バングラディッシュの天才チェス少年、パリに渡る
貧しい家庭の少年がチェスで成功する感動物語なんだろう程度の認識で見に行きましたら、確かにそれはそうだったんですが、映画のつくりになにかしっくりこないものを感じた映画でした。
何がしっくりこないかと言いますと、まず感動物語にしようとしているのかどうなのかがはっきりせず中途半端です。映画の展開は完全に感動ものなのにそれがうまくできずいるのか、そうすることに抵抗があるのかとても気持ち悪いです。
そして、ファヒムは難民なのかどうなのかがはっきりせず、これもどう描きたいのかがはっきりしません。バングラディッシュからパリへ向かうシーンはトントン拍子に進みます。まずインドへの国境も難なく越えてインドから飛行機でパリへ渡ることももう少しなぜそれが可能かをきっちり描くべきでしょう。
もうひとつ、当然チェスのシーンが多くなるのは仕方ないにしてもチェスを知らないものにはつまらないシーンが多すぎます。チェスの先生にも独自の物語があるようですがその描写をかなり中途半端です。
実話ベースということが映画的によくない方に出ているのかも知れません。
モデルとなっているファヒム・モハンマドさん、2000年生まれの現在20歳の方で公式サイトのインタビューによりますと「Un roi clandestine」という本人の自伝的な本なのかどうかよくわかりませんが、その本が映画のベースになっているようです。
映画の冒頭、バングラディッシュでの反政府運動のシーンがあり、ファヒムの父親も参加していたと描かれています。また、出国した理由にその父親の行動と絡めてファヒムがチェスの大会で優勝したために注目され襲われるようになったと、実際に路上でファヒムが襲われる(誘拐される?)かも知れないと見せるようなシーンを入れています。
その手法も冒頭のシーンだけではよくわからず、パリに渡った後のフラッシュバックでそれらを説明的に入れています。亡命なら亡命すべき状況を冒頭のシーンの中で描けばいいように思います。
ただ実際には、フランス行きを決心するあたりも反政府活動による迫害をうけているようではなく、ファヒムのチェスの才能を活かすべくフランス行きを選択したようでもあります。
映画的には迫害をうけて出国したとしたいのにそれですと事実に反するところがある、そうしたつくり手の意識が見え隠れしているのではないかという感じがします。
もっとすっきりハリウッド的作法で感動物語にすべき物語だったのではないかと思います。それに最近日本で公開されるフランス映画にはハリウッドっぽいものもありますので思い切ればよかったのではないでしょうか。
チェスの先生をジェラール・ドパルデューさんが演じており、ファヒムのライバルの先生との因縁が何かあるようでしたが、これも何やらはっきりせず中途半端です。
そもそもその因縁自体が創作だと思いますのでいっそのこともっとファヒムの対戦に絡めてドラマ仕立てにすべきでしょう。
チェス教室のオーナーのような女性にも個人的な感情があるように見せていますがこれも中途半端です。
ということで、結局実話にとらわれすぎて映画としての方向性をきっちりまとめられなかったということではないでしょうか。
チェスのシーンももう少しなにか効果的に見せる方法を工夫すべきでしょう。
いずれにしても、この物語ならどう考えてもきっちり感動物語にすべきだと思います。
え? 感動した?