「“マリリン・モンローのような”人を発情させるほどの美貌」じゃなくても何の問題もなく成り立つつくりです。相棒となるラモンでさえ、「発情」もしていませんし、「欲情」もしていません。
こういうことじゃないですかね。
この映画では、しきりにカルリートスの美少年っぷりを強調し、あたかも彼が同性愛的指向を持っているかのように性的なカットを挿入していますが、実在の Carlos Eduardo Robledo Puch にはその性的指向はなく、実話ベースであるがゆえにその一線を越えさせられなかった、ということじゃないでしょうか。
仮にこれが正しいのであれば、国内向け(アルゼンチン)とインターナショナルカットを別に作るべきでしたね。よく知られた(とするなら)事件であるがゆえに創作にも一定程度の(心理的)制限がかかったのかもしれません。
ところで、この映画、製作にペドロ・アルモドバルさんがクレジットされ、彼の会社の製作になっています。実は、過去にもこの映画と同じようにアルゼンチンの監督で製作し、(私は)同じような感想を持った映画あります。
この「エル・クラン」、アルゼンチンの犯罪もので実話ベース、アルモドバルさんの会社の製作でアルゼンチンの監督が撮っています。
で、この映画と同じように「中途半端」と感想を書いています。
似たようなつくりの映画のどちらにも(私が)中途半端と感じたからといって何か意味があるわけではありませんが、映画の出来がどうこうは別にして、アルモドバル兄弟の映画制作(製作)会社「El Deseo」のアルゼンチン映画業界に対する何らかの関わりが関係しているのかもしれません。
話を映画に戻しまして、ウィキペディアにある、モデルとなった Robledo Puch の写真をみますと、もっとクールで、もっと軽やかに犯罪を犯す人物にしたほうが面白くなったように思います。
なにせ1971年の話なんですから、もっと刹那的で、もっと破滅的な生きざまのほうが合いそうです。
物語は、まるで息をするように犯罪を犯し、人を殺すカルリートス(実話では)19歳から20歳くらいの逮捕されるまでの一年間が描かれます。
冒頭、くわえタバコのカルリートスが歩いてきます。ふっと横を見たかと思いますと、迷うことなくその垣根を越えて入っていきます。警戒のけの字もなく、開いている窓から侵入し、家の酒を飲み、宝石類を盗み、レコードプレイヤーで音楽を掛け踊り、ガレージに向かうと何台もある高級車には目もくれず(理由はわからないが目立つから?)バイクを盗んで家に戻ります。
このシーン、あまり魅力的ではありません。もっとなんとかできそうなんですが、あるいは俳優の問題かもしれません。
で、カルリートスが家に戻りますと、母親がバイクのことを怪訝な顔で尋ねます。カルリートスは友達から借りたと答えます。
このカルリートスの両親も登場回数の割に人物像がはっきりしません。子どものことを心配しているのか、無関心なのか(そうは見えないけど)、そこらあたりもツッコミが足りません。ごく一般な人物として描いているのでしょうが、一般的であることは何もしないことではありません。
カルリートスは学校でラモンと出会い、自ら接近していきます。このラモン一家は泥棒家族なんですが、これも何だか、ああそうなの、へえ、みたいな感じでメリハリも何もあったものではありません。
という感じで、ラモンと一緒に泥棒稼業がエスカレートし、銃砲店や宝石店に泥棒に入り、時に人も殺したりします。この殺人シーンも、ああ、撃っちゃったのね、という感じであっさりしています。それこそ息を吸うようにという、何の特別感もないということなんでしょうが、映画ってそういうもんじゃないでしょう。メリハリは必要でしょう。
メリハリがないので細かく記憶していませんが、ある時二人が警察の検問にあい、ラモンが身分証を持っていなかったために拘束されます。カルリートスは所長への賄賂を家に取りに行くといって解放され、実際大金を持って戻りますが、なぜか警察署の前で引き返してしまいます。
後に、なぜ戻ってこなかったと責めるラモンに、罠だと思ったとか言っていましたが、これも、見ていてもよくわかりません。罠だったとの説明的なものがあるわけでもありませんし、なぜ警察署まで行って引き返したかの説明的なものもありません。
とにかく、メリハリなくだらだら続きます(クドい!)。
時間が飛んで、ラモンと再会しますと、すでにラモンには別の相棒がいます。
カルリートスとラモンが車で走っています。突然カルリートスがハンドルを切り、対向車と正面衝突します。ラモンは死にます。はあ?
カルリートスはラモンの相棒だった男と組みます。以前ラモンと侵入した宝石店に再び侵入し、その時心残りだった金庫をバーナーで破ります。しかし、中は空っぽです。
カルリートスは動じることはありませんが、その時のちょっとしたいざこざで相棒の男を撃ち殺してしまいます。
このあたりになると細かいところはまったく記憶できていませんが、警察に追われることになったかルリートスはラモン一家の家に行きますが、もう誰もいません。母親に電話をします。電話を受けた母親のまわりには警官が部屋中を埋めています。ここはちょっと笑いました。
で、警察がラモンの家を包囲し、カルリートスは逮捕されます。
やっぱりこれはクールなサイコパス系の犯罪者として描いたほうが面白いですね。あるいは、カルリートスの美少年っぷりを軸に据えるのであれば、あんな中途半端な描写ではなく、男も女もなぜか惹きつけられてしまう悪魔的な人物として描くべきでしょう。
誰が歌っているバージョンかはわかりませんでしたが「朝日のあたる家」とか、ジリオラ・チンクェッティとか懐かしい曲が流れていました。
サントラがありました。
アルモドバル監督の「Dolor y gloria」はいつ公開されるんでしょう?