THE GUILTY ギルティ

会話は電話のみ、電話の向こうに見えたのは…自分?

登場人物(実質的に)ひとり、ワンシチュエーション、会話は電話のみ、といいますと「オン・ザ・ハイウェイ」という映画がありました。あの映画では常に後ろへ流れる夜景という心象的な風景が多用されていましたが、この映画は緊急通報センター(正式名称は?)というほぼ密室状態ですので、ほとんどすべてが主人公アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)を捉えたカットで進行します。

その意味では、演劇の「一人芝居」に近い印象の映画です。

ギルティ

ギルティ / 監督:グスタフ・モーラー

かなりよくできた映画で、最初の1/4くらいで映画の枠組みを提示すると同時に主人公アスガーの抱える問題を適度に暗示して惹きつけておき、続いて本題の誘拐事件を小出しにして想像力を掻き立てて引っ張り、そして最後の1/4くらいでああそういうことだったのねときっちりと落としてくれます。

ただ、よくできているがゆえということもありますし、また、誘拐事件といい、アスガーの抱える問題といい、ある種特殊な問題ですので、おそらく、見る者がそこに自分の気持を重ねるといったようなことはなく、面白かったねで終わってしまうかもしれません。

アスガーは、ヘッドセットをつけモニターを前にして緊急通報を待っています。本題である誘拐事件の通報の前に麻薬常習者からの通報に対処することでアスガーの仕事の内容を見せています。

最初は日本の110番のようなものかと見ていましたので若干違和感があったのですが、いちいち通報電話を切って警察に電話していましたので次第に警察とは違うことがわかってきます。今調べましたら112番は通報内容によって警察や消防にまわす部署のようです。

電話が入りますとモニター発信者の位置が中継局からの円で表示され、同時に電話の所有者の名前や住所が表示されます。

日本でも警察への電話は非通知にしても番号は表示されるらしいのですが、EUでは携帯キャリアが所有者情報を提供するんでしょうか? 映画を見た限りでは無条件で提供しているということになります。怖いですね…。

通報を受けたアスガーが警察に電話をしますと出たのが元上司らしく、つまり、アスガーはもとは現場の警察官であり、何らかの理由で、望んでもいない今の職場緊急通報センターにいることがわかります。

今度は、アスガーの携帯がブルブルします。相手は新聞の記者で、アスガーに明日何かがあり、そのための取材をしようとしているようです。アスガーの受け答えや表情からはそれは望んでいることではなくアスガー自身神経質になるようなことのようです。

  

そして、本題のイーベンを名乗る女性から電話が入ります。アスガーはその経験から直感的に事件性を感じ取り、男が運転する車で移動中であり、子供に電話をするふりをして通報していることを理解し、誘拐拉致事件と判断します。

最初によくできた映画と書きながらこんなことを言うのもなんですが(笑)、この最初の電話あたりでは結構妙な違和感を感じていました。あんな電話を許す誘拐犯っているのかな? とか、アスガーは他の職員と情報共有しないのかな? とか…。

でもそれらはラストのオチまでいけば、あああり得るかもねとわかります(笑)。

つまりこの映画は、誘拐事件の顛末を描くことが本筋ではなく、アスガー自身は正しいと思いこんでやっていることが実はアスガーの独りよがりであり、思い込みが本質を見誤らせているということを見せているのであり、あるいはそれは誰にでもあることかもしれないという(ところまで映画はいっていないけど…(笑))ことだと思います。

で、誘拐事件ですが、アスガーは警察に電話をし、イーベンから得た断片的な車の情報で緊急手配を依頼します。しかし見つかりません。

一方、アスガーがイーベンの自宅に電話をしますと娘が出ます。娘はパパが刃物を持ってママと出ていったこと、そして2階には弟がいると言います。アスガーは、娘に弟の傍にいっていなさいと告げ、再び警察に電話を入れて娘たちの保護を依頼します。

アスガーはイーベンが夫に拉致されていると判断したにもかかわらず周りの同僚に応援を頼もうともしません。逆に別室にひとり移動し、ブラインドまで下ろして閉じこもってひとりで解決しようとします。

さすがにこの行為はありえないよねとは思いますが、実はアスガーが抱えている問題とは、職務中に少年を射殺した事件で正当防衛を争っており、明日の裁判で相棒が証言をすることになっているのです。

このあたりの展開、なにか変だなあと思い始める頃、ちょうど頃合いを見計らって(笑)、アスガーが自分の携帯で相棒に電話を入れるシーンを入れています。相棒は飲んでいるようで、明日の証言について間違えそうだと動揺しています。ただ、この時点では単なる証言をすることからの緊張なのか、あるいは他に(ってひとつしかありませんが)不安があるのかははっきりさせてはいません。

それはともかく、アスガーは娘から得た情報で相棒を夫の家に向かわせます。

といった感じで、映像はアスガーが電話を受けたり電話したりと特別印象的なシーンがあるわけではないのですが、シナリオがうまくできているのか、なんか変だなと思いつつも割と飽きずに見られます。夫の電話番号も調べて電話していましたね、あれも、え? ことが悪い方へいく心配はないの? と思いはしましたが、結果として気にならずに進んでいました。

考えてみれば不思議な映画ですね、穴は多いんですが、結果としてうまく収まっています。映画としてのバランスがよかったということでしょうか。

自分の記憶のためにもその後を簡単にまとめておきますと、イーベンの家から電話があり、娘が誰か来たと言い、おまわりさんだからと入れさせ、警官に2階に向かわせます。警官がずたずたに切り裂かれた弟を発見します。

イーベンとの電話、イーベンにシートベルトをしてサイドブレーキを引けと指示します。

うまく行かなかったようで再びイーベンとの電話、貨物室に入れられたと言います。扉が開いたら、周りにあるもの、レンガ(夫はレンガ職人)で思い切り殴れと指示します。

イーベンを落ち着かせるためにしばらくおしゃべりをします。食べ物は何が好きだ? 普段何して過ごす? などと他愛のない話をするうちに、アスガーのことをあなた好きよと言い、息子のことを話し始めます。

息子の中には蛇がいていつも泣きじゃくるの。だから私が取り除いてあげたの。夫にはもう大丈夫って言ったのに。

車の開く音がし、レンガが振り下ろされ、電話は切れます。

呆然とするアスガー。携帯がなります。相棒が夫の家から、犯罪歴のために夫は親権を失っていること、妻イーベンには精神病院の入院歴があることを伝えます。

アスガーは相棒に明日の証言では嘘はつかなくていいと言います。相棒は混乱して、もうすでに嘘をついている、いまさら変えられないと言います。

イーベンから電話が入ります。私が息子を殺したの?と尋ねます。アスガーは周りの音からイーベンが橋の上にいて飛び降りようとしていると感じ、同僚に緊急手配を頼みつつ、話を続けます。

このあたりを言葉で説明するのは難しいのですが、イーベンの動揺を抑えようと、また自分の犯した間違いへの後悔から、少年射殺事件について、少年は間違いを犯したがあれは正当防衛ではなかった、自分は人を殺したと告白し、イーベンに娘が待っている、君に愛されることを待っている人がいると言います。電話は切れます。

駆けつけた警官からイーベンを確保したと連絡が入ります。

アスガーは同僚たちが見つめる中、ひとり部屋を出ていきます。誰かに電話をするシルエットで終わります。

家を出ていった(と言っていた)妻でしょうか…、少年の家族でしょうか…。 

という映画です。やはり、よくできた映画だとは思いますが心に残ることはないでしょう。